1: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:25:17.22 ID:/yUFjfomo

見鬼の俺は、妖怪を見ることができて、
妖怪と話すことができて、
妖怪に触れることができる


「あぁ……、おめ……でとう……」

「どうかなさいましたか?」

「いや……」

「?」


確かに、年は明けた

が……


「まだ夜明け前じゃないか、美影」

美影「そうですね、圭治さん」


ニコニコと笑顔を絶やさない彼女。さて、どう言ったものか……

俺を起こしたのは影女
男やもめに取り憑く妖怪と云われている
一人暮らしの男の世話をする。料理に洗濯、掃除などを

俺はまだ学生の身であって、やもめではないんだが



2: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:26:20.43 ID:/yUFjfomo

影女で妖怪の美影に理解が示せるはずがないのは分かってはいる
ただ、寝たいんだ、今は


圭治「日の出に興味はない……」

美影「まぁ……」

圭治「おやすみ」

美影「……」


ガバッと毛布を深く被る
まどろみのなかへ溺れていく感覚
二度寝の至福のひと時だ……

3: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:28:23.29 ID:/yUFjfomo

バッ

ゴスッ

枕を引き抜かれる
引かれた分、頭が落下する

枕返しかよっ


圭治「おいっ……!」

美影「圭治さんおっしゃいました、一緒に初日の出を見に行くと」

圭治「言ってない」

美影「見に行ってもいいかもなと! おっしゃいました!」

圭治「それは言った! けど、それは未定の予定だろ!」

美影「むぅ……」


頬を膨らませて抗議する仕草

正直可愛い

いやいや、相手は妖怪。無視だ無視


圭治「……一人で見て来い」

美影「……そんな」


この世の終わりのような言葉。だが気にしない

毛布を被る

影女とは家と人に取り憑く妖怪
だから、俺と一緒じゃないと外には出られない

一人で行けるわけがないのだ

4: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:29:45.61 ID:/yUFjfomo

圭治「」ウトウト

美影「せっかく、夜なべをして御節をつくったんですよぉ……」

圭治「……」

美影「お雑煮も作って……。帰ってきて三人で食べようかなって……」

圭治「……」

美影「一年の計は元旦にあり、という諺もありますから……今年は大切な年でもあると思っていたんです……」

圭治「……くっ」

美影「しっかり準備を――」

圭冶「わ、分かったよ」

美影「圭治さん……!」


輝く笑顔に文句が出なくなる

俺を最優先に考えてくれるのが影女の特性なんだ

分かってはいるが、芝居にひっかかった気がしないでもない


圭治「ほら、着替えるから……」

美影「いつものように手伝いましょうか」

圭治「いつも一人で着替えてるよ、過去を改ざんするなよ」

美影「……むぅ」

圭治「ほら」

美影「そうですか……」


とぼとぼと出て行く

まぁ、しっしっと邪魔者を追っ払うような動作はいらなかったな

やりすぎてしまった。少し反省をする

5: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:31:03.25 ID:/yUFjfomo

リビングに降りると声がかかった


「遅いさー、これは今年も不幸な一年に決まったようなもんさ~」

圭治「幸子……なんで起きてんだよ……」

幸子「あたしは夜行性さ、ただ寝てないだけさ」

圭治「……」


疫病神
不幸を招く神様、幸子がテレビを見ながらソファーでくつろいでいる

新年早々、ご利益が皆無だと実感させてくれるやりとりだった

6: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:32:37.38 ID:/yUFjfomo

去年は色々あった

両親が事故で死に、家の財産が根こそぎ親戚に奪われ、自暴自棄になっていた
不幸が不幸を呼んだ一年

その不幸の原因が妖怪だと信じて疑わなかった

人間も妖怪も嫌いで、嫌で嫌で仕方がなかった

心が壊れていた


影女の美影がこの家に生まれ、俺を支えてくれた

こんな田舎の町に住み着いている妖怪たち、友人たちと触れ合った

そのおかげで心を取り戻していった。取り戻すことができた


厄を招く幸子がいたから、妖怪の在り方と向き合えた

不幸の原因となった妖怪を許すことができた

そんな年が終わったんだ

7: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:34:23.77 ID:/yUFjfomo

新しい年が始まった


俺は影女の美影、疫病神の幸子と暮らしている


圭治「幸子も行くのか?」

幸子「ほぇ? どこへさ?」

圭治「初日の出さ」

幸子「そんな目出度い朝日なんてものを拝んだら、あたしは消えて無くなるさ」

圭治「ウソ吐くなよ、メンドクサいだけだろ」

幸子「そうさ、きゃはっ」


ご利益のあるもの、縁起のいいものに幸子は弱い

塩を撒いたら幸子は本気で痛がった。厄除けの物は危険なんだ

一応探ってみたけど、深刻なようでもないみたいだな

だから連れて行く



圭治「行くぞ」

幸子「はぁ? 面倒だって確認したさ。
    美影と二人で寒空の下でありがた~い日光でも浴びてくればいいさ~」



そうなのだ

俺と美影の二人が寒空の下で太陽が昇ってくるのを待つ間、
この疫病神がここで寝転がっているのが癪に障るのだ

8: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:36:32.11 ID:/yUFjfomo

圭治「美影、準備が出来たか?」

美影「はい。暖かいお茶も水筒に入れておきましたので、あちらで飲みましょう」

圭治「そうだな。あったかくしていよう」

美影「はい」

幸子「……」

圭治「身を寄り添って暖かくしていような」

美影「……え」

幸子「かゆーー!!!! 幸せそうにするなさぁぁああ!!!」


俺が幸せでいると、疫病神の幸子は不快になるらしい

おまけにお腹も減るときている。これはいい薬だな



美影「よ、よろしいんですか?」

圭治「え?」

幸子「うへぇ……」

美影「け、圭治さんに……よ、寄り添っても……」

圭治「えっと……」

幸子「早く行っちまいな、勝手に御節食べてるさー……」

美影「ダメですよ、幸子ちゃん。私たちが帰ってきてからにしますからね」

幸子「そんなこと疫病神のあたしには――」

美影「さ・ち・こ・ちゃん?」

幸子「ひぃっ!?」


ズゴゴゴゴと迫力が増していく

食べ物に関しては、いつも母性溢れる美影の許容範囲も軽く超えるからな

幸子が美影のおやつを黙って食べた時の怒りは凄かった
というか、そんなことされたら誰だって怒るけどな

料理をしてくれる人が家の中で一番偉いのは妖怪であろうが、神様であろうが、人間であろうが共通らしい

9: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:37:29.89 ID:/yUFjfomo

幸子「わ、分かったさ。早く行くといいさー」

美影「では、お留守番、よろしくお願いしますね」

幸子「はいはい」

圭治「美影、一つのマフラーを一緒にくるまろう」

美影「け、圭治さんが積極的です!」

幸子「やめるさぁぁああ!!!!」

圭治「さ、行こう」

美影「は、はい」

幸子「美影ー! あんたは妖怪なんだから寒さなんて関係ないはずさ!」

美影「そ、そうですけど……せっかくなので」

圭治「……お腹空かせて待ってな」

幸子「むっきー!」



扱いやすいヤツ

10: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:38:28.11 ID:/yUFjfomo

ガラガラ

ピシャ


戸を閉めるが鍵はかけない
田舎なのでそんな心配は無用だ。田舎たる所以



圭治「はぁー」


両手を暖める

新春とはいえ、まだ身も凍る季節

冷たいけど、気持ちのいい空気ではある

悪くは無い

11: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:39:19.28 ID:/yUFjfomo

幸子「それはなにさ?」

美影「いなり寿しですよ」

幸子「さっそく食うさ!」

圭治「おい馬鹿」

幸子「神を愚弄するとは何事さ!」

圭治「なんで家の前でいなり寿しを食べるんだよ」

幸子「お腹が減っているからに決まっているさ」

圭治「我慢してくれ」

幸子「へぁ……、こんな扱い初めてさぁ……」

美影「帰ったらたくさん食べましょうね」

幸子「そうさ、遠慮なんてしないさ」

圭治「いつもしてないだろう」

美影「それじゃ、行きましょう」

幸子「なにが悲しくて疫病神のあたしが……」

美影「圭治さん、マフラーですよ」

圭治「えっと、寒くないからいいかな」

美影「」ガーン

12: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:41:02.88 ID:/yUFjfomo

俺たちは山へ向かって歩き出す

開けた場所があって、そこから朝日が拝める

と、思う

小さい頃走り回った場所だから、変わっていなければいいけど


「あ、圭治さん」

圭治「佐久夜か……」

佐久夜「新年あけましておめでとうございます」

圭治「おめでとう。今年もいい年であるといいな」

佐久夜「はい!」


笑顔が似合う女性、佐久夜

相変わらず、胸が……


美影「圭治さん」

圭冶「はっ!」

幸子「男は誰でもどスケベさ」

佐久夜「ひゃぅ!?」


幸子の言葉に反応して、隠し切れない胸を隠す

今年はいい年になりそうだな


美影「圭治さん……」

圭冶「そんな悲しそうな目でおれを見るなよ……」

幸子「あんた牛さね?」

佐久夜「はい。白澤という妖怪です」

13: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:46:39.16 ID:/yUFjfomo

佐久夜とは近所の駄菓子屋で出会った

小学校の頃は毎日のように通っていた店だった
2年前に婆さんが亡くなると同時に経営者不在で閉店

佐久夜を店主に迎え、営業を再開していた

妖怪が、人の姿をして、子供たちと毎日楽しそうにしている


子供たちとのやりとりを見ていて、害のない妖怪だと判断できた

むしろ、近所の婆さんたちからは重宝されるお店となっている

何度か通っているうちに、おれも彼女、佐久夜の心に触れて救われていた


白澤の割には知識も頼りなく、計算もできない
代わりに俺が帳簿をつけるアルバイトとして月に1度雇われている

亡くなった婆さんへの恩返しの為に駄菓子屋を受け継いだそうだ

14: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:48:00.17 ID:/yUFjfomo

圭治「もしかして、初日の出を見に行くのか?」

佐久夜「はい、そうなんですよ~」

圭治「え、なんで?」

佐久夜「なんでって言われましても……」

圭治「妖怪が一人で行くのかって……」

佐久夜「あぅ……」

美影「圭治さん、いじわるです……」

幸子「優しくできない人は、誰からも優しくされないさー」

圭治「誘ってくれれば一緒に行くのに」

佐久夜「そ、それは、そのぅ……」

幸子「ひゃー、影女がいるのに、この妖怪たらしー。隅に置けないさー!」

圭治「一人なら行こう」

佐久夜「は、はい」

美影「では、参りましょう」

幸子「あたしを無視するなさ!」


一人騒ぐ疫病神を置いて、歩き出す

独りは寂しいから

15: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:50:04.69 ID:/yUFjfomo

4人並んで歩き出す


佐久夜「わたし、一人じゃありませんよ」

圭治「ん? どういう……」

「――ぃじー!」

圭治「なんだ?」

美影「あれは……」

幸子「うへっ、嫌な気配がするさ……」

「けいじぃー!」

圭冶「なんでこんな時間に……って!」

「みつけたー!」

ダダダダダッ


その勢いはやばい

あいつは遠慮を知らないからそのまま体当たりしてくるだろう

何度もみぞおちを当たられて悶絶している

 

圭治「止まれ、止まれ千鶴美!」

千鶴美「けいじー!」


ダッ

と、おれを目掛けて跳ねる


ドスッ

圭治「ぐふぉっ」

佐久夜「きゃっ」

千鶴美「ちぢゅみ、探してた!」


丁度後ろに居た佐久夜にぶつかった

柔らかい感触が背中を伝う

すまん、佐久夜

色んな意味でありがとう、佐久夜

16: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:50:39.56 ID:/yUFjfomo

圭治「わ、わるい、佐久夜」

佐久夜「い、いえ、びっくりしただけですから」

圭治「むしろありがとう」

佐久夜「?」

美影「圭治さん……」

幸子「腹がどんどん減ってくさ」

千鶴美「けいじ! これあげる!」

圭冶「ん? うん?」



差し出されたのは一枚のコイン

なんだこれは



幸子「うぎゃっ、また良くないものを持ってきたさ!」

千鶴美「ちぢゅみ見つけた! けいじ、持ってる!」

圭治「幸子が嫌がるってことは、縁起物か……」

17: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:52:39.88 ID:/yUFjfomo

千鶴美
とある生き物の妖怪
力を使って人の姿になっているため、無理が生じて馬鹿になってしまう
本当は知識も知恵も深く、おれの数倍生きている
が、見た目が小学生で言動も幼すぎるからどうとも言えない

恩返しをするために縁起物を拾っては持ってきてくれる

おれが不幸になったことを聞きつけて、奔走してくれていた

もう、不幸じゃないんだ


圭治「五円?」

千鶴美「けいじ! ちぢゅみと遊ぶ!」


朝っぱらから遊ばねえよ

もらったコインを眺める

五円と文字が記されているけど、見たことが無い
見慣れている5円玉は真ん中に穴が空いているけど、これは埋まっている

材質からしておもちゃではなさそうだが


佐久夜「それは、えーっと……」

美影「あまり見ない硬貨ですね」

幸子「早く捨てるさー!」

千鶴美「捨てたらだめ! けいじ、ちゃんと持ってる!」

圭治「んー?」


捨てるわけが無い

詳しくは分からないけど、縁起物なんだ
千鶴美が俺のために探してくれたことが最大の幸福なんだ

18: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:54:06.36 ID:/yUFjfomo

千鶴美「あそぶ!」

圭治「遊ばないっての」

幸子「どんどん腹が減ってくさー……」

美影「大丈夫ですか、幸子ちゃん」

幸子「圭治が幸せそうなのがいけないさ」

美影「そんなことはありませんよ」

幸子「うへぇ……」

佐久夜「えっと……確か、」

「それは製造枚数が少ないことでプレミアが付いていたね」

佐久夜「あ……」

圭治「ん?」

「や、圭治。みんなも揃ってるね」

圭治「なんだ、婆か」

千鶴美「ばばぁー!」

「ふんっ」

シュッ

ドスッ

千鶴美「ふぐぉ」

「せやっ」

シュッ

ゴスッ

圭治「ほぐぅ」


右足で千鶴美を、左足で俺を蹴る。二連打。相変わらず攻撃が素早い

自称二、三千年生きているという妖怪、瀬織

通称、橋姫
全国を放浪して、橋の下でホームレスをしている。今は篠橋という近所の橋に住んでいて、
橋を渡るカップルを見つけては呪い、別れさせている。目の当たりにしたが、効果は絶大

19: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:55:00.86 ID:/yUFjfomo

圭治「なんで瀬織まで……」

瀬織「佐久夜と初日の出をってね」

佐久夜「そうなんですよ」

圭治「知り合いだったのか」

瀬織「いつまでも橋の下に居たらつまらないでしょ」

圭治「まぁ、そうだが」

千鶴美「けいじ! どこ行く!?」

圭治「初日の出を拝みにだ」

千鶴美「一緒行く!」

圭治「はいはい」

瀬織「家に行ったけど、居ないからって走り回ってたよ、この子」

圭治「そうか……。こんな時間に」

佐久夜「はやく渡したかったんじゃないですか?」

千鶴美「うん! 一年の計は元旦にあった!」

圭治「そうか……。ありがとう」

千鶴美「えへへー」

幸子「美影の存在が薄くなってるさ」

美影「……いいんです。影女ですから」

20: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:56:25.92 ID:/yUFjfomo

少しきつめの道を登る。子供の頃は大したことなかった道だ

おぼろげな記憶を頼りに進んでいく

小さい頃の、セピア色の、淡く、儚い、取り戻せない時間を辿る





変わらない場所へ辿り着く

同年代の友達とよく来た場所だった

最近は来ていなかったな



千鶴美「おぉー! ひろーい! 走るー!」

能天気に走り回る


瀬織「へぇ、いい場所じゃない」

気に入ってくれたようだ


佐久夜「町が見渡せますね」

広く狭い町を眺める


幸子「ふーん……」

可もなく、不可もなくといった反応。だけど、悪くはなさそうな表情


美影「……」

そういえば、ここの近くには川も流れていたっけ

記憶の中の友人達を思い起こす
今の千鶴美のように、俺たちも走り回ったな

それに混じって、妖怪の子供も一緒になって走っていた

俺だけにしか見えない友達

21: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 04:58:44.70 ID:/yUFjfomo

「おーい、けー君ー!!」


そうそう、こんな風に声をかけてくれた
俺だけにしか聞こえない声


「おーい!」


懐かしい声だ
記憶の中の声はいつまでも褪せないものなんだな


「おいー! 無視しないでくれよ!」


いや、懐かしい訳じゃないな。最近再会したし
ん?


「まさか、けー君……。見鬼の力を失ってしまったのか!?」

幸子「いんや、こいつはお前をシカトしてるだけさ」

「がびーん」

圭冶「……」


相変わらずリアクションが古いな


「ボクを無視するなんて……、ひどいぜ……」

圭冶「いや、早起きだなと思ってな」

「やっと反応してくれた! けー君は意地悪だ」

佐久夜「はい、圭治さんはいじわるです」

瀬織「圭治は性格が悪いよね」

幸子「根性も悪いさ」

千鶴美「けいじ、屈折してる!」

美影「……」

圭冶「……」


美影が同調しなかったのが救いか

いや、俺を悪く言う事なんてできないな。影女なんだから

22: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:00:07.55 ID:/yUFjfomo

少年の姿をした妖怪、イソラ

先にある川の上流に棲む河童だ


イソラ「けー君とここで遊ぶのも久しぶりだな」

圭治「いや、遊ばないが」

イソラ「遊びに来たんじゃなかったのか?」

圭治「こんな時間だぞ」

イソラ「そうか……。けー君の匂いがしたから下りてきたんだ。たくさん集まっているからてっきり」

圭治「……」


イソラは残念がっている

正月の朝っぱらからこんなところで走り回るのは妖怪だけだ


幸子「へへーん、やっぱり晴れないさ」

佐久夜「いいえ、晴れますよ」

幸子「まだ曇ってるさ、あんたの予報が百発百中だとしても、地平線から昇る太陽を見られなきゃ意味無いさ」

圭冶「……」


疫病神だな

せっかくここまで来たんだ、是が非でも拝みたいものだ

23: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:00:41.64 ID:/yUFjfomo

美影「圭治さん、あちらで座ってお茶でもいかがですか?」

圭治「うん、そうだな」


美影を先頭に俺たちは進む

美影を中心にして俺たちが集まる


美影「はい、どうぞ。熱いですから気を付けてください」

圭治「うん、ありがとう」


口から喉へ。喉から全身へ暖かさが広がっていく

温かいな、ここは

24: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:02:24.51 ID:/yUFjfomo

千鶴美「わたしも飲むー!」

美影「はいはい、座って待っててね千鶴美ちゃん」

千鶴美「ちぢゅみ、まつー!」

ドサッ

圭治「うぐっ」


俺の膝の上に座りやがった


イソラ「おい! けー君に甘えるなよ!」

千鶴美「甘い! けいじは甘いからいい!」

イソラ「ほら降りろよ!」

千鶴美「それはいや!」

圭治「おい、暴れ……ぐっ」


千鶴美の頭がおれの顎を揺らした。軽く脳震盪を起こす


圭治「うぅ……?」

美影「け、圭冶さんっ、大丈夫ですか!?」

圭冶「だ、大丈夫……」

千鶴美「けいじあったかい! ほかほか!」

イソラ「むむうー」

幸子「圭治に厄がまわってきたさ、きゃはっ」

佐久夜「そろそろ太陽が昇ってきますね」

瀬織「正月なんて、私からみたらどうでもいいことなんだけどね」

25: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:02:49.54 ID:/yUFjfomo

一年の計は元旦にありとは云うけれど

これでいいのか

頭の片隅で自分がぼやいた気がした

どうみても日常から離れている

一般人が歩むそれとは遠く離れた場所に居る

これでいいのかと

まだ拭いきれていない自分が指摘する

26: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:03:37.22 ID:/yUFjfomo

美影「圭治さん」

圭治「ん?」

美影「太陽が昇りますよ」

圭治「……うん」


群青の空を白に染めていた太陽

黄金の色に染め直していく


これでいいじゃないか。なにを恐れる


佐久夜「晴れましたね」

幸子「ふんっ、たまたまさ」

瀬織「そのたまたまが、見事に当たったんだよ。凄いことじゃない」

幸子「太陽は毎日昇るさ、日付が変わっただけでありがたく感じるなんて滑稽さ」

瀬織「……」

圭治「初日の出は縁起物じゃないのか……?」

幸子「そんなわけないさ、日本では一年の最初の夜明けとされて目出度いさ」

圭治「どうして悪態ついたんだ……」

幸子「これいじょう圭治の厄が落ちるとお腹と背中がくっつくさー!」


そっとしておこう

27: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:05:32.94 ID:/yUFjfomo

地平線から光が差し込んでくる


千鶴美「おぉー……」


感動のあまり声が震えている。面白い

千鶴美は立ち上がって二、三歩進んでいく。太陽を遮ってしまって俺が見えないんだが


イソラ「よいしょ」


千鶴美が膝から降りたのをいいことに、イソラが座ってきた


圭治「おい」

イソラ「ボクはダメなのか?」

圭治「ダメだ」

イソラ「ずるいぞ、けー君」


イソラは河童であり、童であるから、基本的に子供なんだ

それは分かっている。おれが大人になってしまっただけなんだ


イソラ「そんなに嫌か?」

圭治「……」


イソラは湿っぽいから、少し肌寒い。乾いたら死んでしまうから、それはしょうがない

少し物思いに耽っていたから、表情が険しくなってしまっただけだ

別に嫌というわけではないんだ

28: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:06:17.96 ID:/yUFjfomo

瀬織「圭冶は女の子が好きだから、姿を変えればいいのよ、イソラ」

圭治「……あのな」

イソラ「なんだ、そうか」


ぱっと光を放ち、姿が変わる。男の子から女の子へ


イソラ「これでいいか? けー君」

圭治「……」


嫌ではない。少年の姿よりはこっちがいいかもしれない


佐久夜「鼻の下が伸びてますね~」

瀬織「予想通りというのも、なんだかアレだわ……」

幸子「ろくでもない男さ、きゃはっ」

美影「わたしは、少し複雑です……」

圭治「なにが……だ?」

美影「男の子同士なら認めなくもないのですが……」

圭治「おまえは何を言っているんだ」

イソラ「けー君はあったかいな。寒くなったら言うんだぞ」


俺に気を遣ってくれる

昔からの友人はイソラだけだから、不思議と心が戻される

少しくらい、服が濡れても平気だろう

29: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:08:04.40 ID:/yUFjfomo

一年に一度だけの朝日

何千年と生きている瀬織の目にはどう映っているのだろうな


瀬織「ん?」

圭治「……」


目が合ったが、すぐ逸らす

別にどうでもいいと思ったから


瀬織「なになに、朝日を浴びるおねえさんの横顔に惚れた?」

圭治「ウン」

瀬織「おらっ!」


シュッ

ドスッ


圭治「ぐふぅ」

瀬織「失礼ね」

イソラ「おい! けー君にひどいことをするなよ!」


イソラが立ち上がって瀬織に抗議をしてくれる。もっといってやれ


瀬織「いいのよ、悦んでいるんだから」

イソラ「けー君、殴られて悦ぶなんて……」

圭治「信じるな、そいつより俺の方が付き合い長いはずだぞイソラ……いつつ……」

幸子「いい気味さ、きゃはっ」

佐久夜「頷いていましたよ?」

瀬織「生返事だったからいいの」

美影「……ホッ」

30: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:09:47.88 ID:/yUFjfomo

蹴られた背中を伸ばしつつ、日の出を拝む

いや、千鶴美の背中で隠れて見えない。千鶴美が無駄に神々しいな


瀬織「それで、なに?」

圭治「ん?」

瀬織「なにか言いたいことがあるんじゃないの?」

圭治「あぁ……」


大したことじゃないが、聞いてみてもいいだろうな


圭治「前に初日の出をみたのっていつくらいだ?」

瀬織「え? んー……」

圭治「……」

瀬織「覚えちゃいないわね。遠い過去だから」

圭治「そうか……」

瀬織「少なくとも100年以上も前だわね。前後で廃藩置県をやってたわ。うん」

圭治「……」

瀬織「あれ? 黒船が来航したあたりだったかな……ま、大体その辺になるわね」


凄い話だな。黒船も見たのか

俺は数え切れるくらいだが、瀬織は数え切れないほど見てるらしい


圭治「……」

瀬織「いつもは一人で眺めていたから、特に記憶にも残らないのよ」
   
圭治「……」

瀬織「美しく感じたのは今日が初めてかもしれないわ」

圭治「そうか……」

瀬織「……」

31: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:10:25.34 ID:/yUFjfomo

長く生きている性分なのか、いつも禅問答を繰り返す瀬織が、今日は素直に感情を出している

真っ直ぐに太陽を望む瀬織

その生き方に教えられることもしばしばあった


瀬織「惚れた?」

圭治「……」

瀬織「ふんっ」


ドスッ


圭治「うごぉ」

瀬織「照れ隠しよ」

圭治「そうかよ……」


いてえ……

さっきより割り増しだったな

32: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:11:19.82 ID:/yUFjfomo

美影「地平線から離れましたね」

幸子「厄を落とすような行為をするなさ」

美影「いえ、圭冶さんにとっては大事なことですよ」

幸子「いい加減に帰るさ、腹が減ったさぁ」

圭治「しずかにしてくれないか、厳かな雰囲気が払われてしまう」

幸子「厳かって……。対極にいるあんたが言うなさ。分相応な言葉を選ぶべきさ~」

イソラ「失礼だ、この厄病神」

幸子「へへん、それはあたしにとって最大の賛辞ってね」

圭治「相手にするな、無駄だから」

イソラ「そうか、うん、分かった」

幸子「むっきー!」

千鶴美「けいじ!」

圭冶「ん?」

千鶴美「日の出! 綺麗! 堪能した!」

圭治「そうか、良かったな」

千鶴美「うん! 良かった!」

圭治「うんうん」


君のおかげで俺は昇っていく太陽を拝めなかったよ

33: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:12:19.35 ID:/yUFjfomo

佐久夜「帰りましょうか」

瀬織「そうね。じっくりと眺めたことだし、ここに居座る理由もないものね」

圭治「なんだ、佐久夜は急ぎの用事でもあるのか?」

佐久夜「いいえ、特には。お店も開けませんし」

瀬織「三が日はちゃんと休むそうよ」

圭治「ここまで来たついでだ、初詣に行かないか?」

佐久夜「?」

圭治「藤湯神社があるんだ」

佐久夜「そうですか……、うーん、そうですね、行きます」

圭治「行こう」

瀬織「あら、私には聞かないの?」

圭治「ごほん、あー、あー、……行くか?」

瀬織「なんで声の調子を整えたのよっ」


シュッ

ゴスッ


時間を稼いだんだよ。どうあっても蹴られると思ったから

いてえ……

34: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 05:13:41.74 ID:/yUFjfomo

千鶴美「あちょー!」

イソラ「えいっ!」


ドスッ ドスッ


瀬織「いった!」

千鶴美「ちぢゅみも遊ぶ!」

イソラ「けー君に手を出すとボクが許さないぞ!」

瀬織「んだとぉ!?」

千鶴美「ねーちゃん怖いー!」

イソラ「うわっ、鬼だ!」

圭治「千鶴美! イソラ! 向こうに走れ!」

千鶴美「分かったー!」

イソラ「お、おう!」

ダダダダッ

瀬織「待たんかコラァー!!」

ダダダダッ

圭治「朝は山で運動会かよ」

佐久夜「みなさん元気ですね~」

幸子「まだ帰らないのかー? 勘弁してほしいさ」

美影「せっかくのいなり寿しですよ、向こうで少し休みましょう」

幸子「それならしょうがないさ」

佐久夜「産土がいらっしゃるんでしょうか?」

圭治「いや……。祀られているわけでもないんだけど、一応匹敵するくらいのヤツがいるな」

佐久夜「はぁ……。知りませんでした」

圭治「妖弧なんだ」

35: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 12:41:39.03 ID:5Dql9gWMo
とっぱらかと思ったらとっぱらだった
懐かしいな
瀬織はお気に入りだったな

ともあれ>>1乙

38: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 21:53:54.94 ID:/yUFjfomo
知っている方がいてホッとしました

癒し妖怪萌えゲーだそうです。欝は無いですよ

とっぱらOP(※電波注意)
http://www.youtube.com/watch?v=NXUhcOycm8w



シナリオは短いですよね
イソラ√が好きです。主人公の逞しさが垣間見られたので


縁があって読んでくださっている方、ありがとうございます
拙い文章ですが、よろしければお付き合いくださいませ

39: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 21:56:58.55 ID:/yUFjfomo

歩き出して数十分。坂道が続いているので息が上がる


圭治「……ふぅ」

「やっと来たでありんす。圭治はだらしないでありんすな」


神社に辿り着くと小さい妖怪がふよふよと空中を漂いながら迎えてくれた


圭治「……」

幸子「召使い、お出迎えごくろうさー」

「召使いではないでありんす! わっちは眷属でありんすよ!」

美影「はい、明けましておめでとうございます。鈴ちゃん」

鈴「おめでとうございますでありんす」

佐久夜「小さな妖弧さんですね」

圭治「いや……」

鈴「主様と間違われるなんて、照れるでありんすよ~」


頭をかいて照れている

こんなちっぽけサイズに威厳は少しも感じられないんだが

40: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 21:59:07.28 ID:/yUFjfomo

鈴「圭治、今良からぬことを考えたでありんすね?」

圭治「いいや、そんなことはない。三人が先に来ているはずだが?」

鈴「温泉に入りに行ったでありんす」

圭治「仲いいじゃないか……」

佐久夜「温泉があるんですか?」

美影「はい、気持ちのいい温泉が沸いているんです」

幸子「お風呂はまっぴらさ」

鈴「疫病神! お風呂と温泉は違うでありんすよ!」

幸子「そうかいそうかい」

鈴「神の割りに口の聞き方が不便でありんすな」

幸子「ふーん……」

美影「圭治さん、わたしも温泉へ行ってきますので、
    すいませんが、これを藤花さんにお渡しください」

圭治「お、おう」

美影「佐久夜さんも行きましょう」

佐久夜「いいですね、温泉なんて初めてです」


二人並んで行ってしまった

それって桃源郷じゃないか……


というか、参拝より先に入るのかよ

41: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:01:29.08 ID:/yUFjfomo

鈴「いつか必ず決着をつけるでありんす」

幸子「負けた時の言い訳を用意しておくといいさ」


幸子と仲良くケンカをしているのは九十九神の鈴

賽銭箱の上にあった鈴なのだが、老朽化により落ちてしまっている
この鈴から生まれた九十九神だ

随分と寂れてしまった神社だからな


圭治「鈴、参拝客は来たのか?」

鈴「一人も来なかったでありんすよ」

圭治「そうか……」

幸子「今来たらどうするさ?」

鈴「主様はずっと起きていたでありんす。束の間の休憩も必要でありんすよ」

圭治「……そうだな」

幸子「早く帰ってお雑煮を食べたいさ~」

鈴「いいご身分でありんすな」

幸子「へへん、あたしは神さ」

鈴「わっちも神でありんす。生まれも疫病神より早いでありんすよ」

幸子「それは凄いさ」

鈴「軽くあしらわれたでありんす」

圭治「……」

42: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:04:29.14 ID:/yUFjfomo

向こうには、美影、佐久夜、瀬織、イソラ、千鶴美、藤花がいるのか

イソラと千鶴美は置いておいて、残る4人のスタイルは……ごくり

なんで俺はここにいるんだ

これは男として許されないのでは……


鈴「圭治から負の念を感じるでありんす」

幸子「どスケベさ」

圭治「う……」

「待たせたな、圭治」

圭治「もう上がってきたのか」

「なんじゃ、一緒に入りたかったのかの?」

圭治「……」

「それは残念じゃったの、また今度入ろうではないか」

圭治「今じゃないとダメなんだ」

「うん?」

圭治「いや、なんでもない」

「邪な言葉が聞こえたようじゃが」

圭治「煩悩がな……」

「除夜の鐘は昨日の晩で終わりだぞ、圭治」

鈴「圭治のために早めに温泉から上がったでありんすか?」

「そうじゃ、待たせてはなんだからの」

圭治「どうせあいつらを待たなくてはいけないんだから、ゆっくりで良かったのに」

「美影のお土産も楽しみでのう」

幸子「自惚れが激しいさ、あんたのためだけじゃないってね~」

鈴「そうでありんすな~」

圭治「ぐっ……」

「うむ、よいよい。圭治のためでもあったのじゃ」

圭治「ほら、藤花」

藤花「ありがたくいただくかの」

43: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:07:45.86 ID:/yUFjfomo

嬉しそうに受け取ってくれる

二尾の妖弧、藤花
善い妖弧になろうと努力をしている

参拝に来た人の願いを叶えてはどうか、という俺の助言を活かすために昨晩から待ち続けていたみたいだ
ちなみに男嫌い

男嫌いなのは瀬織も同じだ。だから橋姫としてカップルを呪っては別れさせているらしい
長生きしているのも同じだな。藤花も三千年近く生きていると聞いた



圭治「誰も参拝に来ないのか?」

藤花「うむ。ここまで来るのはおらんでのぅ」


少しだけ寂しそうな顔をする

一応若いとはいえ、俺でもここまで来るのには体力を使ったからな

温泉には年配の人たちが入りに来るとは聞いているけど、ここまでは来ないんだろう


幸子「さっそくいただくさ」

藤花「そうじゃな、美影からのお土産をいただくとするかの」

鈴「あ、主様!」

圭治「どうした?」

鈴「人が来たでありんす!」


マジか

普通の人は俺以外には映らない。藤花、幸子、鈴が存在しているのに……

とりあえず隠れよう


圭治「隠れてるからな」

藤花「うむ」

幸子「いただきま――」

圭治「お前もこい!」

幸子「な、なにをするさ!?」


藤花が開けたお土産に手を伸ばそうとした幸子を引っ張る
神社に疫病神がいたら縁起が悪い。悪すぎる

44: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:10:36.03 ID:/yUFjfomo

木々に囲まれた藤湯神社
物々しい雰囲気ではあるものの、それが異世界でもあるようで、
神様が本当に住んでいるような空気さえ感じる

藤花は稲荷でも、土地を総括する神様、産土でもないが


幸子「なんであたしも隠れるさ、どうせ見えやしないのにさ」

鈴「不幸の象徴である疫病神が近くに居るだけで不吉でありんす!」

圭治「そういうことだ。……あ、あのお爺さんは」


よく知った顔だった。子供が東京へ行ったと聞いていた

ここまで一人で来たんだろう


幸子「藤花と一緒に聞かないのさ?」

鈴「わっちは力を持っていないでありんす」

圭治「……」

鈴「主様ほどの力を持つにはそれなりの時間が必要でありんすよ」

幸子「腹減ったさぁ……」

鈴「人の話をまったく聞かないでありんすね」

圭治「……」


藤花はお爺さんと並んでいる

ここに神様は居ない

俺には見えていないし、鈴も藤花以外にはいないと断言している

藤花は妖怪であって神様ではない

隣でなにを聞いているんだろうか


45: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:13:04.97 ID:/yUFjfomo

一時の静寂

どうやら参拝は終わったようだ

お爺さんが寂れた鳥居を潜って出て行く


いい年でありますように


幸子「なんだか腹が減ったさ」

鈴「他に言う事はないでありんすか?」

幸子「……」

圭治「……」


藤花が目を閉じて、両手で印を組んでいる

口が動いているようだが、聞こえない。聞こえても理解はできないだろう

今でも名前が伝説として生きている妖弧、玉藻の前なのだ
神に匹敵する力を持っているから、お爺さんの願いを叶えるために力を使っているのだと思う


俺たちは元いた場所へ戻る

藤花が戻ってくるのを待つ


幸子「いただきま――」

圭治「おいこら」


ガシッと幸子の手を掴む

人様のものに手を出すとは……



鈴「主様のものでありんすよ!」

幸子「疫病神の本分を忘れてもらっては困るさ、きゃはっ」

圭治「おいこらっ」


反対の手が伸びてきたので掴む

あぶねえ


幸子「なにするさ、圭治っ!」

圭治「おまえが何をしているんだよ!」

藤花「二人は仲がいいのう」

圭治「幸子に全部食われる前に食べてしまえっ」

藤花「うむ」


スッと白い手が伸びる

46: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:14:41.92 ID:/yUFjfomo

恍惚な表情になる


藤花「はぅ……」

圭治「……」

幸子「もぐもぐ」

鈴「遠慮を知らないでありんすな」

藤花「れろっ……んむっ……じゅっ……」


いなりをじっくりと舐め回す

狐はいなりが大好物だというが、これは……

い、いつ見ても官能的だな……これはまずい


「いけません! 圭治さんっ!」

圭治「うおっ!?」


視界が暗くなる

後ろから美影の声がしたが、俺の目を塞いでいるのは美影になるのか?

びっくりした


「じゅるっ……んっ……ちゅぷっ……」


俺たちに構わず食べ続けているようだ

音だけが俺に伝わってくる。余計にまずい気がする


「圭治さんの顔がだらしないですね」

「けー君……」


イソラの失望した声が聞こえた

その前に聞こえた声は佐久夜か……

47: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:16:28.53 ID:/yUFjfomo

「あー! 疫病神が全部食べてしまったでありんすよー!!!」

「もぐもぐ」


な、なにぃー!?

ゆっくりと美影の手をほどく


藤花「もう無くなってしもうたか……」


肩を落とした藤花の姿が目に映る


圭治「お、おまっ、なんてことを!」

幸子「隙だらけなのがいけないさー」

圭治「美影が藤花のために作ったものを、関係の無いおまえが食べるなよ!」

幸子「おいしかったさ、美影。きゃは!」

美影「幸子ちゃん……」

瀬織「あらら、よく分からないけど、修羅場ね」

圭治「やっていいことと悪いことがあるだろ!」

幸子「あたしたち疫病神にとってはやっていいことさ」

圭治「くぅ! 腹が立つ!」

幸子「圭治の不幸があたしの幸せってね、きゃはっ」


ダメだ、完全に幸子のペースになっている

落ち着け、落ち着くんだ俺。幸子の思うつぼってやつだ

48: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:18:50.79 ID:/yUFjfomo

千鶴美「けいじ、頭痛い?」

圭治「いや、そうじゃないけど……」

藤花「気にするな圭治。わらわは平気じゃ」

圭治「そ、そうか……」

幸子「そうそう」

圭治「おまえは……!」

佐久夜「圭治さんが怒りに震えています」

イソラ「やっぱり疫病神は祓うべきだと思うんだ」

千鶴美「そうだ! 掃除! 箒でサッサとする!」


どこから持ってきたんだ、その箒は


幸子「ぎゃぁあー! やめるさー!」

千鶴美「さちこ! 走った! 逃げた!」

圭治「効果あるのか……」

鈴「ここの箒でありんす」

瀬織「箒は昔、魔除けの道具として使われていたのよ」

佐久夜「え、えーっと、確か……」


そうだったのか

いいことを聞いたな


圭治「千鶴美、幸子と鬼ごっこしてこい」

千鶴美「うん、分かった!」

圭治「待て待て、箒をちゃんと持たなきゃだめだぞ」

千鶴美「おー! ちじゅみ、幸子を掃ってくる!」

圭治「あぁ、祓ってこい」

藤花「うむ、にゅあんすが違うの」

鈴「にゅあんすってなんでありんす」

佐久夜「妊婦さんのお腹をさすり赤ちゃんの魂を悪霊から守ったり
    強力な魔除け道具として扱われていましたよね」

瀬織「そうみたいね」

49: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:21:16.09 ID:/yUFjfomo

幸子「こっち来るなさー!!」

千鶴美「まてー!」

圭治「あはは、ざまあみろ」

イソラ「もう一つ箒はないか?」

鈴「掃除用具入れにあったでありんすよ」

イソラ「ボクも疫病神を祓うから、貸してくれ!」

鈴「持ってくるでありんす!」

美影「幸子ちゃん大丈夫でしょうか……」

圭治「あれだけの量を一人で食べたんだ、とりあえずは成仏しないだろう」

瀬織「あくまで魔除けだからね」

鈴「持ってきたでありんす!」

イソラ「よーし、見ててねけー君、ボクが祓って来てやるからな!」

圭治「うむ、期待している」

幸子「これくらいでやられはしないさ!」

イソラ「それっ!」

千鶴美「ほいやー!」

幸子「うがー! うっとおしいさー!」


イソラと千鶴美に挟まれる

少しは懲りるだろう。いや、それはないか


圭治「元気な子供たちだな」

美影「うふふ、そうですね」

瀬織「あんたら夫婦みたいだね」

佐久夜「まぁ……クスクス」

美影「ふ、夫婦だなんて……そんな」

藤花「……」

圭治「?」


走り回っている三人を目を細めて眺めている藤花

少しだけ気になった

50: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:22:07.46 ID:/yUFjfomo

視線に気付いたのか俺と目が合う


藤花「以前はな……。圭治と出会う前、それまでここには鈴とわらわしかおらなんだ」

圭治「……」

藤花「今は声が溢れておる。それが少しだけ嬉しいのじゃ」

圭治「そうか」

藤花「うむ、そうじゃ」

瀬織「分かるわね」

佐久夜「……」

美影「……」

幸子「しつこいさー!」

千鶴美「がおー!」

イソラ「けー君の家から出てけー!」

幸子「それは無理な話さー!」


イソラは本気だった

51: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:25:25.15 ID:/yUFjfomo

――…


鈴「飽きないでありんすね~」

瀬織「もう1時間走り回ってるわ」

美影「のんびりとするのもいいですね」

佐久夜「そうですね」

藤花「ふむ、……少し様子がおかしいのう」

幸子「本当にしつこいさ!」

千鶴美「がおがおー!」

イソラ「……っ」

圭治「イソラ……?」

イソラ「ッ!」


ぐらりと膝から崩れ落ちる


圭治「イソラッ!」


駆け寄ってイソラの様子を伺う


イソラ「少し、疲れたみたいだ……っ」

圭治「疲れたって……」


1時間走り回って尽きる体力じゃないだろう

違和感を感じて触れてみる


瀬織「乾いちゃったみたいね」

圭治「……」


後ろから瀬織の声が届く。みんな集まってきていた

川に連れて行けばいいんだが、戻るには少し距離があるな

しょうがない


圭治「ほら、つかまれ」

イソラ「けー君……?」

圭治「戻るぞ」

イソラ「……うん」


イソラを抱えて立ち上がる

軽いな

52: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:28:07.72 ID:/yUFjfomo

佐久夜「川までの結構は距離ありますよ」

幸子「それに、圭治に抱えられていたら乾く時間が短くなるさ」

圭治「……」


なんだかんだいいながら、幸子も心配してるのか


圭治「走っていくよ」

藤花「そう急くな、圭治」

圭治「?」

藤花「イソラを下ろして、軒下にでも隠れておれ」

圭治「???」

イソラ「?」

鈴「せっかちでありんすな、主様が雨を降らすということでありんすよ」

圭治「え……」

幸子「濡れては敵わん、あたしは隠れてるさー」

千鶴美「雨! 傘持ってくる!」


二人は駆け出していく

そうか、藤花は天気も操れたっけ


イソラ「けー君……」

圭治「……」


心細い表情をしている


圭治「いや、ここにいるよ」

藤花「濡れるぞ、いいかえ?」

圭治「あぁ」

藤花「承知した」


スッと右手を天にかざす

たちまち黒くて重い雲が空を覆いつくす

さっきまでは晴れていた空があわただしく表情を変えた


ザーッと雨が降りしきる

新春とはいえ季節は冬なのだ。やっぱり冷たい


53: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:30:11.83 ID:/yUFjfomo

イソラ「……」

圭治「……」


イソラの表情も和らいでいく

それに合わせて、藤花の右手も下がる

雲が引いていく


イソラ「けー君、ありがと」

圭治「うん」


そっとイソラを下ろす

抱えている必要は無かったはずだ

どうしたんだ、俺は


美影「圭治さん、寒くはありませんか?」


美影の言葉で気付く、服が濡れていることに

そう言われると寒く感じるな


圭治「くしゅっ」

瀬織「あらら」

佐久夜「大変です!」

藤花「ふむ。だからいうたのにのぅ」

圭治「みんなは寒くないのか」

鈴「わっちらは風邪をひくことなんてないでありんす」

圭治「そうか……」

千鶴美「けいじ! 探したけど、無かった!」

圭治「お前も雨に濡れたか……」

幸子「あたしはちゃんと避難したさ」


確かに。幸子以外は雨に濡れてしまっている


藤花「温泉にでも浸かれよ」

圭治「覗くなよ」

瀬織「それは無理な相談だわね」

佐久夜「もぅ……」

イソラ「ごめん、圭治」

圭治「気にすんな。温泉に入ることは決まっていたからな」

美影「……」

54: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:33:20.22 ID:/yUFjfomo

服を脱ぐと冷たい空気が身を凍らせる


圭治「うおっ、さぶっ」


ブルブルと体を震わせる

タオルを腰に巻いて、出入り口に向かう

美影に濡れた服を渡すためだ


圭治「よろしくな」

美影「はい。お任せください」

幸子「男らしくないさ、そんなのを巻くなんてさ」

瀬織「なーんだ、がっかりだね圭治」

圭治「じゃあなっ」


恥ずかしいのと寒いので早々と会話を切り上げて湯へ小走りをする

さっむい!


広く開かれた場所が湯の外れにある。そこで焚き火をして俺の服を乾かしてくれるそうだ

千鶴美とイソラが落ち葉と枝を集めてくれていたらしい

後でお礼でも言うか


かけ湯を軽く済ませ、足から湯へ少しずつ……


圭治「あっち……。体が冷えてるからかな……」


いつもより余計に熱く感じた

ゆっくりゆっくりと腰まで浸かる


圭治「ふぅ~……」


熱さに慣れたら肩までゆっくりと

極楽極楽~ってな

55: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:36:16.14 ID:/yUFjfomo

小さい頃、イソラと夢中で遊びまわって同じことを経験した

理由が分からずおたおたする俺

そばでイソラが辛そうにしているのに、なにもできなかった

イソラの言葉で水が必要なんだと知って、必死に川から水を汲んできた

両手一杯の水を


圭治「ほんの数滴分の水しか渡せなかったけどな……」


さっきのイソラをみて不安になったんだろう

今が崩れるのが怖かったのかもしれない

友人を失うのが、今の日常を失うのが


ふと、おかしなことに気付く

俺にとっての日常は、妖怪と触れ合うことなのか

あれだけ嫌っていた存在なのに


圭治「……」

「圭治さーん、お背中流しましょうかー?」

圭治「いいよー!」


ここから見えない場所から美影の声が響く

丁重にお断りを入れる

体を温めるために入ってるってのに


イソラ「じゃあボクが洗ってあげようか」

圭治「だからいらんっての。はやく出てけ」

イソラ「なんだよ、減るもんじゃあるまいし」

圭治「俺がもつイソラへの好感度が減るぞ」

イソラ「しょうがないな」

圭治「……」


しぶしぶと出て行った

イソラは来ると思っていたから、平常運転だ。驚きはしない

56: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:37:16.20 ID:/yUFjfomo

瀬織「じゃあ、わたしが洗ってあげようか」

圭治「断る」

瀬織「な、なんてことを言うの……」

圭治「俺をおちょくっているだけだろうが」

瀬織「ばれたか」

圭治「……なにが、ばれたか、だよ」


遊ばれてるな、俺は

幸子の入れ知恵で、佐久夜も来そうだな


佐久夜「お、お背中を……」

圭治「ちょうどよかった。頼んでいいかな」

佐久夜「ご、ごめんなさいぃぃい!」

圭治「……」


ちょっと傷ついたりする

あの中で恥じらいがあるのって、佐久夜だけか……?

57: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:39:16.49 ID:/yUFjfomo

流れる雲を眺めて

新しくて綺麗で清清しい空を眺めていた

悪くないよな


藤花が覗き込んできた


藤花「服を持ってきたぞ」

圭治「ありがと」

藤花「更衣室においてあるでの」

圭治「うん」


服を着ているから、温泉に入りに来たわけではないのか

話でもあるのか?


藤花「……」

圭治「どうした?」

藤花「わらわは、元々ここにおったゆえ、そう感じることがないんじゃが」

圭治「?」

藤花「一つの意思によって集まってきているような気がするのじゃ」

圭治「誰が?」

藤花「主らじゃ」

圭治「……」

58: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:48:54.24 ID:/yUFjfomo

俺たち?

ってことは、美影や幸子、佐久夜に千鶴美、瀬織、イソラ……?

いや、イソラも藤花と同じく、元々居た妖怪だな


圭治「どうしてそう思うんだ?」

藤花「主らが集まってきたのが、同じ時期じゃ
   わらわと圭治と出会ったのも、その後だからのう」


美影に出会ってから、あいつらと出会って、再会したっけ

それだと、美影が集めたってことになるのかな


藤花「焚き火を囲んでいての、そう思うただけじゃ」

圭治「……そうか」

藤花「あの爺様の願いは何だと思うかえ?」

圭治「あのお爺さん? 人の願いを聞いていいのかよ」

藤花「構わん。ひとつは息子の安全祈願」

圭治「……」

藤花「もう一つは、この町の幸せ、であったぞ」

圭治「ふむ……」


そうだな、不幸はもういらない

59: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/01(日) 22:59:47.32 ID:/yUFjfomo

千鶴美「けいじー! 背中洗うー!」

圭治「悪いが連れて行ってくれ」

藤花「しょうがないのぅ」

千鶴美「うおっ!?」

藤花「しばらくはゆっくりさせておくのじゃ」

圭治「悪いな」



千鶴美を抱えて出て行った

あのお爺さん、怖かった記憶しかないのにな

そんなこと願っていたのか


今年はいい年になりそうだな

そう実感していた

62: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 01:45:11.86 ID:J5fwm0Y50
とっぱらのオープニング見てきたけど
あれだな
美影超かわいいな

64: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:11:47.06 ID:Mo3K5fmso

Tシャツを着て気付く

火の力だな、いつもより暖かく感じる


圭治「悪い、またせたな」

イソラ「寒くはないか?」

圭治「あぁ、大丈夫だ。イソラも大丈夫か?」

イソラ「うん、圭治のおかげだ」

圭治「……藤花だけどな」

イソラ「どうだ、疫病神」

幸子「ん、なにさ?」

圭治「?」

イソラ「ボクとけー君の距離が縮んでいただろ?」

幸子「なにさ、そのしたり顔は……」

圭治「さて、帰るか」

美影「そうですね」

佐久夜「太陽の位置が高くなりましたね」

瀬織「この雰囲気は嫌いじゃないよ」

圭治「違いがあるのか?」

瀬織「まぁね。そこで暮らす人々のもつ空気が変われば、町全体も変わるのよ」

圭治「へぇ……」

美影「それでは、藤花さん。後ほどいらしてください」

藤花「うむ。夕方ごろになるが、本当によろしいのかや?」

美影「もちろんです♪」

鈴「遠慮なく寄らせてもらうでありんす」

圭治「?」

千鶴美「……」

圭治「なんの話だ?」

美影「昨日の夜に話したではありませんか」

幸子「圭治の脳は足りてないから物忘れが激しいさ」

圭治「あぁ、鍋をやるって話か……」

美影「はい、そうです、腕を揮って準備させていただきます♪」

佐久夜「わたしが行っても本当にいいんですか?」

圭治「佐久夜が食べるのは野菜だけだからな、問題ないぞ」

佐久夜「ありがとうございます、わたしも夕方ごろに伺いますね」

圭治「分かった」

65: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:12:13.76 ID:Mo3K5fmso

イソラ「魚取って来てやろうか?」

圭治「いいな、是非」

イソラ「任せろ! けー君のためにたくさん獲ってきてやるからな!」

幸子「食卓が豪勢になるのは嬉しいことさ~」

イソラ「けー君だけだ。おまえにはあげない」

幸子「圭治が残してしまっては魚も浮かばれないさ」

イソラ「ぬぬ……」


あれ、騒がしい千鶴美がいない……

振り返ってみると、藤花と並んでこっちを見ていた

あいつ、どうしたんだ?


圭治「おーい、帰らないのかー!」

美影「?」

千鶴美「けいじぃー! 参拝! 初詣してない!」


一同「「「 あ…… 」」」

幸子「ちっ」

66: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:13:17.48 ID:Mo3K5fmso

藤花「よもや、そのまま帰るとはのう」

鈴「なにしに来たでありんすか」

圭治「うっかりだ、うっかり」


面白可笑しく笑う藤花と呆れ顔の鈴


美影「温泉に浸かったことで本来の目的を忘れてしまいましたね」

幸子「さっさと終わらせるさ」

圭治「そうだな、お腹も空いたし」


賽銭を投げて、手を二回合わせる

水も鈴も無いから、気持ちだけはしっかり込めないといけない気がした

67: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:15:39.39 ID:Mo3K5fmso

目を瞑って願い事を探す



「けー君がもっと遊びに来ますように」


おいおい、俺に直接言えよ、イソラ



「けいじが幸せでありますように」


少しこそばゆいな、ありがと、千鶴美



「圭治にささやかな不幸が舞い降りてほしいさ」

圭治「うるせえぞ、疫病神」

「圭治の甲斐性が上がって、キャビアとトリュフとカニがたくさん食べられるようにするべきさ」


フォアグラはいいのかよ。というか、傲慢な態度だな



「願い事……願い事……うーん……」


妖怪が神様に願うこと、か。探すのは難しそうだな、瀬織



「この町に住むみなさんが、幸せでありますように」


お爺さんと同じか、らしいっちゃらしいな、佐久夜」



「――。」


聞き取れん。って、聞き耳をたてるなよ、俺



目を瞑って想うこと、それは

この日常が――。

68: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:17:05.55 ID:Mo3K5fmso

圭治「よし、っと」


目を開いて周りを見る。みんな終わったようだ


圭治「あれ……?」


藤花の姿が無かった。鈴も居ない


幸子「なにしてるさ?」

藤花「少し嫌な気配を感じての」

鈴「わっちもでありんす」

圭治「?」



幸子が見上げた先に藤花が浮いていた

上にいたのか



圭治「じゃ、帰るからな」

藤花「うむ。それではの」



下りて来て同じ目線になる


藤花と鈴を残して神社を後にする

69: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:17:57.00 ID:Mo3K5fmso

帰り道の途中でイソラと別れる


イソラ「後で行くぜ」

圭治「おう」



千鶴美と別れる所で思い出す


圭治「そうだ、喜善爺に挨拶しないとな」

千鶴美「じじぃが好きなときに来いって!」

圭治「そうか……」


それじゃ、後でいいか。とにかく眠たい



佐久夜「それでは後ほど」

圭治「あぁ」


軽く頭を下げて歩いていく

70: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:19:46.32 ID:Mo3K5fmso

行きより帰りが早く感じるのはどうしてなんだろうな

玄関の扉を開いて家に上がる


圭治「ただいまっと……」

美影「ただいま帰りました」

幸子「やっと着いたさ、飯にするさ飯~!」

千鶴美「ただいまー!」

瀬織「ただいまっと」


つい癖で帰りの挨拶を……って、待て


圭治「……」

千鶴美「ちぢゅみも腹減った」

圭治「喜善爺はなにも用意していないだろうから、別にいいけども」

瀬織「お雑煮なんて何年ぶりかな」

美影「わたしも長らくは食べていませんでした」

圭治「いやいや、おまえはどうしてここにいる」

瀬織「連れないねえ、圭治は」

圭治「橋はいいのか?」

瀬織「橋姫も正月まで働くことは無いということね」


それはそうなんだが


美影「いいではありませんか、たくさん作ってありますから」

圭治「……まぁ、な」

瀬織「お邪魔しま~す」


当たり前のように付いて来たことを指摘しているんだが

71: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:22:46.08 ID:Mo3K5fmso

千鶴美「ちぢゅみ、いっぱい食う!」

幸子「あたしの分が無くなるさ」


リビングで千鶴美と幸子がコタツに入っている


美影「すぐ準備しますから、座って待っててください」

圭治「うん」

瀬織「これは、なに?」

圭治「コタツを知らんのか」

瀬織「人の家に上がるなんてそうそうないからねえ」

圭治「マジか」

千鶴美「炬燵! 暖かい! 日本の文化!」

圭治「説明は以上だ」

瀬織「なるほどね」


分かったんか

俺たちもコタツに入る


瀬織「へぇ、これはいいね」

圭治「幸子は最近、ここで寝起きしているからな」

幸子「ここにいれば美影が飯やお茶を運んでくれるし、テレビもあるし、
    暖かいわでいたせりつくせりさ」

千鶴美「堕落した生活してる」

圭治「まったくだ」

幸子「痛くも痒くもないさ、きゃはっ」

圭治「妖怪でも暖かさを感じるのか?」

瀬織「寒さ暑さとは別だね。食べて味が分かるように、酒を飲んで酔っ払うように、
   暖かさや涼しさは感じるよ。意識の問題かねえ」

圭治「……」

幸子「それぞれさ、個体によって意識も違ってくるさ」

圭治「おまえ、夏は暑い暑いってぼやいていたじゃないか」

幸子「暑さを感じていたほうがアイスも美味しくなるってね、きゃはっ」

圭治「そうか。それなら今年の夏は控えめにしてもいいな」

幸子「しまったさー!」

千鶴美「さちこ墓穴! 墓穴掘った!」


アイスを食べたいから暑い暑いとうるさくしていたんだな
美影は涼しい顔しているから変だとは思っていたんだ

72: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:24:35.13 ID:Mo3K5fmso

いい香りが漂ってくる


美影「おまたせしました」

圭治「はやいな」

美影「暖めるだけでしたので」

幸子「いい匂いさ~」


ニコニコと俺たちにお雑煮を配る美影


幸子「御節が無いさ」

美影「今持ってきますね」

幸子「待ってるさ~」

圭治「手伝えよ」

幸子「正月早々神をパシらせるとはいい度胸さ」


そうはいっても動く様子が無い

しょうがない、俺が手伝うか

腰を上げたところで美影が申し訳なさそうに言う


美影「いいですから、圭治さんは座っていてください」

圭治「運ぶだけだろ? ならすぐ済むよ」

千鶴美「ちぢゅみも手伝う!」

瀬織「私も手伝おうかな」

美影「すいません」

圭治「二人は一応お客様なんだから座っててもいいのに」

千鶴美「運ぶだけならたやすい!」

瀬織「ふむ……」


疫病神をリビングに残してキッチンへ移動する俺たち

73: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:26:28.46 ID:Mo3K5fmso

瀬織「……」

圭治「どうした、キョロキョロして」

瀬織「厄が少し溜まっているね」

圭治「マジか」

千鶴美「これ?」

美影「はい、そうですよ」

瀬織「それじゃ、コタツへ戻るとしようか」

圭治「いや、待て」

美影「どうかしましたか?」

圭治「やろう……」

千鶴美「?」

瀬織「あらら」


疫病神が俺のお雑煮に箸を伸ばしていた


圭治「おいこら!」

幸子「騒々しいさ、なにさ?」

圭治「おまっ、俺のお餅取るなよっ!」

幸子「はぁ、濡れ衣さね」

圭治「見ていたんだよ!」

幸子「それを状況証拠というさ、きゃはっ」


御節を運びながら幸子を叱るが効果は無かった

しょうがない

74: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:28:45.97 ID:Mo3K5fmso

美影「はい、圭治さん」

圭治「おう」

瀬織「豪華だねえ」

千鶴美「いただきます!」

美影「はい、いただきます」

圭治「いただきます」

瀬織「いただきます。……うん、おいしい」

幸子「圭治、この皿におせちを各種盛り付けて欲しいさ」

圭治「あぁ? 目の前にあるだろうが」

幸子「紅白かまぼこしかないさ!」

圭治「しょうがないな」


幸子には手が届かない配置にしてあるからな。意図的に

皿を受け取って、紅いかまぼこを二枚乗せる


圭治「ほらよ」

幸子「むっきー! 圭治、わざとやってるさ!?」

圭治「当たり前だろう」

瀬織「紅は魔除け、白は清浄だっけ」

美影「はい」

千鶴美「はぐはぐはぐ!」


少しは気が済んだな

75: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:31:51.58 ID:Mo3K5fmso

千鶴美「もぐもぐもぐ」

瀬織「ほら、こぼしているから」


甲斐甲斐しくも千鶴美の世話をしている瀬織

姉妹に見えなくも無い


千鶴美「おぞうに! うまい!」

瀬織「出汁ががっつりきいてるね」

圭治「うん、美味い」

美影「ありがとうございます」

幸子「お肉ー、お魚も食べたいさー」

千鶴美「さかな! かまぼこ! 食べる!」


そう言って紅いかまぼこを幸子の皿に乗せる
こいつは嫌がらせではなく、素でやっている


幸子「勝手に取って食べるさ!」

圭治「俺の皿から取るな!」

幸子「もぐもぐ、海老はうまいさ~」

圭治「取ってやるから皿をよこせ」

幸子「かまぼこはもう二番煎じで面白くないから、空気をちゃんと読むさ」

圭治「うるさいよ」

美影「圭治さん、黒豆はダメですよ」

幸子「大好物なのに残念さ~」

千鶴美「くろ……まめ……?」

瀬織「黒くまめまめしく働きましょうって意味ね」

千鶴美「さちこがはたらくと困る!」


そういうことだ

御節の具材にはそれぞれ意味合いが込められているからな
ちょっとしたミスがこの家を不幸にしかねない。気持ちの問題かもしれないが

これは家主として重要な仕事だ

76: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:37:35.39 ID:Mo3K5fmso

圭治「えっと……」

美影「昆布巻きと、れんこん、錦玉子、伊達巻、紅白なますがよろしいかと」

幸子「うげ……」

圭治「なるほど」

瀬織「それらの意味は知らないな」

千鶴美「こんぶまきは一家の幸せ! しそん繁栄!」

圭治「そうそう、って知らないのか?」

瀬織「えぇ、縁がなかったからね」


そうか、おせち料理は家庭で作られるものだ
一人で食べる機会はそうそうない

俺も本来なら……


美影「れんこんは将来を見通せるとの願いを込めて」

瀬織「穴が空いているから、そうなるのね」

千鶴美「けいじも食べる!」

圭治「おう。ほら、幸子」

幸子「肉がないさー……」


千鶴美が俺の皿にもれんこん乗せてくれた


美影「錦玉子は財宝と富の象徴とされ、伊達巻は繁盛、繁栄を願い、
   紅白なますはめでたさの象徴ですね」

瀬織「伊達巻が気に入ったわ」

美影「ふふ、そうですか」

77: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:38:52.61 ID:Mo3K5fmso

圭治「遠慮するなよ」

幸子「次は肉を乗せるさ」

圭治「分かったよ、残っていたらな」

幸子「なにを言ってるさ?」

千鶴美「うまうま!」

瀬織「よく食べるわね」

千鶴美「よく食べる!」

美影「おかわりたくさんありますからね」

千鶴美「たくさん食べる!」

圭治「ほら、千鶴美いっぱい食べとけ。お肉にお魚、海老だ」

千鶴美「うまい!」

瀬織「肉がなくなったわね」

幸子「嫌がらせさ! お肉のおかわりを持ってくるさ美影!」

美影「ごめんなさい、残りのお肉はお鍋の分になるから、もう出せないの」

幸子「うがー!!!」

圭治「騒々しい神様だな」



お雑煮の汁をすする

おいしい


78: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:40:38.43 ID:Mo3K5fmso

結構な量があったんだが……


千鶴美「げふー」

瀬織「仮にも女の子でしょ、はしたないよ」

千鶴美「腹いっぱい」

圭治「ごちそうさま」

美影「はい、お茶をお持ちいたしますね」

瀬織「たしかに至れり尽くせりね」

幸子「ゲームでもするさ」

圭治「なに食べてんだよ」

幸子「コタツで食べるアイスも最高さ」

圭治「……」


言葉を失う


コンコン

庭に通じる窓が音を鳴らす

ノックをしたのは鈴だった


圭治「どうした?」

鈴「様子を見に来たでありんす」

圭治「様子?」

鈴「わっちもよく分からないでありんすが、主様が気にしていたでありんすよ」

圭治「藤花が……?」

鈴「ついでに遊びにも来たでありんす」

千鶴美「けいじ! あそぶ!」

圭治「遊ばない。鈴の相手をしてやれ」

千鶴美「相手する!」

鈴「わっちを見た目で判断すると痛い目みるでありんすよ」

幸子「丁度いい、ゲーム対決するさ」

圭治「いや、待て」


確か、屋根裏に羽子板があったはず

正月らしくていいかもしれない

三人を待たせて屋根裏へ向かう

79: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:42:00.08 ID:Mo3K5fmso

ここは疫病神、幸子の寝床だ

俺の漫画や拾ってきたであろう雑誌が散乱していた


たしか、この棚に……あった

お袋とよくやったな。負けたら顔に墨を付けたりしたもんだ

いや、相手をしてくれたのはお袋だけじゃなかった……


この家にはずっと昔から妖怪が住んでいたんだ

住んでいたんだ……


感傷的な気分を払拭するために頭を振る

羽子板と習字セットを持って一階へ向かう

ふと、違和感を覚える


俺の部屋になにかいる


何だ?


嫌な感じはしないが、不気味ではある


得体の知れないものがいるという恐怖


体に嫌な緊張が走る


喉を鳴らして、そっと扉を開く

80: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:44:38.90 ID:Mo3K5fmso

圭治「……おい」

瀬織「ん?」

圭治「どうしてここにいる」

瀬織「リビングは騒がしくてね、お邪魔してるよ」

圭治「……」

瀬織「漫画が豊富でいいね、ここは」


視線をこっちに向けない

別にいいけど、一言断って欲しいもんだ

1度だけ招いたことがあるけども、だ


圭治「荒らすなよ」

瀬織「うん、分かってる」


常識を持っているかのように応える

まったく

部屋を後にする



千鶴美「お姉ちゃんは?」

圭治「俺の部屋で漫画読んでるよ」

千鶴美「それは! なに!?」

圭治「あぁ……」

鈴「相手にならないでありんす」

幸子「ぬう……」



二人はゲームをしていた

待っていられなかったらしい

しょうがない、千鶴美とやるか



圭治「千鶴美、遊ぶぞ」

千鶴美「あそぶ!」

81: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:45:14.73 ID:Mo3K5fmso

美影を確認すると皿洗いで忙しいみたいだ

視線を感じたのかこっちをチラッとみる



美影「……」

圭治「……」



笑顔で返された

忙しそうだから後にするか

82: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:46:45.63 ID:Mo3K5fmso

縁側に習字セットを置く。とりあえず試合が先だ


圭治「ほら」

千鶴美「なにこれ」

圭治「これは羽子板という。この羽根を交互に跳ねて落としたほうが負けだ」

千鶴美「分かった!」

圭治「よし、じゃ行くぞ」

千鶴美「こい! けいじ!」

圭治「……」

千鶴美「どした?」

圭治「10歩くらい退がってくれ」

千鶴美「どうして?」

圭治「分かってねえな……。近いとやりづらいだろ?」

千鶴美「分かった!」


テッテッテと距離を取る


圭治「行くぞ!」

千鶴美「こーい!」

圭治「それっ」


コーンといい音が鳴る

懐かしい響きだった


千鶴美「あちょー!」


ゴンッ

周囲に重い音が響く


圭治「うおっ!」

ビュンッと俺の顔スレスレで飛んでいった

あ、あぶねえ


千鶴美「けいじの負け!」

圭治「待て待て、力勝負じゃないんだぞ」

千鶴美「?」

圭治「ゆっくりだゆっくり羽根をラリーするんだ」

千鶴美「わかんない!」

圭治「やって見せたほうがはやいんだろうけどなぁ」


羽根を取る

どうしたものかな

83: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:48:10.69 ID:Mo3K5fmso

美影「千鶴美ちゃん、貸してもらえませんか?」

圭治「?」

千鶴美「んー。はい!」


千鶴美は少し躊躇して、美影に羽子板を渡す

俺の相手になるっていうのか


圭治「手加減はしないからな」

美影「はい、いいですよ」

幸子「その勝負待つさ!」


なんだ?


幸子「ほれ、圭治の顔に書くさ」

千鶴美「なんでもいい?」

幸子「なんでもいいさ」

千鶴美「分かった!」


ちっ

なんで知ってんだよ

厄払いの遊びでもあるから、罰ゲームは知らないと思っていたのに


鈴「なんでありんすか?」

幸子「顔に落書きができるさ」

千鶴美「けいじ、じっとする!」

圭治「はいはい」


くすぐったいな


千鶴美「終わった! けいじ、変!」

鈴「男前でありんすな」

幸子「罰は受けないといけないさ」

美影「クスクス」

圭治「行くぞ、美影」

美影「はい」

84: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:49:15.07 ID:Mo3K5fmso


カーン

   コーン

カーン

   コーン



終わらないラリーが続く

俺がどう打っても美影は拾ってくる

美影は俺の拾い易い場所に落としてくる

終わらない


懐かしい

小さい頃にも同じように羽子板で遊んだ相手がいた

美影のようにいつまでも続かなかったが

美影のように妖怪でもあった


どうして懐かしくなるんだ


圭治美影「「 あ……! 」」


気が緩んで負けてしまった


美影が遠慮をしたので、幸子から罰を受けた

また懐かしい気分になった

どうしたんだろうか

85: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:50:47.88 ID:Mo3K5fmso

千鶴美「けいじ、ちぢゅみと勝負!」

圭治「悪い、今ので疲れたから休憩だ」

千鶴美「ぶー!」

圭治「鈴、相手してやってくれ」

鈴「しょうがないでありんす~♪」


羽子板を鈴に渡して靴を脱ぐ


幸子「どこへ行くさ?」

圭治「顔を洗ってくる」

幸子「男の勲章なのにさ」

圭治「……」


無視だ、無視

リビングに上がると違和感を感じる


なんだ?


瀬織「どうしたの、その顔は」

圭治「うわっ!」

瀬織「どうして驚くのよ」

圭治「びっくりした、……なんだよ、下りてきたのか」

瀬織「楽しそうな声がしたもんでね」

圭治「ふむ……」


庭に向かう瀬織

洗面所へ向かう俺


違和感の正体は瀬織だったのか

86: SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) 2012/01/02(月) 22:51:46.27 ID:Mo3K5fmso

圭治「ふぅー」


濡れた顔をタオルで拭く

そうだ、ハンカチを洗濯しておかなくては


ポケットからハンカチを出すと同時に一枚のコインが落ちる

チャリン

コロコロコロ


圭治「おっと……」


慌てて拾い、ポケットへしまう

無くさないようにしないと

87: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/02(月) 22:53:34.33 ID:Mo3K5fmso

リビングへ戻ると庭から賑やかな声が聞こえてきた

縁側へ通じる窓が開いているのでそこから冷たい空気が入ってきている


窓際で目を細めて眺めているのは美影だった


美影「あ、圭治さん」

圭治「みんなで遊んでいるのか」


美影に並んで庭を眺める


千鶴美「そぉれっ!」

ゴーン


瀬織「そりゃっ」

ゴンッ


音が異質だった


圭治「いい勝負だな」

美影「そうですね」

88: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/02(月) 22:54:39.72 ID:Mo3K5fmso

幸子「さっさと決着を着けるさ~」

鈴「あなどれないでありんす」


鈴の顔が真っ黒だった

それを確認してソファに座る


圭治「ふぁあ……」

美影「お茶を淹れましょうか」

圭治「うん……頼む……」

美影「はい」


ぱたぱたとキッチンへ歩いていく


その音を聞いていると眠気が増していくのが分かった


圭治「朝早かったからなぁ……」


ここからでも庭の様子が分かる

瀬織が負けたみたいだ

強いな千鶴美


89: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/02(月) 22:55:39.65 ID:Mo3K5fmso

美影「どうぞ、圭治さん」

圭治「うん」


口から喉へ。喉から全身へ暖かさが広がっていく

温かいな、ここは


美影「毛布もどうぞ」

圭治「……うん」


ここで仮眠をとるか

部屋まで戻るのも面倒だ

体をソファに沈める。丁度いい枕もある。美影が使っているクッションだろうか

冷たい空気と暖かい毛布で気持ちがいい


90: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/02(月) 22:56:51.49 ID:Mo3K5fmso

美影「……」

圭治「……美影」

美影「はい?」

圭治「また、起こしてくれ……」

美影「はい。大丈夫ですよ」



それを聞き終わると意識が遠のいていく

深く、深く


遠く、遠く



ゆっくり、ゆっくり




溺れていくように





この日常が続いていけばいいと願いながら――






―――――――


91: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:09:25.55 ID:QrY+meWro

―――――――






誰かが俺の名を呼んでいる





ゆっくり、ゆっくりと意識が覚醒してくる




「圭治君! ほら起きて!」



穂波か……


そうだ、勉強の途中だった

重たい瞼をこじ開ける


穂波「おはよう、圭治君」

圭治「……おはよう」


って、お昼だろうが


圭治「1時間くらい寝てた?」

穂波「うにゃにゃ、2時間だよ」

圭治「えっ!?」

穂波「あはは、わたしも寝ちゃってた」


外はいい天気だからしょうがないか

今日は暖かい

92: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:10:43.16 ID:QrY+meWro

圭治「今日って何日だっけ?」

穂波「うにゃ? 1月10日だよ」

圭治「……」

穂波「?」

圭治「……あぁ」

穂波「あー、なになに、妖怪さんに悪戯された?」

圭治「いたずら?」

穂波「うーん、寝ている間になにかされたのかなって」

圭治「いや……」

穂波「冗談は置いといて、勉強しますか!」

圭治「そうだな、センターまで時間もないし」


なんで日付を聞いたんだ、俺は……


ま、いいや

受験に向けて勉強を再開しないと

時計を確認する
もうそろそろ風野も来る時間だ


週に2、3度、俺の家で勉強会を開いていた

一緒に勉強をしている彼女の名前は瑞原 穂波
時枝学園の友人だ。妖怪研究会、もとい、郷土歴史研究部の部長である
彼女に誘われて入った部だけど、そのおかげで色々と救われた

93: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:11:19.91 ID:QrY+meWro

ピンポーン

穂波「あ、来たね」

圭治「悪いけど、迎えてきてくれないか」

穂波「おっけ~」


そう言って玄関へ向かう

その間にお茶を淹れなおしておこう

来て早々勉強しても集中できないだろうから


キッチンへ行き、やかんに水を入れ、ガスコンロに火をかける

お菓子はいつもの棚に置いてあったな

風野は甘いのより渋めがいいから、酢昆布でいいか

94: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:12:10.71 ID:QrY+meWro

「やぁ、こんにちは」

圭治「おう、バイトお疲れ様」

「大した仕事量じゃないけどね」

穂波「風野君、上着を預かるよ」

風野「悪いね、部長」

圭治「座っててくれ、俺たちも休憩するから」

風野「あぁ」



風野三郎
穂波と同じく同じ学園へ通う友人だ。もちろん同じ部に所属している
本を読むのが好きで、時間があるといつも読んでいる。食事中もだ

95: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:12:51.09 ID:QrY+meWro

お盆に急須と酢昆布を乗せて炬燵へと運ぶ


風野「いつ来ても綺麗にしているね、この家は」

圭治「あぁ、部に入るまでは適当だったんだけどな、それからは心を入れ替えたんだ」

穂波「偉いよね~、圭治君は」

圭治「そうでもないよ」

風野「広い家を一人でちゃんと管理しているんだ、凄いよ」

圭治「……うん」


部に入る三ヶ月前に、俺の両親は事故で死んだ

家の財産が根こそぎ親戚に奪われ、自暴自棄になっていた
去年は不幸が不幸を呼んだ一年だった

その不幸の原因が妖怪だと信じて疑わなかった

人間も妖怪も嫌いで、嫌で嫌で仕方がなかった

心が壊れていた



見鬼の俺は、妖怪を見ることができて、
妖怪と話すことができて、
妖怪に触れることができる

96: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:13:51.30 ID:QrY+meWro

昔からこの家には座敷童が住んでいた

この家に幸福をもたらしていたのは座敷童である彼女、ミドリのおかげだった


その幸福の象徴であるミドリが出ていってしまった

そのせいで不幸になったと信じて疑わなかった

でも、そう思っていたのは間違いなのかもしれない

まだ、気持ちの整理はついていないが、

ミドリへの恨み、悔いが癒えている気がする

許せるようになるにはもう少し時間が欲しい



心を取り戻したきっかけがなんだったのか、それが思い出せない

97: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:14:40.60 ID:QrY+meWro

穂波「ちゃんと聞いてくれてない!?」

圭治「ん?」

風野「生返事だったから、どうかした?」

圭治「いや……」

穂波「それでね、センターが終わったら喜善さんに詳しく聞きに行きたいと思うの」

圭治「なにを?」

穂波「やっぱり聞いてないよー!」

圭治「???」

風野「去年の夏まで、この町は色々と妖怪の噂話があったのは覚えているよね?」

圭治「あぁ……」

穂波「夏以降まったく聞かなくなったでしょ?」

圭治「勉強に集中していたし、予備校にも行っていたからじゃないの?」

穂波「ううん、それがそうじゃないみたいなの」

風野「元木川の上流にいた河童の話があったよね」

圭治「あぁ、いたはずだ」


10年近く会ってない、名前も思い出せない

98: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:17:39.28 ID:QrY+meWro

穂波「その頃から産廃処分場の建設が始まったでしょ」

圭治「……」

穂波「そのせいで姿を消しちゃったと思うの」

圭治「うん……?」

穂波「だって、私たち一緒に見に行ったじゃない」

風野「見えるのは五日市だけだから、居ないかどうか分からないけどね」

穂波「産廃処分場の建設と同時に各場所の噂話も途絶えているのよ!」

圭治「それはいいが、ちゃんと勉強しているのか」

穂波「う……」

風野「まぁまぁ」

穂波「白沢商店があったでしょ?」

圭治「あぁ、2年前に店主のお婆さんが亡くなって閉店してしまった……」

穂波「ところが、夏まではまた開いていたのよ!」

圭治「マジか? 店主は誰だよ」

穂波「んー…、名前は知らないんだけどね、にゃはは」

圭治「……」

穂波「ちょっと怪しいよね?」

圭治「まぁ……な」

風野「篠橋の話も無くなったよね」

穂波「そうそう、カップルで橋を渡ると必ず別れる篠橋!」

圭治「ふーん……」

穂波「他にも、スーパーササキの近くを走り回る謎の少女の話」


あったな、そういえば

なにか居たかもしれないが、
その時はまだ妖怪と関わりたくなかったので避けていたんだ

会いに行けばよかったのかもしれない

99: 以下、あけまして、おめでとうございます 2012/01/03(火) 00:19:35.31 ID:QrY+meWro

穂波「同時期に消えていった話だよ、絶対になにかあるよね!」

圭治「どうかな……」

穂波「だからね! 喜善さんに聞きに行こうよ!」

風野「話も聞きたいしね」


喜善爺
俺の親権者だ。親戚に財産を奪われていったけど、この家を守ってくれた人だ
俺の心強い味方だ。喜善爺も見鬼で妖怪を見ることが出来る

二人は話を聞くのが好きみたいだ。ちょっと見方が変わるな


風野「そろそろ勉強を始めようか」

穂波「そうだね」

圭治「そうだな」


ふと、窓へ視線を向ける


今日は暖かい日差しだ


冬から春へ季節は流れていた

100: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 02:56:56.95 ID:QrY+meWro

黙々と問題を解いていくこと数時間

外は茜色から暗闇へ入っていく時間になっていた


風野「今日はここまでにしようか」

圭治「……ふぅ」

穂波「その言葉を待っていたー!」


バタリと倒れこむ穂波

さすがに疲れたな


圭治「結構遅くなっているけど、時間大丈夫か?」

穂波「うにゃにゃっ! 早く帰らねば!」

風野「急いでるの?」

穂波「今日は早く帰れと言われているのよ」


穂波に合わせて風野も勉強道具を急いで仕舞う


穂波「そんじゃ、また明日!」

圭治「そこまで送るよ」

穂波「うん、よろしく」

風野「よいしょっと」


三人で家を出る

101: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 02:57:27.08 ID:QrY+meWro

穂波「うひゃー、さむーい」

風野「来る時は暖かかったけどね」

圭治「うん」

風野「それじゃ、二人ともまた明日ね」

穂波「気をつけてね~」

風野「部長もね」

圭治「それじゃ」


風野と穂波の帰り道は間逆だからここで別れる


穂波「ササキにでも行く?」

圭治「そうだな、買い物しておこう」


急に一人になると寂しくなるから、俺は穂波に甘えていた


102: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 02:59:24.92 ID:QrY+meWro

ササキに向かって歩いていると一つの橋にさしかかる


穂波「ここだよここ!」

圭治「?」

穂波「ほら、ここをカップルが通ると必ず別れるって話!」

圭治「橋の下になにかいるかもな」

穂波「圭治君の妖怪センサーを信じて行ってみるね!」

圭治「いや、そんなアンテナなんて俺にはないぞ」


ツッコミを聞かずに穂波は降りていく

しょうがない、俺も見てみようかな

居るかもしれない、ちょっとした期待があった


穂波「うーん、綺麗なもんだねぇ」

圭治「……」


やはりなにも居なかった

噂は所詮噂だったんだな

居たらどうしたんだろうか

103: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:00:17.31 ID:QrY+meWro

橋を渡って穂波と別れる


穂波「それじゃ、明日!」

圭治「おう」

穂波「ちゃんとご飯食べるんだよ!」

圭治「おう!」

穂波「暖かくして寝るんだよー!」

圭治「おーう!」

穂波「遅刻するなよー!」

圭治「……」


最後は黙って手を振った

穂波の明るさに支えられていた

風野に進路の相談を親身に受けてもらった

喜善爺が気に掛けてくれている

そういう人たちがいたことを思い出させてくれた


圭治「なにを食べようかな」


ササキへ向かって、独り言を呟いていた

104: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:01:10.88 ID:QrY+meWro

買い物袋を下げて家に辿り着く

家の中は真っ暗だった

キッチンの明かりくらいは付けておけばよかったかな

暗い家に入るのはまだ慣れていなかった


今日は疲れているのでインスタント麻婆豆腐にする

いつもは色々と工夫を凝らすんだが……

まぁいいや、試験が終わったらまた作ればいい

その時は本格的にしよう


キッチンで一人、中華鍋を振る

大好物の匂いなのに、嫌いになりそうだな


この家に一人で居るのはやはり寂しすぎる


麻婆豆腐を皿に盛り付けて、ご飯をよそう

テーブルへ運び、椅子に座って


圭治「……」


なにも言わずにご飯を口に入れる


普通の麻婆豆腐だった

美味しくも不味くもない、ただの麻婆豆腐だ

105: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:05:43.38 ID:QrY+meWro

両親を事故で亡くして以来、俺は自暴自棄になっていた

学校へ行って、ササキで惣菜を買って、家でそれを食べる

その生活サイクルが出来上がっていた

休みの日には家で時間を潰していた

どうでもよくなりかけていた

文字通り潰していたんだ、夏前までは

喜善爺が倒れたその日までは


たまたま喜善爺の家に顔を出しに行った

玄関で伏せて倒れていた


あの時の気分は忘れられない

全身から血の気が引いていくような、意識が遠のいていくような

目の前が真っ暗になりそうで、頭が考えることを拒否したみたいだった


呻いている喜善爺に我を取り戻して、駆け寄るとただの風邪だと本人が言い出した

医者を呼んで診てもらうと、本当に風邪だった


その時、喜善爺を失っていたら

本当に壊れたかもしれない


それからは看病をしながら家の掃除をした

屋根裏から順に2階、1階へと、トイレも風呂も庭も、手が届く全てを


喜善爺をこの家に呼ぼうと思っていたからだ

面倒を見よう、一緒に暮らそうと本気で考えていた


が、喜善爺にも長年暮らしてきた家がある。愛着のある家だ

無理強いは出来なかった

俺が移住することも考えたが、この家から離れる気も起きなかった


圭治「なんだ、きっかけってそれだったのか……」


一人、誰に言うでもなく呟いていた

106: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:06:33.33 ID:QrY+meWro

圭治「……」


なにも言わずに食べ終える

流しへ食器を運ぶ


頭の中で今日やった箇所を復習していたから、あっという間に洗い終わった

後は、風呂に入って、勉強をして、寝るだけだ

107: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:07:31.03 ID:QrY+meWro

圭治「……」


風呂から上がって二階へ行く


部屋に入る前に、ふと屋根裏が気になった

さっき、もの想いに耽っていたからだろうか

ちょっと覗いてみよう


圭治「……」


なにもなかった

ひょっとしたら、小動物かなにかが住んでいるかもしれないと期待をしていた

越冬するために、とか



家の戸締りをチェックして、部屋に戻る

盗るものなんてなにもないけど



部屋に戻って勉強を始める

しずかすぎて、たまに集中できない時があるが、今日は気合が入っていた

108: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:09:23.12 ID:QrY+meWro

気付けば深夜に入ろうとしていた


休憩を兼ねて、コーヒーでも淹れに行こう

腹も減ったしな、なにか食べておこう


明日の予定をなんとなく考えてみる

朝起きて、軽く朝食を取って、学校へ行き、授業を受けて、

部室へ寄って、気が向けばそこで勉強をして、家に帰ってご飯を作って食べて

この時間まで勉強をして、寝る


なんというか、寂しい人生だな

一人苦笑してみる


そんな日々を夏から繰り返してきて、学園を卒業するまで繰り返していく

卒業したら、俺は東京の大学へ行く

この家からも離れるから、生活が変わる

大学に合格すればの話だが


明日は喜善爺の家に寄ってみよう

なんてことも考えながら

机に向かう


忙しくしている今が、少しだけ楽な気でいた

109: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:10:18.47 ID:QrY+meWro

目まぐるしい日々が続いた


センター試験、大学の下見、アパート探し、両親の一周忌、妖怪探し


最後のはもちろん、妖怪研究会の活動だった

特に真新しい妖怪も居ないので、完全に遊びに行くだけだった

風野も楽しんでいたようだし、穂波も俺も楽しんでいた

救われていた


110: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:11:38.69 ID:QrY+meWro

穂波「はい、圭治君!」

圭治「なにそれ」

穂波「んもー、バレンタインチョコだよぉ」

圭治「あぁ」

穂波「『あぁ』じゃないよ、まったく。プンプン」

圭治「サンキュ」

穂波「あ、本命って言えば良かった?」

圭治「ウン」

穂波「うわ、生返事だ!」

風野「……」


このやりとりを無視している風野だった


穂波「はい、風野君、本命チョコだよ♪」

風野「甘いの嫌いなんだ」

穂波「うわっひどいよそれ! ほんっとーにヒドイよ!?」

風野「ごめん、いただくよ」

穂波「風野君にはあげないよっ、私が食べちゃうもんね!」


バリバリっと包装紙を破ってしまった
本当に自分で食べる気だ


穂波「うん、おいしー」

風野「ごめん、ちゃんとお返しするから」

穂波「それじゃみんなで食べよー」

圭治「そんじゃ、俺のもみんなで」

穂波「それもひどい話だよ!?」


ワイワイガヤガヤとした時間が過ぎていく


111: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:12:27.93 ID:QrY+meWro

穂波「そいえば、圭治君、他の女の子からも貰っていたよね」

圭治「なんで知っているんだ」

風野「へぇ……」


今までのやりとりを本を読みながらしていた風野が顔を向けてくる

興味がある話にはちゃんとこっちを向いてくる

というか、穂波のチョコをこれで流していたんだ
穂波もよく気にしないもんだな


穂波「あの子、私の知り合いの友人の顔見知りなんだけど、どうなのかなどうなのかな?」

風野「完全に他人だよね」

圭治「……」

穂波「黙秘権を主張しますかー?」


と、インスタントカメラを出してくる

なんだそれは


圭治「なんだそれは」

穂波「証拠がバッチリ収められています」

圭治「そんなの撮るなよ……」

穂波「いいからいいから、どうなのよ~ん?」

風野「興味あるな」


いつも味方をしてくれる風野もそっちにまわるか


穂波「付き合うの? 付き合っちゃいますの!?」

風野「……」

圭治「いや……」


そういう気分になれないし、って告白されたわけでもないんだが

ホワイトデーにお返しをあげたいけど、その時はこの町にいないからな


圭治「気持ちは嬉しかったな」

穂波「そっかー……」

風野「……」


興味を失ったのか、読書の続きを再開した風野

112: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:13:33.01 ID:QrY+meWro

圭治「風野はどうなんだ?」

風野「本命から貰う予定」

圭治「……え」

穂波「貰う予定ってどういうことよ」

風野「そういうことだよ」

穂波「うにゃにゃ?」

圭治「つ、付き合っている人がいるってことか……?」

風野「うん」

穂波「えぇぇええーー!?」

圭治「な……」


いつの間に……


穂波「な、名前は!?」

風野「秘密」

穂波「ヒント! ヒントをくださいまし!」

圭治「……」


なんでそんなに必死なんだ

俺も気になるけど


風野「ヒントは二文字、さご、だよ」

穂波「沙悟浄?」

圭治「失礼だろ。なんとなく」

風野「……」

穂波「三蔵法師みたいな人を仕えているってこと?」

圭治「……」


どんどん離れていってる気がするが


113: 以下、あけまして 2012/01/03(火) 03:14:46.97 ID:QrY+meWro

圭治「もしかして、あーさん?」

風野「よく分かったね」

穂波「圭治君が知っている人なんだー!?」

圭治「なるほど」

穂波「うわ、凄い気になるよ。この学校に居る人じゃないよね!」

風野「……」

圭治「まぁ、居ないよな」

穂波「うにゃにゃにゃ」

圭治「あーさん、さご。が正しいよね」

風野「うん」

穂波「えぇー!?」


混乱させるかな

整理しただけなんだけど

ア行さん、サ行ご
うそ。居ないってだけの話なんだがな


穂波「朝来さん?」

風野「くっつけただけだよね」

圭治「ククッ」


面白いな

こんな時間が過ぎていく

いつか、取り戻したくても取り戻せない時間が過ぎていく

そんな時間が存在することが嬉しい


116: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:07:42.80 ID:nXWdufXzo

授業の日程が全て終わり、明日の卒業式を迎えるだけとなった

俺たちは部室の掃除、整理をしている

この部はどうなるんだろうか、俺たち3人の卒業と共に誰もいなくなってしまう


圭治「なぁ、穂波」

穂波「なんでしょう、圭治君」


俺は窓を拭きながら、床を掃いていた穂波に聞いてみる


圭治「この部、どうなるんだ?」

穂波「……」

風野「郷土歴史研究部は由緒ある部活動だと言っていたよね」

穂波「……」


穂波の顔に影が落ちる

3年間活動していた部だけに、思いもひとしおだろう


穂波「フッフッフ」

圭治「あれ……?」

風野「……?」


一変して不敵な笑みを浮かべる

触れてはいけない禁忌だったのか

117: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:08:19.93 ID:nXWdufXzo

穂波「逆転サヨナラ満塁ホームランだよ、圭治君っ」

圭治「え?」

風野「……」


風野と二人で呆気に取られていると扉からノックが響いた

コンコン


穂波「丁度いいタイミングだね!」


テッテッテと入り口へ走り寄り、扉を開く穂波

ガラガラガラ


そこには見覚えのある女の子が立っていた


女の子「こ、こここんにちは」

穂波「彼女が新入部員です!」

風野「へぇ……」

圭治「……マジか」

穂波「マジです」



俺にチョコをくれた女の子だった

118: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:10:10.28 ID:nXWdufXzo


女の子「それでは、先輩方、お先に失礼します」

穂波「はーい、また明日ねー」

風野「おつかれさま」

圭治「じゃあね」

女の子「……」


しずかに頭を下げて帰っていった

閉まる扉の音を最後に、この部屋に静寂が漂い始める


穂波「……」

風野「……」

圭治「……」


時刻は夕暮れ

帰って明日の準備をしなければいけない

だけど、誰も立ち上がろうとしなかった

もう少し、もう少しだけ、ここで時間を過ごしていたかった


穂波「卒業しちゃうんだねー……」

風野「そうだね」

圭治「……」

穂波「……っ……ぐすっ」

風野「後悔してないの?」

圭治「してないっての」


穂波に気遣って、俺に話題を振る

話題を探していたから、助かった


穂波「そ、そうだよっ、あんなに可愛いのにっ」

風野「……」

圭治「まぁ……」

穂波「あ、後悔してるよ……」

圭治「いや、明後日にはこの町から出て行くんだ、残していくのはちょっとな」

風野「遠距離恋愛、いいと思うけど」

穂波「そうだそうだ」

圭治「一度リセットしたいんだ。俺はここから遠く離れて、暮らしていく。
   喜善爺がいるから、この町とは切り離せないんだけどな」

穂波「……」

風野「……」


これは俺の決意だった

119: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:11:57.66 ID:nXWdufXzo

圭治「一年後、帰ってきて、彼女が俺よりもカッコイイ奴と並んでいたらそれでいい」

穂波「おぉ、かっこいいよ、圭治君」

風野「……家の掃除を一人でしたのも、その意思の表れなんだね」

圭治「……うん」


大学の合格が決まった後、俺は家の掃除を始めていた

決別をするために


圭治「あの子に部室の鍵を渡す穂波の姿は、本当の部長みたいだったな」

風野「そうだね」

穂波「こらこら、本当に部長だったんですけどー?」


あの女の子は俺に好意を持ってくれていた

どうでもいいと、自暴自棄になっていた頃の俺の姿に恐れを抱いていたそうだ

話したことなんてないのにな


この部へ出入りするようになって、俺自身も変わっていった

その変化が気になっていたという

常に穂波が近くに居たから、恋人だと勘違いをしていたそうだ

最後にチョコをあげて、気持ちを整理したと、そういうことらしい

穂波が彼女に声をかけたことでこれらの事実を知ることができた


穂波は俺を餌に妖怪研究会へ誘いをかけた

だが、妖怪は怖いとのことで、一度は断られていた

そして今日、郷土歴史研究部へ顔を出さないかと誘ったところ

非常に興味を持たれたんだとか

それがきっかけで入部を決意したのもおかしな話だった

人生何があるか分からないものだ


穂波「もっと早くに声をかければよかったよー」

風野「そうだね……」

圭治「……」


本当に逆転サヨナラだと感じた

後輩ができただけでもいいことなのかもな

120: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:13:50.02 ID:nXWdufXzo

穂波、風野、俺、あの子の4人の時間が存在したのかもしれない


穂波「んー……っと」

風野「……」

圭治「……」


体を伸ばす穂波

スッキリとした表情を垣間見る


穂波「それじゃ、帰ろっか!」

風野「うん」

圭治「あぁ」


その言葉で、俺たちの、最後の部活が、終わった

121: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:15:01.81 ID:nXWdufXzo

三人の長い影が並ぶ

俺と、穂波と、風野の長い影が並ぶ

校門から出るのは明日で最後なんだな


風野「それじゃ、明日」

穂波「ばいばーい……」

圭治「じゃあな」


自転車に跨って、走っていってしまった


穂波「帰りましょう!」

圭治「……」

穂波「あ、見てみて、圭治君!」

圭治「……?」


穂波が指したのは校門の外れにある桜の木だった


穂波「桜のつぼみだね」

圭治「……あぁ」


俺がこの桜を見るのはいつになるだろうか

少なくとも、この蕾が咲かせたところを見ることはできない


穂波「どうして明後日なの」

圭治「……」


真剣な問いだった

風野は理解してくれていた


俺たち三人は大学は違うけど、同じ東京に引っ越すことになっている

だから、今のようにいつでもって訳にはいかないが、会うことはできる


穂波の問いは、どうしてそんなに急いでいるのかということなんだ

今の気持ちをちゃんと言葉に出してみる

122: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:16:07.65 ID:nXWdufXzo

圭治「穂波と風野が家の掃除を手伝ってくれようとしたよな」

穂波「……断れたけどね」

圭治「うん。一人でやりたかったんだ」

穂波「……」

圭治「生まれてからずっと、お世話になった家だから」

穂波「……うん」

圭治「その家にずっと一人で居るのは、正直辛いんだ」

穂波「……」

圭治「だから、一足先に向こうへ行って、流れに身を任せてみる」

穂波「圭治君……」


いつかは家の維持、管理が出来なくなるかもしれない

その時が来たら手放してしまうから、

俺なりの恩返しをしただけなんだ


圭治「それじゃ、明日」

穂波「う、うん……」

圭治「暖かくして寝ろよ」

穂波「うん! それじゃあね!」

圭治「おう」

穂波「また、明日!」


そう言って、俺たちはそれぞれの帰路に就く


今日の晩御飯は豪勢にしよう、なんて考えながら歩き始める

123: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:17:20.41 ID:nXWdufXzo

圭治「……」


なにも言わずに家に入る

帰りの挨拶は迎えてくれる人が居てこそ成り立つ

それが人でなくても



圭治「……」


本格的な麻婆豆腐を作って、食べて、後片付けをして、明日の準備を済ませる

風呂前にやることは、掃除だけだ

とは言っても、大方やり尽くしていたので、今までの成果を確認するだけだった

家の中を歩き回った後、風呂に入った


疲れがないと、寝つきが悪い

余計なことを考えてしまうから、忙しくしていたかった




圭治「……」


勉強でもするか

いや、それらの荷物は一式向こうへ送ってしまっている

気が削がれたので、漫画を読むことにする


掃除の時に昔読んでいたやつが出てきたのを思い出す

屋根裏にあるはずだ



圭治「……」


ゆっくりと屋根裏に入る

どこへ片付けたっけ


ダンボールに入っているはずだ


あった。一冊手にとって開いてみる

懐かしいキャラクターが走り回っていた


昔は二人で読んだこともあった

二人で笑いあった

読む速度が違うから、よくケンカにもなった

それでも二人で読んでいた


ここで読んでいよう

飽きたら寝よう

124: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:18:19.50 ID:nXWdufXzo

圭治「……」


気付いたら結構な時間が過ぎていた

部屋に戻って布団を被る

ゆっくり眠れそうだ





夢を見た





ジリリと朝を知らせる時計を止める


圭治「……」


今日で卒業だ


喜善爺は来てくれるのかと、少し期待をした

いい夢を見たせいだ

どんな夢かを思い出せない

とても気分がいいから、きっといい夢だったんだ

125: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:19:49.14 ID:nXWdufXzo

圭治「……」


朝食を取りながら、外の暖かい日差しを眺める

卒業式にはピッタリな日だ、良かった



圭治「……」


なにも言わずに玄関の戸を開いて、閉める

誰に言うでもないが、言えば良かったと少し後悔した



通学途中で穂波を見つける


穂波「おー、来た来た、おはよー!」

圭治「おはよう」

穂波「そんじゃ行きますか」

圭治「待ってたのか?」

穂波「うん、一緒に登校しようと思ってね」

圭治「最後だからか」

穂波「最後だからだよ、一人は寂しいもんね」

圭治「……」


そうだな、一人は寂しい



学校へ到着して、穂波と別れる


自分のクラスへ入ると同時に声がかかった


「おはよう」

圭治「おはよう」

「卒業だなー」

圭治「あぁ。晴れてよかったな」

「良かったぜ、卒業日和だな」

「なにそれー」

圭治「ははは」


離れていった友人たちとも、また喋られるようになっていた

126: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:21:04.95 ID:nXWdufXzo

担任が来て、騒がしかった教室がしずかになる

説明を受けて、体育館へ移動した




式は滞りなく進んでいった

卒業証書を受け取った時は、気持ちが一杯になってしまった


壇上から降りる時、喜善爺の姿を見つけた

スーツなんか持っていたのかよ

似合わないなと思って口が緩みそうになった


自分の椅子へ戻る途中に風野を見たが、いつもと変わっていなかった




式が終わって、体育館から出る

教室へ戻る生徒もいるが、俺はこのまま帰ることにした


特に、することもなかったから


風野も同じだったようで、二人顔を合わせて苦笑する


穂波「こらー!」

圭治「ん?」

風野「……」



穂波に見つかった



穂波「ダメじゃないか、勝手に帰っては」

圭治「あぁ……」

風野「なにかあるの?」

穂波「一緒に校門を出ようよ! だから少し、いやー、結構待っててね!」


タッタッタと走っていった

友人たちと別れを伝えに行ったんだろう

127: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:22:16.19 ID:nXWdufXzo

風野「ベンチに座って待っていようか」

圭治「そうだな」


ベンチに座って待つ

暖かい風が流れている


風野「喜善さん、来ていたよね」

圭治「あぁ、さっさと帰っていったがな」

風野「挨拶したかったけどな」

圭治「明日会えるよ」


そう、見送りに来てくれるはずだ

俺も壇上から確認しただけで、話すらしていなかった


話をしている親子の姿があちこちにある

それは、ありふれた光景だった


風野も両親を亡くしている


ここは俺と風野の二人で違う空間を作ってしまっていた


女の子「せ、せせ先輩っ」

圭治「よぉ」

女の子「そそそ、卒魚っ」

圭治「落ち着けって、そつぎょっ、ってなんだ」

女の子「うぅ」

風野「あはは」

女の子「卒業おめでとうございますっ」


そう言って一輪の花を差し出す


圭治「ありがとう」

女の子「風野先輩もどうぞっ」

風野「ありがとう……」

圭治「スイートピーか……」

女の子「は、はい。旅立ちですっ」



俺にはピッタリの花言葉だった

128: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:24:12.25 ID:nXWdufXzo

「風野先輩っ!」

「風野先輩!」

風野「うん……?」

圭治「なんだ?」

女の子「あ……」


風野が後輩の女の子達に囲まれていた


「「 卒業おめでとうございます! 」」

風野「うん、ありがとう……」

「東京に行かれるんですよねっ」

「頑張ってきてくださいねっ」


パワーに押されてしまった


座っていたベンチから離れてその光景を眺める


女の子「風野先輩、人気あるんですよ」

圭治「……マジか」


知らなかった……


穂波「お待たせー、ってどうしたの風野君は」

圭治「ファンなんだとさ」

穂波「おぉ、意外な新事実」

女の子「穂波先輩もどうぞっ」

穂波「わぁ、ありがとー」

女の子「卒業おめでとうございます!」

穂波「ありがとう!」


とても、とても嬉しそうな表情をしていた



穂波「喜善さん帰っちゃったのー!?」

圭治「あぁ、うん」

女の子「喜善さん……?」

穂波「五日市喜善。圭治君の大叔父さんだよ」

女の子「えぇー!?」

圭治「……マジかよ」



喜善爺は一応郷土歴史関連の本を出していた。ここにも読者がいたみたいだ

129: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:25:17.65 ID:nXWdufXzo

穂波「うにゃにゃ、ファンが増えていってるよ」

女の子「チャンスを窺っていたんですよ」

圭治「なんだそりゃ」


この子、面白いな


「よぉ、五日市」

圭治「おう」

「帰ってきたら連絡くれよ」

圭治「あぁ、じゃあな」

「じゃあな、頑張れよ」

圭治「ありがと」


クラスメイトたちが校門から出て行く


風野「悪いね」

穂波「人気者はつらいね~」

女の子「ふふっ」

圭治「……」


空を仰ぐ

春の空がそこにあった


女の子「それでは、先輩方、お元気で」

風野「じゃあね」

穂波「またねー」

圭治「元気でね」


たった一人の後輩に見送られて、校門を出る


俺たち三人は時枝学園を卒業した

130: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:26:25.09 ID:nXWdufXzo

風野「それじゃ、明日、見送りに行くから」

圭治「あぁ、じゃあな」

穂波「ばいばーい!」


風野と別れる



部活の想い出を話しながら歩く俺と穂波


穂波「もう着いちゃったかー」

圭治「じゃあな」

穂波「うん、また明日ね」

圭治「うん」


穂波と別れる

一人で家に帰る

131: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:27:16.29 ID:nXWdufXzo

家に着く


圭治「……」


クセで何も言わずに入ってしまう

ただいまくらい言えばよかったと、少し後悔する


部屋に戻って制服を脱ぐ

袖を通すことは無いんだな。そう思うと寂しくもあった


圭治「……」


リビングに戻る

キッチンへ行ってお茶を淹れる


ソファに座って一息つく

夕方までここでゆっくりしていよう

132: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:35:30.65 ID:nXWdufXzo



恩返しになっただろうか



俺は幸せだったんだ



生まれてからずっと住んでいたこの家

親父とお袋がいて、ミドリがいて、俺がいて、幸せの中にいた



親父とよく出かけた


お袋の料理が美味しかった


ミドリとずっと一緒にいた



誰もいなくなったこの家に一人で居るのが辛かった

だから、決別することを優先した


掃除をすることで、ちゃんとお別れが言えるような気がした

そうしていることで、ミドリを許せるような気がした


座敷童のミドリとケンカをして、家から居なくなったことで不幸が訪れたかもしれない

それが原因で両親が事故で死んだのかもしれない


だけど、そうだとしたら

親父とお袋が死んだのは俺のせいなんだ

追い出してしまった俺のせいなんだ


起こるべくして起こったことだとしたら、

ミドリになんて言えばいいんだ

恨んでしまったんだ

ミドリを含む妖怪を嫌いになってしまったんだ


ミドリはずっとずっとこの家を幸福にしていたんだ

この家は幸せだったんだ

温かい場所だったんだ


それを、俺のせいで、不幸にしてしまったんだ

133: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:36:00.74 ID:nXWdufXzo






――。






134: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:36:56.64 ID:nXWdufXzo

圭治「……!」


なにかいるのか

妖怪がいるのか


辺りを見回すけど、なにもいなかった

ここには、この家には俺一人しか居なかった


窓から夕陽が差し込んでいた

眠っていたみたいだ


圭治「……」


冷めてしまったお茶をそのまま飲む


口から喉へ。喉から全身へ冷たさが広がっていく

寒いな、ここは


もう一度横になってソファに体を沈める

135: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 00:38:14.31 ID:nXWdufXzo

今の声はなんだったんだ

優しくて、暖かい声だった


俺の名を呼んでいた


体を起こして、頬を触る

手が濡れていた

俺は泣いていた


抑えていたものが弾かれるように溢れ出してしまった


圭治「うぅっ……ぅ……っ」


ボロボロと涙が出て止まらない

胸が締め付けられて痛い


優しい声で呼ばれたから、暖かい声を聞いたから


涙が止まらない


春なのに寒い、暖かい季節なのに冷たい



圭治「ミドリ……ッ……ごめんッ」



嗚咽しながら、しゃくりあげながら、情けないくらいに泣いた





俺は後悔していた









― しょうがないな、圭治は

― いつからそんな泣き虫になったんだ

― 願い事を言え

― 叶えてやるぞ、圭治




― ななつとや、ながざなしえず、あしがなえ、あしがなえ。

― ほかげぞかくせや、みずかがみ、みずかがみ






―――――――

136: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 01:32:58.25 ID:nXWdufXzo


―――――――






生き物の化身が呟く


「けいじ……!」



橋姫が駆け寄ろうとしたその子を止める


「ダメ! 今起こしちゃダメよ」



九十九神が窓から出て行く


「主様に知らせてくるでありんす」



ここに存在するものたちはみな、ソファで眠る少年を見つめていた


「すー、すー……」



疫病神が気を揉む


「美影がいないさ……、だから、圭治にもなにかが起きているはずさ」


137: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:29:09.24 ID:nXWdufXzo

千鶴美「どうして、起こしてはダメ?」

瀬織「えっと……」


化身の純粋な問いかけに橋姫は答えることが出来なかった


幸子「美影が居ないのがひっかかるさ……」

千鶴美「けいじ……」


疫病神の言葉に生き物の化身は不安に落ちた


瀬織「藤花に言われていたのに、気付けなかった……!」

幸子「言われたって、なにさ」

瀬織「……」

幸子「なにか知っているなら教えて欲しいさ」

瀬織「知らないよ」

幸子「……」

瀬織「いや、圭治が眠っているのは、恐らくは妖怪の仕業なんだ、
   それだけだよ、知っているのは」   

千鶴美「寝てるなら、おこす」

瀬織「ただ、寝ているだけじゃないのよ……」


橋姫は頭を押さえ記憶を探す


瀬織「なんだっけ……、ここにいる圭治は圭治じゃなくなるってやつよ……」


必死に頭の中の情報を整理する

138: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:30:19.84 ID:nXWdufXzo

圭治「すー……」


千鶴美「……」

幸子「……」

佐久夜「こんにちは」


己を白澤と称する妖怪が庭から姿を現した


幸子「夕方に来るはずだったさ」

佐久夜「視えたものですから。失礼します」


家に上がる彼女


佐久夜「わたしは、白澤ではないみたいなんです」

千鶴美「はくたく?」

瀬織「万物に精通する聖獣よ」

幸子「では、なんなのさ」

佐久夜「……圭治さん」

圭治「……すー……」



疫病神の問いには答えず、眠る少年の顔をじっと見つめる

139: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:32:07.32 ID:nXWdufXzo

佐久夜「邯鄲の夢」

幸子「あんた、件さね」

佐久夜「はい、そうです」

千鶴美「くだん……予言する……妖怪」

瀬織「そうか、邯鄲の夢か……思い出した」


橋姫が言葉を紡ぐ


瀬織「夢の中で別の一生を過ごしているのよ、圭治は」

千鶴美「どうして、起こしてはダメ?」

佐久夜「……」

瀬織「その中で生涯を終えると、目を覚ますんだけどね」

幸子「こっちから起こすと、向こうの圭治は途中で生涯を終えることになるさ」

千鶴美「……」

瀬織「起きるのを待てばいい訳でもないのよね」

千鶴美「どうして?」

瀬織「千年以上も前に、人づてに聞いた話になるから、確証はないんだけどね」

佐久夜「……」

瀬織「人が変わるのよ」

千鶴美「けいじが……けいじじゃなくなる?」

瀬織「そういうことね。美影がここにいないことがそれを証明している」

幸子「……どうしてこうなったのさ」

佐久夜「圭治さんのあてている枕、見覚えありますか?」

幸子「……ないさ」

瀬織「妖怪の仕業だよ。厄が満ちているからそこを利用されたね」

幸子「……!」


疫病神が手を握り締める

140: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:34:50.64 ID:nXWdufXzo

瀬織「佐久夜、視えたなら、回避方法も知ってるよね」

佐久夜「……」

千鶴美「ちぢゅみ、馬鹿だから、わかんないけど、けいじはけいじでいてほしい」

佐久夜「……」

幸子「……」

瀬織「予言はしていないんだから――」

佐久夜「そうじゃないんです」

瀬織「?」

佐久夜「不可能なんです」

千鶴美「どうして……?」

佐久夜「夢の中の世界でも、まぎれもない現実……」

瀬織「……」

佐久夜「今、圭治さんは『もしも』の世界にいます」

幸子「……」

佐久夜「時空を越えて向こうの世界を体験しているということ」

千鶴美「妖怪、おい祓う!」

佐久夜「その妖怪も圭治さんと一緒に向こうにいます……」

瀬織「……枕返し」

佐久夜「そうです。枕返しの仕業です。追い祓うには、
    圭治さんにこっちの世界の存在を意識させることなんですが……」

幸子「ど、どうすれば……いいさ……」

佐久夜「……」


静かに首を振る彼女


瀬織「だから、不可能なのね」

佐久夜「…………はい」

千鶴美「……」

幸子「……」

圭治「すー……すぅ……」

幸子「こんなの不幸じゃないさ……」


疫病神が肩を落とす




少年は起きない





―――――――

141: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:35:51.81 ID:nXWdufXzo


―――――――





ミドリが鞠をついていた



「好きだな」

― 一番手になじんでいるからね


ぽぉん ぽぉん


ミドリは器用にそれを弾ませると、唄を唄い始める


― ひとつとや、ひさごみたせや、はなみざけ、はなみざけ。

― はやせとはこべや、うすざくら、うすざくら


ぼーっと眺めていると、ミドリはその手を止めて俺を見た


― 圭治、知ってるか

「なにを」

― 数え歌には、まじないの力があるって話だ

「まじないなあ……何か良いことでもあるのか」

― らしいぞ、鞠を突きながら歌い切ると願いがかなうんだ

― もっとも、かなったことがないから知らないけどな!

「なんだ、だめじゃんか……」

― 回数が足りないのかも知れないだろ?

「回数って……何回成功すりゃいいんだ?」

― 百万遍だ、そう聞いた

「ひゃくまん……」


そりゃ無理だろう……たとえミドリが百年生きていたとしても無理な数字だ……


― でももし、本当に願いがかなうなら、圭治だったらどんなことをお願いしたい?

「どんな……つってもなあ」

― 圭治が頼むなら、あたしが代わりにかなえてやっても良い

「そうは言ってもなあ……」

― どうだ?


いまの俺なら、もしかしたら、願いたいことがあるのかも知れない

だが、昔の俺には……

きっと、無かったことだろう

幸せだったんだ……

あの頃は、きっと……

142: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:36:42.55 ID:nXWdufXzo


ガクンと体が揺れる



――。




圭治「……」


まただ


おはようございます、と


優しくて、暖かい声を聞いた


圭治「ぅっ……」


この声を聞くと、どうしてか涙が出るんだ



やめてくれ



聞いたことの無い女性の声


143: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:37:55.30 ID:nXWdufXzo

いや、ちょうどいいのかもしれない



ここで泣きはらして、明日から精一杯生きよう



圭治「もう夜じゃねえか……っ」



誰に言うでもなく一人呟く


ポケットにあるハンカチを取り出して涙を拭く

情けないことに、両袖は涙でぐしょぐしょだった

情けないことに、泣き疲れて眠ってしまっていた


涙を枯らそう

そして、生まれ変わろう


明日からは――


チャリン

コロコロコロ


圭治「……」


一枚のコインが転がっていく


なんだ、あれは


壁にぶつかってそこで静かに止まった

ハンカチに包まっていたようだが、見覚えがなかった

後で捨てるか……


ソファに体を沈め、天井を見上げる


気が張っていたんだ、ここのところずっと


風呂に入ってスッキリさせよう

いい加減にしないとな

144: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:40:12.79 ID:nXWdufXzo

圭治「……」


シャワーを浴びる、厄を落とす勢いで体を洗う

この町で過ごす最後の夜だ

気持ちをちゃんと整理しておこう



風呂から上がり、頭にタオルを載せたままリビングへ向かう



圭治「……」


ソファに座って、冷たくなった急須をつかむ


これはあの時の俺と同じではないか

どうでもいいと自暴自棄になっていた時の俺と


お茶を淹れなおすのも面倒に感じて、
冷たいお茶でいいと投げやりな気持ちになっていた


やはり忙しくしていた方が楽だったんだ


圭治「願い事か……」


ミドリとのやりとりが夢に出てきた

願いをかなえてやると、言ってくれた

そうだな……


圭治「温かい場所へ……」


ここに一人でいるのは寒いから――


ふと、足元のコインに気付く。壁際にあったはずだ


やはり、俺以外に何かいるな

そう思いながら拾ってみた



『聞こえるかの、圭治』


圭治「――ッ!?」

145: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:41:54.94 ID:nXWdufXzo

辺りを見回すがなにもいない

俺が探したのは人ではなく妖怪


圭治「誰だ!」

『わらわが分からないと申すのかえ?」

圭治「し、知らんぞ!」

『傷つくのう……』


馴れなれしいヤツだな!


頭に直接響いてくるような声だった

口調からは悪意が感じられなかった


優しくて、温かい声とは違っていた



圭治「……」

『時間がないから、疑わずに聞いて欲しいのじゃ』

圭治「……」

『そこの生活は楽しいか?』


―――は?

なにが言いたいんだ、コイツは

コイツってドイツなのか知らんが


掌にあるコインをまじまじとみる


五円と文字が記されているけど、見たことが無い
見慣れている5円玉は真ん中に穴が空いているけど、これは埋まっている

材質からしておもちゃではなさそうだが

146: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:44:13.39 ID:nXWdufXzo

『のう圭治?』

圭治「……」


寂しかったこともあったが、俺は笑っていた。笑えることができた


だから、楽しいかどうかと聞かれたら


圭治「楽しいぞ」

『そうか、ならよいのじゃ』

圭治「え……?」

『苦しいのなら、辛いのなら、強引にでも引っ張ったのじゃが』


引っ張るってなんだ?


『そこの世界での一生もまた勉強になろうぞ』


なにを言っている


『きっと束の間じゃ』


だから、なにを言っているんだ


『じゃがの、圭治』

圭治「……」

『そこで幾星霜を経てしまうと、会えなくなる人もおるでの』

圭治「……」


戯言ではないと確信してしまうほどの説得力があった


『結婚をし、子を成し、年老いて死ぬ。それが人の歩みじゃ』


しずかに耳を傾けている自分がいた


『その過程で消え行く妖怪もいる。これが真実じゃからの』


あの優しい声、暖かい声


圭治「おまえがいる世界……というのがあるのか?」

『そうじゃ』

圭治「そこはなんだ」

『上手く説明できる言葉を持ち合わせてはおらん』

圭治「……」

『もう一度聞くからよく考えて欲しいのじゃ』

147: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:45:56.07 ID:nXWdufXzo

少し整理をする

二つの世界があるとする

俺の名を知りながらのこの口調、
ということ気心が知れた関係なんだろうな俺とコイツは


最近読んだ小説にあった話だ

パラレルワールドなのか、これは




圭治「いや、俺の質問に答えてくれ」

『うむ?』

圭治「そこは温かいか?」

『無論じゃ』



それを聞くと同時に掌にあるコインを握りしめる


俺は願った


温かい場所へと


意識が遠のいていく


深く、深く



遠く、遠く




ゆっくり、ゆっくりと








― どこにいてもきっと忘れない

― きっとだ……



―――――――


148: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:46:50.41 ID:nXWdufXzo

―――――――



――。



あぁ、この声だ




「圭治さん」

圭治「……あぁ、おはよう、美影」

美影「はい、おはようございます」

千鶴美「けいじー!」

圭治「ぐふぉっ」


寝ていた俺の腹に覆いかぶさってきやがった

昔ミドリにやられたのを思い出した


圭治「いてえ!」

千鶴美「ふぅぉ!?」


千鶴美を払いのけた。その勢いで床に落ちていった


腹をさすりながら体を起こす

向きを変えると、美影と向かい合う形になった


美影「……」

圭治「……」


自然と見つめあう

149: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:48:13.31 ID:nXWdufXzo

鈴「こりゃー! 主様のおかげで――」

藤花「これ鈴、無粋なるぞ」

鈴「主様ぁ……」

藤花「よいのじゃ」

鈴「ぅっ……ふぇぇえ!!」

藤花「よしよし」


藤花にしがみつき大声で泣く鈴。優しく頭を撫でている

藤花の尻尾が一本になっていた


圭治「藤花……」

藤花「圭治は得難い友人じゃからの、相応の対価じゃ。気にしなくて良いぞ」

圭治「ありがとう」

美影「……」


美影と二人で頭を下げた


瀬織「あらら、まるで夫婦ね」

美影「そ、そんな」

瀬織「まさか一緒に向こうに行くなんてね」

美影「圭治さんとは一心同体ですから」


照れながら凄いことを言う美影

影女だからな


瀬織「どこまで覚えているのよ」

圭治「どんどん忘れていってるな」

瀬織「そうなんだ……所詮は夢ってことなのかね」

佐久夜「既視感という言葉がありますね」

圭治「デジャヴか?」

佐久夜「はい、それの元はそういった夢なのかもしれません」

圭治「あれは、なんだ……?」

瀬織「枕返しよ。圭治と美影が戻ってきてから、姿を現したのよ」

圭治「そいつはどこに」

佐久夜「現れたと同時に瀬織さんが蹴り飛ばしましたよ」

圭治「そうか……いや、ちゃんと祓えよ」

藤花「神社で魅入られたようじゃぞ、圭治」

圭治「マジか……」

瀬織「圭治の部屋を確認したけど、異常は無かったから油断したわ」

圭治「だから部屋で漫画読んでいたのか」

瀬織「そういうこと」


そう言って興味を失ったように漫画を読み始めた瀬織

150: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:49:49.62 ID:nXWdufXzo

千鶴美「けいじ、ちぢゅみ、なにもできなかった」

圭治「そんなことはないぞ」


そう言ってポケットを探る

あれ、無いな……


圭治「すまん、あっちに落としたわ」

千鶴美「また探す!」

圭治「ホントに助かったよ、ありがとな千鶴美」

千鶴美「えへへー」


千鶴美の頭を撫でる


佐久夜「圭治さん、わたし、白澤になれました」

圭治「はぁ?」

藤花「そのようじゃの」


ま、いいや

この場にいない神様はどこへ行ったんだ


佐久夜「幸子さんですか?」


うむ、さすが白澤


151: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:51:27.42 ID:nXWdufXzo

期待通りだ。屋根裏にちゃんと居た


幸子「……っ」


背中越しでも分かった


圭治「疫病神の癖に、泣くなよ」

幸子「あたしが……あれを招いたさ」


枕返しのことか


幸子「枕返しは、人の人生を狂わせる妖怪さ」

圭治「……」

幸子「意図なんてない、決められた人生を勝手に歩ませる妖怪さ……」

圭治「そうか……」

幸子「そんな危ないヤツを……っ……呼んでしまったさっ」

圭治「……」


涙を止めない幸子の頭にそっと手を乗せる


圭治「前から思っていたんだけどさ」

幸子「なにさ」

圭治「おまえがいるのに、あまり不幸な目に合っていないだろ?」

幸子「……」

圭治「それって、おまえが笑っていたからだと思うんだ」

幸子「……っ」

圭治「笑う門には~ってな」

幸子「嫌な言葉さ」

圭治「美影も影女らしくないし、おまえも疫病神らしくないって思う。だから、居ていい」

幸子「……後悔するさ」

圭治「じゃあな、鈴が遊びたがってるぞ」

幸子「……」


そっと出て行く

152: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:52:50.30 ID:nXWdufXzo

一階に下りると庭から騒がしい声が聞こえた

みんなで羽根突きをしていた


自然と美影を探している自分に気付く


美影「……?」

圭治「……」

美影「……」


笑顔で返された


美影「なんでしょう」

圭治「いや……なんでも……」


ピンポーンとチャイムが鳴る


圭治「誰だ?」


少し恥ずかしかったので助かった


扉を開けると誰もいなかった

いや、いた


穂波「うにゃにゃ、気配でも感じたのかな」

風野「やぁ」

圭治「チャイム鳴らしたのおまえたちか?」

穂波「うんにゃ、まだ押してないよ?」

圭治「それじゃ、誰だ……?」

風野「鯛がきれいに並んでるね」

穂波「ほんとだ、めで鯛、鯛、鯛、鯛、鯛! 5匹も!」

圭治「これはもしかして……!」


玄関から飛び出す


圭治「イソラー!」

穂波「どこへ行くのー!?」


穂波の声を背に川へ走る

そこから上流へ帰ると思った

153: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:55:39.62 ID:nXWdufXzo

イソラ「けー君!」

圭治「え、え?」

イソラ「これから上流へ行くのか!?」

圭治「いや、行かないが……」

イソラ「なんだよー……」

圭治「……隠れていたのか?」

イソラ「うん。人間二人が来たから慌てたんだ」

圭治「ぷふっ」

イソラ「笑うなんてひどいぜ」

圭治「いや、慌てた割には、綺麗に並べたんだな」

イソラ「粗末にできないからな」

圭治「そうか……」


イソラを連れて家に戻る


穂波「置いていくなんてひどいよ、プンプン」

風野「どうしたの?」

圭治「友人を迎えに行ってたんだ」

穂波「友人さん? どこどこ?」

風野「……」

圭治「見えないと思うけど、河童のイソラだ」

穂波「うーん、そこに居るんだね?」

風野「見えないな……」

圭治「そうだよな……って、本当にいないな! どこだ!?」


電柱に隠れていた

154: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:56:50.40 ID:nXWdufXzo

玄関の戸を開ける


穂波「あけましておめでとうございます」

風野「今年もよろしく」

圭治「あ、あぁ、よろしく」


そうだった

まだ元日だったな


瀬織「お客さんね」

穂波「あ……お久しぶりです、セロリさん」

瀬織「おいこら」

圭治「ふざけてないんだ、本気で間違えたんだ」

千鶴美「論理!」

風野「えっと、誰かな」

圭治「篠橋の橋姫だよ」

イソラ「……」


イソラが俺の後ろをピッタリ付いてくる


藤花「圭治の友人かや?」

鈴「敵地へ入り込むなんて勇気があるでありんすな」

穂波「本物の巫女さんですか!?」

藤花「うむ、似たようなものじゃ」

鈴「似ても似つかないでありんすよぉー!」

圭治「穂波にはそのまま映っているのか……」

風野「ひょっとして、妖怪なのかな」

圭治「うん。あと、誰もいないところに声を出すけど、気にしないでくれ」

風野「分かった」

圭治「美影」

美影「なんでしょう……まぁ、鯛ですね」

圭治「頼む」

美影「はい♪」


嬉しそうな表情だった

155: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 22:58:36.63 ID:nXWdufXzo

穂波「あ、白沢商店のお姉さん……」

佐久夜「こんにちは」

穂波「圭治君と知り合いだったんですねー」

佐久夜「そうでーす」

圭治「風野が確認できるのは誰と誰?」

風野「えっと、橋姫と、白沢商店の人と、あの人の三人」


あの人とは藤花のことか


穂波と風野は共通して見えているんだろう

あ、そうだ


圭治「穂波、いや、部長」

穂波「うん?」

圭治「新入部員が見つかったかもしれない」

穂波「ほんと!?」

風野「どんな人?」

圭治「1年生だけど、郷土歴史に興味がある子」


この世界にもいるはずだ


千鶴美「けいじ! 遊ぶ!」

イソラ「けー君!」

圭治「あ、ごめん、やることあるから、みんなで遊んでてくれ」

千鶴美「ぶー!」

イソラ「付き合い悪いぜ……」

圭治「後で相手するからさ」


仕方ないといった表情で庭に下りていった

また羽根突きするのか、飽きないな


キッチンにいる美影を呼ぶ


圭治「美影、ちょっといいか」

美影「……?」

圭治「喜善爺を呼びに行きたいから、ちょっと付き合ってくれ」

美影「はい」

156: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:00:45.94 ID:nXWdufXzo

玄関の戸を開け


圭治「行ってきます」


と、クセで言ってしまった


まだ陽は高い


美影「どうかしましたか?」

圭治「あぁ……えっと……」


電話すればいいだけの話だからな


圭治「向こうでの生活って、美影もいたんだよな」

美影「……はい」

圭治「どうして俺には見えなかったんだ……?」

美影「向こうでは居ない存在でしたから……」


もしも、美影が生まれなかったら。という世界だったのか

そうか……


美影「とても……辛かった……です……っ」

圭治「……」


ボロボロと零れる涙


美影「料理も……っ……お掃除も洗濯も、朝起こすことも……出来なくて……っ」

圭治「……」


157: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:09:34.57 ID:nXWdufXzo

震える声が抑えていたものの大きさを伝える


美影「圭治さんが……寂しそう……なのに……っ……」

圭治「……」

美影「なにも出来なかったんですっ……」

圭治「いや……」

美影「声も……届かなくてっ……」

圭治「届いたよ」

美影「!」


美影を抱きしめていた

ありがとう


圭治「ありがとう、美影」

美影「圭治さん……」

圭治「美影の声を聞いて、救われたんだ、俺は」

美影「……!」


抱きしめる腕に力をこめる

温かい場所なんだ、ここは


圭治「美影……」

美影「圭治さん……」


体を離して、美影の瞳をみつめる

とても愛おしく想う


顔を近づけて口を――



幸子「……」


尻目に疫病神を見た



圭治「……」

美影「……?」


美影は目を瞑っていた

158: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:10:45.44 ID:nXWdufXzo

幸子「続けるがいいさ~」

美影「え、……え?」

圭治「くっ……」

幸子「ご主人様、優しくしてくださいまし……
   影女……いいのかい……
   そして、二人の影は一つに……」

美影「さ、幸子ちゃん……」

圭治「行くぞ、美影」



手を引っ張って歩き出す


幸子「腹が減ったから早くもどるさー♪」


幸子が楽しそうに言う


俺は幸せなんだ


みんながいて、美影がいる


この日常が続いてくれれば、文句は無い

159: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:11:48.04 ID:nXWdufXzo


圭治「美影」

美影「はい」

圭治「ずっと一緒にいてくれ」

美影「ふふ、はい。
   わたしは影女ですから
   これからもずっとお世話させていただきます」

圭治「よろしく」

美影「こちらこそよろしくお願いします」


この手をずっと握っていたい



美影「切っても切り離せませんからね」

圭治「あぁ」

美影「わたしは、あなたの……」



―― ……あなただけの……影女ですから。




                とっぴんぱらりのぷぅ


160: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:12:47.83 ID:nXWdufXzo



http://www.nicovideo.jp/watch/sm14179507





風は漂う ふわり 過ぎ去って

水は流れる さらり かがやいて


緑が微笑むこの山には

君との思い出がまだ


地面に書いた言葉は(君への思いは)

いまはもう淡い夢だけど(おぼろな言葉)

ヒスイの声が聞こえる(ヒスイが鳴いてる)

わずかに木の香とどまってた(霞んで消えた)


木々は変わらず ざわり さざめいて

花は移ろう はらり ひらめいて


幼い僕らは無邪気な目で

指と指を絡ませた


夕陽に揺れる願いが(君との約束)

明日には消えてしまっても(小さな願い)

カラスの声が聞こえる(カラスが鳴いてる)

ほのかな影がつながってた(薄れて消えた)



歌声届け空まで(僕から君まで)

昨日の涙持っていけ(晴れ渡る空)

コダマの声が聞こえる(ミドリが微笑む)

二人の命かがやいてた(幻消えた)


161: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:16:44.43 ID:nXWdufXzo


終わりです

三が日で終わらせるつもりが、どうしてこうなったww


圭治の嫁は美影ですよね

歌詞の最後がせつないです。

美影、幸子、ミドリの命がせつないです



縁があって読んでくださった方、ありがとうございました!

163: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:19:07.77 ID:ImGVto1DO
乙!
とっぱら知らないけど楽しませてもらったぜ

164: 以下、あけまして 2012/01/04(水) 23:19:16.53 ID:yDNpu2ps0
いや~美影ほど嫁にほしい女はいない
おつおつ

166: 以下、あけまして 2012/01/05(木) 00:54:59.99 ID:8dIVrcAP0
川の河童のイソラがなぜ鯛を取ってこれたんだ?

167: 以下、あけまして 2012/01/05(木) 02:54:32.07 ID:nyneq8gFo

面白かった

168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/01/06(金) 22:23:44.83 ID:KndFSydio

意外と知っている方多いですね、よかったです
知らない人にはどうかなぁと思っていたんですが、楽しんでいただけたみたいで安心しました

投下中にレスが止まり、やっちまったな、と思っていたので乙レスがあってビックリです
圭治が卒業した時点で燃え尽きたので、ラストとイソラの扱いがgdgdになってしまいました

今までは書き終えてからの投稿でしたので、書いてすぐ投下した今回はちぐはぐがあり、
加筆したい箇所がいくつかあります。ですが、それも面白かったです

とっぱらのキャラを集めて新年会をさせよう、と思いつきでスレ立てしました
(美影√攻略していたら年越ししてました。 年末の第九をOPで聞くとは思わなかった)


ご指摘になった河童のイソラが鯛を乱獲する点なのですが(ちぐはぐ箇所)

一つ、冬の気候条件にて1時間走り回ると脱水症状を起こす(後のことを考えていない)

一つ、『もしも』の世界にてイソラは棲みかを変える為に姿を消します
    (こっちの世界では部と喜善のおかげという設定)

一つ、本編で登場するイワナ、ヤマメの川魚が正月には獲れない(魚を持っていく約束)

一つ、圭治美影の帰還に活躍していない(性質上難しかった)

以上を踏まえて、イソラの立ち回りを考えたところ

別の川へ移住するためには海を経由しないといけない→よし、鯛だな

という結論に至りました。はい、こじつけです、すいません……
扱いが雑すぎました(お気に入りのキャラなのに)


みんなで鍋をする場面を追加しようと思ったものの、
とっぴんぱらりのぷぅ(昔話のめでたしめでたし)と書いちゃったので綺麗に終わらせておきます


縁がありましたら、次回作でお会いしましょう

ありがとうございました。


P・S OP45秒目の瀬織の笑顔はやばいですね! ね!

169: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/01/06(金) 23:01:39.28 ID:6y/llu5IO
乙乙
イソラはなー
本編妖怪組でもシナリオの毛色が少し違うからしゃーない
カッパが流れ過ぎて海まで→テヘペロと考えれば…

ともかく雰囲気出てて良かったよ
次も期待してるよ

170: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/01/07(土) 05:15:17.09 ID:7S3i9wOBo
面白かったー
乙でありんす

スレURL:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1325359507/