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シリーズ一覧
第1作【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」
第8作【モバマス時代劇】神谷奈緒 & 北条加蓮「凛ちゃんなう」

読み切り
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
【デレマス時代劇】土屋亜子「そろばん侍」
【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」
【デレマス銀河世紀】双葉杏「ボーン オブ ドラゴン」
【デレマス近未来】岡崎泰葉「Killing Hike」
【デレマス時代劇】城ヶ崎美嘉「姉妹剣 水鏡」
【デレマス近代劇】クラリス「怨霊血染めの十字架」
【デレマス現代劇】大和亜季「私の戦場」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:23:38.68 ID:9RdRMGJU0
【デレマス現代劇】大和亜季「私の戦場」


18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:24:37.17 ID:9RdRMGJU0
大和亜季には自信があった。

アイドルとして成功する自信が。

しかし、いざ飛び込んだアイドル業界は、まさに戦場であった。

亜季や他のアイドルは、プロダクションの兵士に過ぎなかった。

予め緻密に組み上げられたレッスン、

バラエティでの立ち振る舞い、ファンへのサービス。

それらの履行は、軍隊における命令系統の遵守と同義であった。


19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:25:31.76 ID:9RdRMGJU0
しかしだからこそ、大和亜季はアイドルとして相応しかった。

彼女は日常の曖昧さにうんざりしていた。

ウケる。たのしい。

すごい。ヤバイ。

よかったね。がんばって。

意味消失した言葉の群。

その中で生きるのは、亜季にとって堪え難い苦痛だった。

それに対して、アイドルはなんと明確なことだろうか。

踊れ。歌え。

こうやって話せ。ここは黙れ。

ファンの数はこうだ。CDやライブの売り上げはこれくらいだ。

甘えや馴れ合い、解釈の違いなどは一切存在しない。

必要なのは、規律を守るか、守れるだけの努力をすることだけ。

大和亜季にとって天職であるといっても過言ではなかった。

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:26:56.25 ID:9RdRMGJU0
だが現在の彼女は控えめに言って、弱小の、色物だった。

容姿は良い方だ。体力もある。根性もある。

歌はまだ改善の必要があるが、それは時間が解決してくれる。

キャッチーな特徴もある。

それなのに、何故彼女は成功できないのか?

私の訓練不足。

彼女ははじめそう考えたが、

オーバーワークはむしろ逆効果だと、すぐに否定した。


本当に亜季を覆い隠してしまうのは、美城プロダクション、

およびアイドル業界という同じブタイ(部隊/舞台)にいる人間。

仲間であるようで、不倶戴天の敵。

亜季は1人のアイドルを思い浮かべた。


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:27:22.25 ID:9RdRMGJU0
宮本フレデリカ。

大和亜季とは真逆の性格で、成功を掴んだ少女だ。

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:29:57.34 ID:9RdRMGJU0
遅刻。無断欠勤。指示の無視。

突発的に始まるアドリブ。

本物の軍隊であれば、除隊どころか銃殺刑に処されてもおかしくない。

フレデリカの勝手が罷り通るのは、

一重に、彼女が成功しているからだ。

しかしその成功が、いかなるプロセスに基づいて起こったのか、

亜季には皆目検討もつかなかった。

美城プロダクションが作り上げてたマニュアルは、

芸能界における成功の鍵とほぼ同等である。


その証拠に、多数の美城アイドルが業界を席巻している。

所属しているプロデューサー、トレーナーも、

アイドル達の信用を得た上で、彼女達を成功させる傑物ばかり。

これらを踏み散らして、

なぜ宮本フレデリカはアイドルとして勲章を得るのか?

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:31:07.51 ID:9RdRMGJU0
たしかに、セオリーは成功を確約するものではない。

それは亜季が知る軍人達が証明している。

バグパイプと長剣、それから弓矢で第二次世界大戦を駆け抜けた男。

銃弾飛び交う中ロッキングチェアでくつろぎながら、ソビエトの大軍を抑えた指揮官。

上官に噛み付き、敵の戦闘機だけでなく自身の乗機も破壊して、

それでも英雄と呼ばれたパイロット。

彼らを、亜季は尊敬している。

だが彼らとて、あくまで軍規の範疇でスタンドプレーをしたに過ぎない。

亜季は、自分が大和亜季というアイドルであることを懸けて、

宮本フレデリカを認めるわけにはいかなかった。

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:32:28.31 ID:9RdRMGJU0
「敵地に侵入…斥候を開始するであります」

そう呟いたあと、亜季は苦笑した。

場所は、美城プロダクションが所有するライブハウス。

今日の主役は宮本フレデリカを擁するLiPPSだ。

リーダーは速水奏。

戦略的にはともかくとして、

戦術的に見て相応な人選だと、亜季は考える。


まずフレデリカは論外。

城ヶ崎美嘉は、個人としてユニット内では最高の成功を収めているが、

他のアイドル達を牽引しうる強引さがない。


塩見周子はバランスが取れているように見えて、

実のところ他人に干渉するほどの積極性、あるいは余裕がない。


一ノ瀬志希は、カリキュラムこそ要領よく消費するが、本質的にはフレデリカの同類。


彼女達に染められないほどの個性があり、かつ彼女達を率いるだけの

成熟した精神を持っているのが、速水奏というアイドルだ。

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:33:09.82 ID:9RdRMGJU0
だが、目の前で起こっているフレデリカと志希の暴走を見ていると、

亜季は彼女に同情しか湧いてこなかった。


奏は、チームプレイ上では自分の役割を全うしている。

それゆえ、完全に他のメンバーに、

特にフレデリカや志希の影に隠れてしまっている。

本来プロデューサーや演出監督が裏でやるべき仕事を、

奏が代行しているからだ。

ステージ上での暴走を止められるのは、彼女だけ。

一方のファンは、むしろ暴走を望み、楽しんでいる節がある。

「間違っているであります…」

最前席で双眼鏡を覗き込みながら、亜季は呟いた。

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:33:47.07 ID:9RdRMGJU0
ある時、亜季は奏とトレーニングルームで出会った。

同じ時間に基礎体力訓練が入ったのだ。

「あ、あのぅ・・・」

亜季は、おずおずと奏に声をかけた。

相手は飛ぶ鳥落とす勢いのアイドルだ。

亜季は権威というものに対して、滅法気が弱かった。

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:35:27.74 ID:9RdRMGJU0
「あら、亜季じゃない」

「わ、私の名前をご存知で!?」

「当然よ。同じプロダクションの仲間だもの」

「身に余る光栄であります・・・」

小さく小さく縮こまる亜季に、奏は苦笑した。

「それで、私に何か用?」

「あ! えっと……

 速水さんは、フレデリカ殿についてどう思われますか」

“殿”に若干のアクセント付けながら、亜季は言った。

 奏は即答した。

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:36:31.22 ID:9RdRMGJU0
「問題児よ。

レッスンはサボタージュするし、

進行は守らないし、

何を考えてるのか、時々分からないし。

志希の方がまだ大人しく見えるわ」


奏はくすりと笑った。

彼女はLiPPSでの活動を純粋に楽しんでいるようだった。

亜季は、そのフレデリカ殿のせいで、とは言えなかった。

代わりに、フレデリカの魅力について、奏に尋ねた。

「フレデリカの魅力…うーん…そうねえ」

奏は、濡れるように艶めいた唇に指を当てた。

「強さ、かな」

「強さ?」

「それ以外に、彼女に似合う言葉は見つからないわ」

亜季個人の印象としては、フレデリカは軟派で軽薄。

奏の言葉は理解しかねた。

「それは、フレデリカ殿がアイドルとして、ということでありますか」

「アイドルとして…たしかにそうなんだけど、そこを区別するのは、

私にはちょっと難しいかな」

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:36:57.51 ID:9RdRMGJU0
奏はにっこりと、亜季に微笑みかけた。

亜季は、被弾した、被弾した、と内心で呟いた。

その動揺のせいか、彼女は三度目の質問を、

随分露骨なものにしてしまった。

だが、それにも奏の表情は変わらなかった。

「他の子の輝きで速水奏が見失われてしまうなら、そこが私の限界よ」

あなただって十分強い。

そう伝える勇気が、この時の亜季にはなかった。

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:37:58.36 ID:9RdRMGJU0
数ヶ月後、亜季にとって転機が訪れた。

美城アイドルの頂点に君臨する、高垣楓のビッグライブ。

そこで公開されるのは、

今までの、おっとりとしたイメージを打ち破る激しい曲。


旧来のサポートメンバーは、

高垣楓と同じようなイメージを持つアイドルで構成されていた。

新曲で全員入れ替えるという意見が出たが、

それは各々のプロデューサーの尽力によって回避された。

しかし、舵取りの激しさに投げ出されるアイドルが数名出た。

その穴は、入れ替えで予定されていたメンバーによって埋められた。

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:39:55.92 ID:9RdRMGJU0
たった1つの席を残して。

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:40:33.22 ID:9RdRMGJU0
ライブでは、高垣楓というアイドルの多様さを、

歌とダンスで表現するのだという。



イントロは穏やかなジャズ調。

ここだけは、エレクトリック・アコースティックギターが主役だ。

サポートの動きは、ゆったりとしたウォークで

中心からサイド・バックに移動。

しかしAメロで歌が始まるのと同時に、ベースとアップテンポかつ

変則的なシンセサイザーが滑り込んでくる。

ここでサイドダンスが急変。ツーステップで静寂を断ち切り、

Bメロからはストップ&ゴーとパドブレに別れる。

ここまでは、バックは目立った動きはしない。


33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:41:22.29 ID:9RdRMGJU0
しかしサビに入ると、弾丸のように位置を入れ替え、

バックメンバーがサイドでブレイク、

サイドメンバーがバックで

ゆったりと泳ぐようなウォークを行う。

1番と2番の間奏は全体をチャールストンで統一。

2番ではドラムがパートに入り、Bメロから開始。

今度はサイドの動きが落ち着き、バックが激しくなる。

サビでは再びメンバーの位置を変えて、


一番のイントロおよびA・Bメロと同じ場所に戻らせる。

Cメロからはサポートメンバーが2人1組で

放射状に舞台に広がり、ギター以外はフェードアウト。

最後のアウトロでメンバーが抱き合う。

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:42:17.34 ID:9RdRMGJU0
ダンスの作案者の1人である小松伊吹が、

候補達に一連の流れを説明した後、手本を見せた。

皆が絶句した。レベルが違いすぎる。

しかもオーディションでは、全てパートにおける動きを見るために、

曲を4回ほど繰り返す。

休憩は短く、全体時間は20分。

ほとんど休むことなく踊り続けることになる。



このような過酷な調整の理由を、亜季は知らない。

知ろうとも思わない。

だが、さすがに通常のレッスンで消化できる課題ではなく、

掟破りのオーバーワークに手を染めることになった。

幸いにして体力は有り余るほどある。

そして、皮肉なことに習得にかける時間もたっぷりあった。



35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:43:03.77 ID:9RdRMGJU0
亜季は、レッスンルームでフレデリカと鉢合わせた。

彼女、あるいは彼女のプロデューサーも、

楓のサポートを狙っているらしい。

しかしフレデリカはダンスの練習をするでもなく、

床に寝っ転がっていた。

「フレデリカ殿。

 練習をしないなら出て行って欲しいであります」

亜季は冷然と、そう告げた。

フレデリカはエメラルドブルーの瞳で、

じいーっと亜季を見た。


36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:44:33.99 ID:9RdRMGJU0
「亜季ちゃんだよね?」

「私が亜季ちゃんであります」

 フレデリカは立ち上がって、伸びをした。

「いつもの亜季ちゃんじゃな〜い」

その言葉を聞いて、亜季のこめかみがひくついた。

「いつもの私?
 
 フレデリカ殿と私は、

 そこまで親密な間柄ではなかったと記憶しておりますが」

「プロダクションのみんなのことなら、大体わかるよ〜♪」

 くりくりと瞳を動かしながら、フレデリカが言った。

 彼女はやはり、亜季には苦手にとって人間だった。

 要領を得ない。何が言いたいのかはっきりわからない。

「それでは、今の私がいつもの私とどう違うのでありますか?」

 語気を強めて亜季は尋ねた。

「ん〜、亜季ちゃんきっと怒るから言わな〜い♪」

 後ろ手を組んで、フレデリカが笑う。

 悪意もごまかしもない、愛らしい笑顔だった。

 亜季は何も返さず、ダンスの練習を始めた。


 

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:46:29.84 ID:9RdRMGJU0
 オーディションは一回きり。

 候補達が20人ごとのグループで、一斉にダンスを始める。

 亜季は最終グループ。

 フレデリカは、最初のグループにいた。

 
 候補達はミスを連発した。

 無理もない。

 技術面でも駆け出しアイドルには似つかわしくないのに、

 それが4回。初めに余裕を見せていた候補生も、最後で心が折れる。

 20分が終わった時、静かに泣き出す者もいた。

 しかし亜季は、フレデリカだけを見ていた。

 彼女は奥歯を噛み締めた。フレデリカのダンスは完璧だった。

 圧倒的な才能。一重にそれだ。

 才能が全てをひっくり返す。

 他のアイドル達の、懸命な努力でさえも。

 引き摺り下ろしてやる。

 亜季は殺意にも似た決意を持って、立ち上がった。

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:47:22.48 ID:9RdRMGJU0
 不安はなかった。

 亜季はプロダクション内で、日野茜と肩を並べる体力馬鹿だ。

 その体力で、技術不足を塗りつぶすハードワークを行った。

 だが、3回目のダンスが終わった時、

 亜季の両足は痺れた。

 高垣楓のダイナミクスの表現が、足さばきに集中している。

 くわえ、フレデリカに対する対抗心、

 さらに無意識下での緊張が、亜季の身体を蝕んだのだ。

 それでも亜季は棒のようになった足を、

 ただの道具として無理矢理動作させた。

 身体の頑丈さと強固な精神力で、彼女はやり遂げた。

 力技に頼ったがミスはない。完璧だった。

 亜季は、大和亜季史上最高の大和亜季になれたと、そう思った。


39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:47:57.39 ID:9RdRMGJU0

 「………」

 数日後、亜季は自身のプロデューサーを睨みつけた。
 
 サポートメンバーの決定方式は、職員達による投票制。

 結果、満場一致で宮本フレデリカが選ばれた。

 つまり、亜季のプロデューサーもフレデリカに票を入れたのだ。

 自分が選ばれなかったことは、決定だからしようがない。

 しかし、亜季を推すべきプロデューサーが、

 他のアイドル、よりによってフレデリカを。

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:48:34.70 ID:9RdRMGJU0
「納得のいく説明を要求します」

 亜季が冷たい声でそう言うと、プロデューサーは、

 オーディションの様子を収録したDVDを再生した。

 そこには亜季の完璧なダンスが映っていた。

 やはりミスは無かった。

 そう思ってプロデューサーを再び睨むと、

 彼はフレデリカの様子をよく見るように指示した。

 巻き戻し、最初のグループ。

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:51:00.44 ID:9RdRMGJU0
 崩れる候補達の中で、たった1人楽しげな顔で踊っている。

 ダンスが終わった後は、さすがに足が痺れたのか、

 舌をぺろりと出して、けんけん歩きをしていた。

 亜季は胸がぐるぐるした。

 オーディションの時に、どうして気づけなかったんだろう。

なぜ彼女が選ばれたのか、亜季は理解した。

過酷なダンスの間もフレデリカは、

フレデリカというアイドルであり続けた。

馬鹿みたいに陽気で、苦しげな表情を他人に見せない。


一方の亜季は、完全なダンサーだった。

だが、ダンサーが必要ならダンサーを雇う、それが美城だ。


42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:51:41.27 ID:9RdRMGJU0
いつもの亜季ちゃんじゃな〜い。

フレデリカの言葉が思い返された。

結局のところ亜季は、練習段階で、美城やプロデューサーの立てた

カリキュラムを見限って、独自でのトレーニングを行った。

自分の組織を信じる。そのあり方を、亜季は捨てた。

その結果亜季は、大和亜季というアイドルですらなくなってしまった。

再びモニターを見ると、

彼女ではない、全く別の女が映っているように見えた。

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:52:52.70 ID:9RdRMGJU0
この瞬間、亜季はアイドルになって初めて、

そして久しぶりに、声を上げて泣いた。


44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:53:37.59 ID:9RdRMGJU0
彼プロデューサーは黙って見守っていた。

彼は知っている。

大和亜季はアイドルという戦場を、彼女自身で選んだ。



45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:54:06.02 ID:9RdRMGJU0
だからこそ、必ず戻ってくるのだと。


46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:54:35.58 ID:9RdRMGJU0
おしまい