スレURL:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1498489754/
シリーズ一覧第1作【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」
第8作【モバマス時代劇】神谷奈緒 & 北条加蓮「凛ちゃんなう」
読み切り
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
【デレマス時代劇】土屋亜子「そろばん侍」
【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」
【デレマス銀河世紀】双葉杏「ボーン オブ ドラゴン」
【デレマス近未来】岡崎泰葉「Killing Hike」
【デレマス時代劇】城ヶ崎美嘉「姉妹剣 水鏡」
【デレマス近代劇】クラリス「怨霊血染めの十字架」
【デレマス現代劇】大和亜季「私の戦場」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:23:38.68 ID:9RdRMGJU0
【デレマス現代劇】大和亜季「私の戦場」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:24:37.17 ID:9RdRMGJU0
大和亜季には自信があった。
アイドルとして成功する自信が。
しかし、いざ飛び込んだアイドル業界は、まさに戦場であった。
亜季や他のアイドルは、プロダクションの兵士に過ぎなかった。
予め緻密に組み上げられたレッスン、
バラエティでの立ち振る舞い、ファンへのサービス。
それらの履行は、軍隊における命令系統の遵守と同義であった。
アイドルとして成功する自信が。
しかし、いざ飛び込んだアイドル業界は、まさに戦場であった。
亜季や他のアイドルは、プロダクションの兵士に過ぎなかった。
予め緻密に組み上げられたレッスン、
バラエティでの立ち振る舞い、ファンへのサービス。
それらの履行は、軍隊における命令系統の遵守と同義であった。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:25:31.76 ID:9RdRMGJU0
しかしだからこそ、大和亜季はアイドルとして相応しかった。
彼女は日常の曖昧さにうんざりしていた。
ウケる。たのしい。
すごい。ヤバイ。
よかったね。がんばって。
意味消失した言葉の群。
その中で生きるのは、亜季にとって堪え難い苦痛だった。
それに対して、アイドルはなんと明確なことだろうか。
踊れ。歌え。
こうやって話せ。ここは黙れ。
ファンの数はこうだ。CDやライブの売り上げはこれくらいだ。
甘えや馴れ合い、解釈の違いなどは一切存在しない。
必要なのは、規律を守るか、守れるだけの努力をすることだけ。
大和亜季にとって天職であるといっても過言ではなかった。
彼女は日常の曖昧さにうんざりしていた。
ウケる。たのしい。
すごい。ヤバイ。
よかったね。がんばって。
意味消失した言葉の群。
その中で生きるのは、亜季にとって堪え難い苦痛だった。
それに対して、アイドルはなんと明確なことだろうか。
踊れ。歌え。
こうやって話せ。ここは黙れ。
ファンの数はこうだ。CDやライブの売り上げはこれくらいだ。
甘えや馴れ合い、解釈の違いなどは一切存在しない。
必要なのは、規律を守るか、守れるだけの努力をすることだけ。
大和亜季にとって天職であるといっても過言ではなかった。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:26:56.25 ID:9RdRMGJU0
だが現在の彼女は控えめに言って、弱小の、色物だった。
容姿は良い方だ。体力もある。根性もある。
歌はまだ改善の必要があるが、それは時間が解決してくれる。
キャッチーな特徴もある。
それなのに、何故彼女は成功できないのか?
私の訓練不足。
彼女ははじめそう考えたが、
オーバーワークはむしろ逆効果だと、すぐに否定した。
本当に亜季を覆い隠してしまうのは、美城プロダクション、
およびアイドル業界という同じブタイ(部隊/舞台)にいる人間。
仲間であるようで、不倶戴天の敵。
亜季は1人のアイドルを思い浮かべた。
容姿は良い方だ。体力もある。根性もある。
歌はまだ改善の必要があるが、それは時間が解決してくれる。
キャッチーな特徴もある。
それなのに、何故彼女は成功できないのか?
私の訓練不足。
彼女ははじめそう考えたが、
オーバーワークはむしろ逆効果だと、すぐに否定した。
本当に亜季を覆い隠してしまうのは、美城プロダクション、
およびアイドル業界という同じブタイ(部隊/舞台)にいる人間。
仲間であるようで、不倶戴天の敵。
亜季は1人のアイドルを思い浮かべた。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:27:22.25 ID:9RdRMGJU0
宮本フレデリカ。
大和亜季とは真逆の性格で、成功を掴んだ少女だ。
大和亜季とは真逆の性格で、成功を掴んだ少女だ。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:29:57.34 ID:9RdRMGJU0
遅刻。無断欠勤。指示の無視。
突発的に始まるアドリブ。
本物の軍隊であれば、除隊どころか銃殺刑に処されてもおかしくない。
フレデリカの勝手が罷り通るのは、
一重に、彼女が成功しているからだ。
しかしその成功が、いかなるプロセスに基づいて起こったのか、
亜季には皆目検討もつかなかった。
美城プロダクションが作り上げてたマニュアルは、
芸能界における成功の鍵とほぼ同等である。
その証拠に、多数の美城アイドルが業界を席巻している。
所属しているプロデューサー、トレーナーも、
アイドル達の信用を得た上で、彼女達を成功させる傑物ばかり。
これらを踏み散らして、
なぜ宮本フレデリカはアイドルとして勲章を得るのか?
突発的に始まるアドリブ。
本物の軍隊であれば、除隊どころか銃殺刑に処されてもおかしくない。
フレデリカの勝手が罷り通るのは、
一重に、彼女が成功しているからだ。
しかしその成功が、いかなるプロセスに基づいて起こったのか、
亜季には皆目検討もつかなかった。
美城プロダクションが作り上げてたマニュアルは、
芸能界における成功の鍵とほぼ同等である。
その証拠に、多数の美城アイドルが業界を席巻している。
所属しているプロデューサー、トレーナーも、
アイドル達の信用を得た上で、彼女達を成功させる傑物ばかり。
これらを踏み散らして、
なぜ宮本フレデリカはアイドルとして勲章を得るのか?
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:31:07.51 ID:9RdRMGJU0
たしかに、セオリーは成功を確約するものではない。
それは亜季が知る軍人達が証明している。
バグパイプと長剣、それから弓矢で第二次世界大戦を駆け抜けた男。
銃弾飛び交う中ロッキングチェアでくつろぎながら、ソビエトの大軍を抑えた指揮官。
上官に噛み付き、敵の戦闘機だけでなく自身の乗機も破壊して、
それでも英雄と呼ばれたパイロット。
彼らを、亜季は尊敬している。
だが彼らとて、あくまで軍規の範疇でスタンドプレーをしたに過ぎない。
亜季は、自分が大和亜季というアイドルであることを懸けて、
宮本フレデリカを認めるわけにはいかなかった。
それは亜季が知る軍人達が証明している。
バグパイプと長剣、それから弓矢で第二次世界大戦を駆け抜けた男。
銃弾飛び交う中ロッキングチェアでくつろぎながら、ソビエトの大軍を抑えた指揮官。
上官に噛み付き、敵の戦闘機だけでなく自身の乗機も破壊して、
それでも英雄と呼ばれたパイロット。
彼らを、亜季は尊敬している。
だが彼らとて、あくまで軍規の範疇でスタンドプレーをしたに過ぎない。
亜季は、自分が大和亜季というアイドルであることを懸けて、
宮本フレデリカを認めるわけにはいかなかった。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:32:28.31 ID:9RdRMGJU0
「敵地に侵入…斥候を開始するであります」
そう呟いたあと、亜季は苦笑した。
場所は、美城プロダクションが所有するライブハウス。
今日の主役は宮本フレデリカを擁するLiPPSだ。
リーダーは速水奏。
戦略的にはともかくとして、
戦術的に見て相応な人選だと、亜季は考える。
まずフレデリカは論外。
城ヶ崎美嘉は、個人としてユニット内では最高の成功を収めているが、
他のアイドル達を牽引しうる強引さがない。
塩見周子はバランスが取れているように見えて、
実のところ他人に干渉するほどの積極性、あるいは余裕がない。
一ノ瀬志希は、カリキュラムこそ要領よく消費するが、本質的にはフレデリカの同類。
彼女達に染められないほどの個性があり、かつ彼女達を率いるだけの
成熟した精神を持っているのが、速水奏というアイドルだ。
そう呟いたあと、亜季は苦笑した。
場所は、美城プロダクションが所有するライブハウス。
今日の主役は宮本フレデリカを擁するLiPPSだ。
リーダーは速水奏。
戦略的にはともかくとして、
戦術的に見て相応な人選だと、亜季は考える。
まずフレデリカは論外。
城ヶ崎美嘉は、個人としてユニット内では最高の成功を収めているが、
他のアイドル達を牽引しうる強引さがない。
塩見周子はバランスが取れているように見えて、
実のところ他人に干渉するほどの積極性、あるいは余裕がない。
一ノ瀬志希は、カリキュラムこそ要領よく消費するが、本質的にはフレデリカの同類。
彼女達に染められないほどの個性があり、かつ彼女達を率いるだけの
成熟した精神を持っているのが、速水奏というアイドルだ。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:33:09.82 ID:9RdRMGJU0
だが、目の前で起こっているフレデリカと志希の暴走を見ていると、
亜季は彼女に同情しか湧いてこなかった。
奏は、チームプレイ上では自分の役割を全うしている。
それゆえ、完全に他のメンバーに、
特にフレデリカや志希の影に隠れてしまっている。
本来プロデューサーや演出監督が裏でやるべき仕事を、
奏が代行しているからだ。
ステージ上での暴走を止められるのは、彼女だけ。
一方のファンは、むしろ暴走を望み、楽しんでいる節がある。
「間違っているであります…」
最前席で双眼鏡を覗き込みながら、亜季は呟いた。
亜季は彼女に同情しか湧いてこなかった。
奏は、チームプレイ上では自分の役割を全うしている。
それゆえ、完全に他のメンバーに、
特にフレデリカや志希の影に隠れてしまっている。
本来プロデューサーや演出監督が裏でやるべき仕事を、
奏が代行しているからだ。
ステージ上での暴走を止められるのは、彼女だけ。
一方のファンは、むしろ暴走を望み、楽しんでいる節がある。
「間違っているであります…」
最前席で双眼鏡を覗き込みながら、亜季は呟いた。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:33:47.07 ID:9RdRMGJU0
ある時、亜季は奏とトレーニングルームで出会った。
同じ時間に基礎体力訓練が入ったのだ。
「あ、あのぅ・・・」
亜季は、おずおずと奏に声をかけた。
相手は飛ぶ鳥落とす勢いのアイドルだ。
亜季は権威というものに対して、滅法気が弱かった。
同じ時間に基礎体力訓練が入ったのだ。
「あ、あのぅ・・・」
亜季は、おずおずと奏に声をかけた。
相手は飛ぶ鳥落とす勢いのアイドルだ。
亜季は権威というものに対して、滅法気が弱かった。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:35:27.74 ID:9RdRMGJU0
「あら、亜季じゃない」
「わ、私の名前をご存知で!?」
「当然よ。同じプロダクションの仲間だもの」
「身に余る光栄であります・・・」
小さく小さく縮こまる亜季に、奏は苦笑した。
「それで、私に何か用?」
「あ! えっと……
速水さんは、フレデリカ殿についてどう思われますか」
“殿”に若干のアクセント付けながら、亜季は言った。
奏は即答した。
「わ、私の名前をご存知で!?」
「当然よ。同じプロダクションの仲間だもの」
「身に余る光栄であります・・・」
小さく小さく縮こまる亜季に、奏は苦笑した。
「それで、私に何か用?」
「あ! えっと……
速水さんは、フレデリカ殿についてどう思われますか」
“殿”に若干のアクセント付けながら、亜季は言った。
奏は即答した。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:36:31.22 ID:9RdRMGJU0
「問題児よ。
レッスンはサボタージュするし、
進行は守らないし、
何を考えてるのか、時々分からないし。
志希の方がまだ大人しく見えるわ」
奏はくすりと笑った。
彼女はLiPPSでの活動を純粋に楽しんでいるようだった。
亜季は、そのフレデリカ殿のせいで、とは言えなかった。
代わりに、フレデリカの魅力について、奏に尋ねた。
「フレデリカの魅力…うーん…そうねえ」
奏は、濡れるように艶めいた唇に指を当てた。
「強さ、かな」
「強さ?」
「それ以外に、彼女に似合う言葉は見つからないわ」
亜季個人の印象としては、フレデリカは軟派で軽薄。
奏の言葉は理解しかねた。
「それは、フレデリカ殿がアイドルとして、ということでありますか」
「アイドルとして…たしかにそうなんだけど、そこを区別するのは、
私にはちょっと難しいかな」
レッスンはサボタージュするし、
進行は守らないし、
何を考えてるのか、時々分からないし。
志希の方がまだ大人しく見えるわ」
奏はくすりと笑った。
彼女はLiPPSでの活動を純粋に楽しんでいるようだった。
亜季は、そのフレデリカ殿のせいで、とは言えなかった。
代わりに、フレデリカの魅力について、奏に尋ねた。
「フレデリカの魅力…うーん…そうねえ」
奏は、濡れるように艶めいた唇に指を当てた。
「強さ、かな」
「強さ?」
「それ以外に、彼女に似合う言葉は見つからないわ」
亜季個人の印象としては、フレデリカは軟派で軽薄。
奏の言葉は理解しかねた。
「それは、フレデリカ殿がアイドルとして、ということでありますか」
「アイドルとして…たしかにそうなんだけど、そこを区別するのは、
私にはちょっと難しいかな」
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:36:57.51 ID:9RdRMGJU0
奏はにっこりと、亜季に微笑みかけた。
亜季は、被弾した、被弾した、と内心で呟いた。
その動揺のせいか、彼女は三度目の質問を、
随分露骨なものにしてしまった。
だが、それにも奏の表情は変わらなかった。
「他の子の輝きで速水奏が見失われてしまうなら、そこが私の限界よ」
あなただって十分強い。
そう伝える勇気が、この時の亜季にはなかった。
亜季は、被弾した、被弾した、と内心で呟いた。
その動揺のせいか、彼女は三度目の質問を、
随分露骨なものにしてしまった。
だが、それにも奏の表情は変わらなかった。
「他の子の輝きで速水奏が見失われてしまうなら、そこが私の限界よ」
あなただって十分強い。
そう伝える勇気が、この時の亜季にはなかった。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:37:58.36 ID:9RdRMGJU0
数ヶ月後、亜季にとって転機が訪れた。
美城アイドルの頂点に君臨する、高垣楓のビッグライブ。
そこで公開されるのは、
今までの、おっとりとしたイメージを打ち破る激しい曲。
旧来のサポートメンバーは、
高垣楓と同じようなイメージを持つアイドルで構成されていた。
新曲で全員入れ替えるという意見が出たが、
それは各々のプロデューサーの尽力によって回避された。
しかし、舵取りの激しさに投げ出されるアイドルが数名出た。
その穴は、入れ替えで予定されていたメンバーによって埋められた。
美城アイドルの頂点に君臨する、高垣楓のビッグライブ。
そこで公開されるのは、
今までの、おっとりとしたイメージを打ち破る激しい曲。
旧来のサポートメンバーは、
高垣楓と同じようなイメージを持つアイドルで構成されていた。
新曲で全員入れ替えるという意見が出たが、
それは各々のプロデューサーの尽力によって回避された。
しかし、舵取りの激しさに投げ出されるアイドルが数名出た。
その穴は、入れ替えで予定されていたメンバーによって埋められた。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:39:55.92 ID:9RdRMGJU0
たった1つの席を残して。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:40:33.22 ID:9RdRMGJU0
ライブでは、高垣楓というアイドルの多様さを、
歌とダンスで表現するのだという。
イントロは穏やかなジャズ調。
ここだけは、エレクトリック・アコースティックギターが主役だ。
サポートの動きは、ゆったりとしたウォークで
中心からサイド・バックに移動。
しかしAメロで歌が始まるのと同時に、ベースとアップテンポかつ
変則的なシンセサイザーが滑り込んでくる。
ここでサイドダンスが急変。ツーステップで静寂を断ち切り、
Bメロからはストップ&ゴーとパドブレに別れる。
ここまでは、バックは目立った動きはしない。
歌とダンスで表現するのだという。
イントロは穏やかなジャズ調。
ここだけは、エレクトリック・アコースティックギターが主役だ。
サポートの動きは、ゆったりとしたウォークで
中心からサイド・バックに移動。
しかしAメロで歌が始まるのと同時に、ベースとアップテンポかつ
変則的なシンセサイザーが滑り込んでくる。
ここでサイドダンスが急変。ツーステップで静寂を断ち切り、
Bメロからはストップ&ゴーとパドブレに別れる。
ここまでは、バックは目立った動きはしない。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:41:22.29 ID:9RdRMGJU0
しかしサビに入ると、弾丸のように位置を入れ替え、
バックメンバーがサイドでブレイク、
サイドメンバーがバックで
ゆったりと泳ぐようなウォークを行う。
1番と2番の間奏は全体をチャールストンで統一。
2番ではドラムがパートに入り、Bメロから開始。
今度はサイドの動きが落ち着き、バックが激しくなる。
サビでは再びメンバーの位置を変えて、
一番のイントロおよびA・Bメロと同じ場所に戻らせる。
Cメロからはサポートメンバーが2人1組で
放射状に舞台に広がり、ギター以外はフェードアウト。
最後のアウトロでメンバーが抱き合う。
バックメンバーがサイドでブレイク、
サイドメンバーがバックで
ゆったりと泳ぐようなウォークを行う。
1番と2番の間奏は全体をチャールストンで統一。
2番ではドラムがパートに入り、Bメロから開始。
今度はサイドの動きが落ち着き、バックが激しくなる。
サビでは再びメンバーの位置を変えて、
一番のイントロおよびA・Bメロと同じ場所に戻らせる。
Cメロからはサポートメンバーが2人1組で
放射状に舞台に広がり、ギター以外はフェードアウト。
最後のアウトロでメンバーが抱き合う。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:42:17.34 ID:9RdRMGJU0
ダンスの作案者の1人である小松伊吹が、
候補達に一連の流れを説明した後、手本を見せた。
皆が絶句した。レベルが違いすぎる。
しかもオーディションでは、全てパートにおける動きを見るために、
曲を4回ほど繰り返す。
休憩は短く、全体時間は20分。
ほとんど休むことなく踊り続けることになる。
このような過酷な調整の理由を、亜季は知らない。
知ろうとも思わない。
だが、さすがに通常のレッスンで消化できる課題ではなく、
掟破りのオーバーワークに手を染めることになった。
幸いにして体力は有り余るほどある。
そして、皮肉なことに習得にかける時間もたっぷりあった。
候補達に一連の流れを説明した後、手本を見せた。
皆が絶句した。レベルが違いすぎる。
しかもオーディションでは、全てパートにおける動きを見るために、
曲を4回ほど繰り返す。
休憩は短く、全体時間は20分。
ほとんど休むことなく踊り続けることになる。
このような過酷な調整の理由を、亜季は知らない。
知ろうとも思わない。
だが、さすがに通常のレッスンで消化できる課題ではなく、
掟破りのオーバーワークに手を染めることになった。
幸いにして体力は有り余るほどある。
そして、皮肉なことに習得にかける時間もたっぷりあった。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:43:03.77 ID:9RdRMGJU0
亜季は、レッスンルームでフレデリカと鉢合わせた。
彼女、あるいは彼女のプロデューサーも、
楓のサポートを狙っているらしい。
しかしフレデリカはダンスの練習をするでもなく、
床に寝っ転がっていた。
「フレデリカ殿。
練習をしないなら出て行って欲しいであります」
亜季は冷然と、そう告げた。
フレデリカはエメラルドブルーの瞳で、
じいーっと亜季を見た。
彼女、あるいは彼女のプロデューサーも、
楓のサポートを狙っているらしい。
しかしフレデリカはダンスの練習をするでもなく、
床に寝っ転がっていた。
「フレデリカ殿。
練習をしないなら出て行って欲しいであります」
亜季は冷然と、そう告げた。
フレデリカはエメラルドブルーの瞳で、
じいーっと亜季を見た。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:44:33.99 ID:9RdRMGJU0
「亜季ちゃんだよね?」
「私が亜季ちゃんであります」
フレデリカは立ち上がって、伸びをした。
「いつもの亜季ちゃんじゃな〜い」
その言葉を聞いて、亜季のこめかみがひくついた。
「いつもの私?
フレデリカ殿と私は、
そこまで親密な間柄ではなかったと記憶しておりますが」
「プロダクションのみんなのことなら、大体わかるよ〜♪」
くりくりと瞳を動かしながら、フレデリカが言った。
彼女はやはり、亜季には苦手にとって人間だった。
要領を得ない。何が言いたいのかはっきりわからない。
「それでは、今の私がいつもの私とどう違うのでありますか?」
語気を強めて亜季は尋ねた。
「ん〜、亜季ちゃんきっと怒るから言わな〜い♪」
後ろ手を組んで、フレデリカが笑う。
悪意もごまかしもない、愛らしい笑顔だった。
亜季は何も返さず、ダンスの練習を始めた。
「私が亜季ちゃんであります」
フレデリカは立ち上がって、伸びをした。
「いつもの亜季ちゃんじゃな〜い」
その言葉を聞いて、亜季のこめかみがひくついた。
「いつもの私?
フレデリカ殿と私は、
そこまで親密な間柄ではなかったと記憶しておりますが」
「プロダクションのみんなのことなら、大体わかるよ〜♪」
くりくりと瞳を動かしながら、フレデリカが言った。
彼女はやはり、亜季には苦手にとって人間だった。
要領を得ない。何が言いたいのかはっきりわからない。
「それでは、今の私がいつもの私とどう違うのでありますか?」
語気を強めて亜季は尋ねた。
「ん〜、亜季ちゃんきっと怒るから言わな〜い♪」
後ろ手を組んで、フレデリカが笑う。
悪意もごまかしもない、愛らしい笑顔だった。
亜季は何も返さず、ダンスの練習を始めた。
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:46:29.84 ID:9RdRMGJU0
オーディションは一回きり。
候補達が20人ごとのグループで、一斉にダンスを始める。
亜季は最終グループ。
フレデリカは、最初のグループにいた。
候補達はミスを連発した。
無理もない。
技術面でも駆け出しアイドルには似つかわしくないのに、
それが4回。初めに余裕を見せていた候補生も、最後で心が折れる。
20分が終わった時、静かに泣き出す者もいた。
しかし亜季は、フレデリカだけを見ていた。
彼女は奥歯を噛み締めた。フレデリカのダンスは完璧だった。
圧倒的な才能。一重にそれだ。
才能が全てをひっくり返す。
他のアイドル達の、懸命な努力でさえも。
引き摺り下ろしてやる。
亜季は殺意にも似た決意を持って、立ち上がった。
候補達が20人ごとのグループで、一斉にダンスを始める。
亜季は最終グループ。
フレデリカは、最初のグループにいた。
候補達はミスを連発した。
無理もない。
技術面でも駆け出しアイドルには似つかわしくないのに、
それが4回。初めに余裕を見せていた候補生も、最後で心が折れる。
20分が終わった時、静かに泣き出す者もいた。
しかし亜季は、フレデリカだけを見ていた。
彼女は奥歯を噛み締めた。フレデリカのダンスは完璧だった。
圧倒的な才能。一重にそれだ。
才能が全てをひっくり返す。
他のアイドル達の、懸命な努力でさえも。
引き摺り下ろしてやる。
亜季は殺意にも似た決意を持って、立ち上がった。
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:47:22.48 ID:9RdRMGJU0
不安はなかった。
亜季はプロダクション内で、日野茜と肩を並べる体力馬鹿だ。
その体力で、技術不足を塗りつぶすハードワークを行った。
だが、3回目のダンスが終わった時、
亜季の両足は痺れた。
高垣楓のダイナミクスの表現が、足さばきに集中している。
くわえ、フレデリカに対する対抗心、
さらに無意識下での緊張が、亜季の身体を蝕んだのだ。
それでも亜季は棒のようになった足を、
ただの道具として無理矢理動作させた。
身体の頑丈さと強固な精神力で、彼女はやり遂げた。
力技に頼ったがミスはない。完璧だった。
亜季は、大和亜季史上最高の大和亜季になれたと、そう思った。
亜季はプロダクション内で、日野茜と肩を並べる体力馬鹿だ。
その体力で、技術不足を塗りつぶすハードワークを行った。
だが、3回目のダンスが終わった時、
亜季の両足は痺れた。
高垣楓のダイナミクスの表現が、足さばきに集中している。
くわえ、フレデリカに対する対抗心、
さらに無意識下での緊張が、亜季の身体を蝕んだのだ。
それでも亜季は棒のようになった足を、
ただの道具として無理矢理動作させた。
身体の頑丈さと強固な精神力で、彼女はやり遂げた。
力技に頼ったがミスはない。完璧だった。
亜季は、大和亜季史上最高の大和亜季になれたと、そう思った。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:47:57.39 ID:9RdRMGJU0
「………」
数日後、亜季は自身のプロデューサーを睨みつけた。
サポートメンバーの決定方式は、職員達による投票制。
結果、満場一致で宮本フレデリカが選ばれた。
つまり、亜季のプロデューサーもフレデリカに票を入れたのだ。
自分が選ばれなかったことは、決定だからしようがない。
しかし、亜季を推すべきプロデューサーが、
他のアイドル、よりによってフレデリカを。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:48:34.70 ID:9RdRMGJU0
「納得のいく説明を要求します」
亜季が冷たい声でそう言うと、プロデューサーは、
オーディションの様子を収録したDVDを再生した。
そこには亜季の完璧なダンスが映っていた。
やはりミスは無かった。
そう思ってプロデューサーを再び睨むと、
彼はフレデリカの様子をよく見るように指示した。
巻き戻し、最初のグループ。
亜季が冷たい声でそう言うと、プロデューサーは、
オーディションの様子を収録したDVDを再生した。
そこには亜季の完璧なダンスが映っていた。
やはりミスは無かった。
そう思ってプロデューサーを再び睨むと、
彼はフレデリカの様子をよく見るように指示した。
巻き戻し、最初のグループ。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:51:00.44 ID:9RdRMGJU0
崩れる候補達の中で、たった1人楽しげな顔で踊っている。
ダンスが終わった後は、さすがに足が痺れたのか、
舌をぺろりと出して、けんけん歩きをしていた。
亜季は胸がぐるぐるした。
オーディションの時に、どうして気づけなかったんだろう。
なぜ彼女が選ばれたのか、亜季は理解した。
過酷なダンスの間もフレデリカは、
フレデリカというアイドルであり続けた。
馬鹿みたいに陽気で、苦しげな表情を他人に見せない。
一方の亜季は、完全なダンサーだった。
だが、ダンサーが必要ならダンサーを雇う、それが美城だ。
ダンスが終わった後は、さすがに足が痺れたのか、
舌をぺろりと出して、けんけん歩きをしていた。
亜季は胸がぐるぐるした。
オーディションの時に、どうして気づけなかったんだろう。
なぜ彼女が選ばれたのか、亜季は理解した。
過酷なダンスの間もフレデリカは、
フレデリカというアイドルであり続けた。
馬鹿みたいに陽気で、苦しげな表情を他人に見せない。
一方の亜季は、完全なダンサーだった。
だが、ダンサーが必要ならダンサーを雇う、それが美城だ。
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:51:41.27 ID:9RdRMGJU0
いつもの亜季ちゃんじゃな〜い。
フレデリカの言葉が思い返された。
結局のところ亜季は、練習段階で、美城やプロデューサーの立てた
カリキュラムを見限って、独自でのトレーニングを行った。
自分の組織を信じる。そのあり方を、亜季は捨てた。
その結果亜季は、大和亜季というアイドルですらなくなってしまった。
再びモニターを見ると、
彼女ではない、全く別の女が映っているように見えた。
フレデリカの言葉が思い返された。
結局のところ亜季は、練習段階で、美城やプロデューサーの立てた
カリキュラムを見限って、独自でのトレーニングを行った。
自分の組織を信じる。そのあり方を、亜季は捨てた。
その結果亜季は、大和亜季というアイドルですらなくなってしまった。
再びモニターを見ると、
彼女ではない、全く別の女が映っているように見えた。
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:52:52.70 ID:9RdRMGJU0
この瞬間、亜季はアイドルになって初めて、
そして久しぶりに、声を上げて泣いた。
そして久しぶりに、声を上げて泣いた。
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:53:37.59 ID:9RdRMGJU0
彼プロデューサーは黙って見守っていた。
彼は知っている。
大和亜季はアイドルという戦場を、彼女自身で選んだ。
彼は知っている。
大和亜季はアイドルという戦場を、彼女自身で選んだ。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:54:06.02 ID:9RdRMGJU0
だからこそ、必ず戻ってくるのだと。
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:54:35.58 ID:9RdRMGJU0
おしまい




コメント
コメントする