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シリーズ一覧
第1作【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」
第8作【モバマス時代劇】神谷奈緒 & 北条加蓮「凛ちゃんなう」

読み切り
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
【デレマス時代劇】土屋亜子「そろばん侍」
【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」
【デレマス銀河世紀】双葉杏「ボーン オブ ドラゴン」
【デレマス近未来】岡崎泰葉「Killing Hike」
【デレマス時代劇】城ヶ崎美嘉「姉妹剣 水鏡」
【デレマス近代劇】クラリス「怨霊血染めの十字架」
【デレマス現代劇】大和亜季「私の戦場」

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:09:15.02 ID:9RdRMGJU0
フランス革命って、あまり近代ってかんじしない不思議
歴史改変注意


2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:10:03.61 ID:9RdRMGJU0
 フランス王政が国民に豊かな生活を保障できなくなり、

 革命が決行された頃。

 はじめはただの不満によって突発的に起こったはずの蜂起は

 次第に組織化され、秩序づけられ、

 善良なはずの市民達は、

 デマゴーグによって制御される暴力装置と化していた。


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:11:12.23 ID:9RdRMGJU0
カトリックの教会は暴動の対象にはならなかった。

実のところ搾取の半分は教会によってなされていたのだが、

敬虔な獣達の心の中には、やはり神が必要だったのである。

人命の価値が限りなく下がって行く社会では、

人は生を営むための祈りではなく、

苦痛とその先にある死を受け入れるために教会へ行く。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:12:56.29 ID:9RdRMGJU0
 シスターであるクラリスは多忙であった。

 毎日ひっきりなしに行われる死刑に、神父の代わりに駆り出されている。

 
 刑に処される人々は、刑を下す人々ほど罪深くなかった。

 「王族・貴族の側につきフランスを堕落させた」などと糾弾されていたが、

 実のところ処刑の実態は、ジャコバン派による内部粛清であった。

 権威への叛逆を掲げる組織の中で行われる権力争い。

 この内状を知ったクラリスは、ただ心が痛むばかりだった。

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:14:18.41 ID:9RdRMGJU0
 クラリスが教会に戻ると、懺悔室に人の気配があった。

 神父にそのことを伝えたが、彼は首を振った。

 クラリスは察した。

 懺悔室にいるのは現ムッシュ・ド・パリ(最高の死刑執行人)、

 宮本フレデリカその人であると。

 先代のムッシュ・ド・パリ、つまりサンソン家は、

 王族の処刑を断固拒否したため、その座から追われた。

 しかし人々は、自身の手を汚すことは嫌がった。

 そこで、フレデリカに白羽の矢が立った。

 彼女は外見ではわからないが、半分日本人の血が入っていて、

 パリの中では鼻つまみ者だった。

 
 嫌なことは嫌いなやつにやらせよう。

 その凶悪的なまでに短絡的な思考が、フレデリカを死刑執行人にした。

 性急な配役であったが、フレデリカは見事に処刑をこなしていった。

 特に斬首の技量は、かのシャルル=アンリ・サンソンと

 肩を並べるとも称された。

 とはいえ人々がフレデリカを尊敬するようになるわけでもなく、

 彼女は以前よりいっそうの差別を受けた。

 教会へ行っても、神父に懺悔を聞いてもらえないほどの。


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:15:02.34 ID:9RdRMGJU0
クラリスは懺悔室へ入った。

 相手の顔が見えないように構造的な工夫がされており、

 かつ室内は薄暗くなっている。

 それでもクラリスは、部屋に入った途端濃厚な死臭を感じ取った。

 恐怖は感じなかった。

 相手のことを思うと、ただ胸が締め付けられた。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:15:47.02 ID:9RdRMGJU0
 フレデリカは何も言わず、ただそこに佇んでいた。
 
 本当は彼女も、神を信じていないのだ。

 信じろという方が無理がある。

 懺悔室にやってくるのは、許しを乞うのではなく、

 ただそうせずにはいられなかったから。



 クラリスは、そっとフレデリカの側に手を差し出した。

 しばらくすると、その手が力無く握られた。

 そしてクラリスは、むこうで、

 熱い雫がぽたぽたと落ちるのを感じた。

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:16:20.06 ID:9RdRMGJU0
 死刑を執行している時のフレデリカは、

 観衆の背筋が冷たくなるほど陽気だった。

 陽気なまま、笑ったまま、無罪の罪人の首を落とす。

 人々は自身の罪を顧みることもせず、彼女を蔑視し憎悪する。

 まさしく、この世に神はないない。

 いたとして、このパリにはいない。

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:17:49.67 ID:9RdRMGJU0
 クラリスは教会の連絡網を用いて、ひそかに各国の

 王族達に革命の征圧を要請した。

 おびただしい犠牲が出るだろう。

 しかし教会が権威の保持および拡大のために民衆を欺き、

 搾取してきた過去を思えば、クラリスの行為はまだ人肌の温かみがあった。

 彼女は結局、フレデリカ1人を救いたいのだ。

 いや厳密には、彼女以外の市民全てに罰が下ればいいと考えている。

 自由と引き換えに、王族に責任を譲渡し、

 安楽な生活を貪ってきた市民。

 その生活が失われてようやく行動を起こしたが、

 責任を取ることは忌避し、安易に革命派の言説に従う。

 処刑の際は好奇心の赴くままに押し寄せ、

 罪人や死刑執行人にやじを投げる。
 
 彼女ら、彼らには隣人愛を与えるべきでない。

 人ではない、けだものなのだから。


 かつての十字軍遠征がしのばれるほどの狂熱さで、

 クラリスは書状をしたため、連絡網に流した。

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:18:33.97 ID:9RdRMGJU0
 だが、その行動が実を結び、

 各国軍がパリを包囲した頃には、革命派は内紛で死に体となっていた。

 指導者・幹部らは軒並み死亡し、手足となっていた市民は狼狽えた。

 投降するとして、すでにいない指導者を差し出せねばならない。

 誰がふさわしい?

 お前か。お前か。それとも…。

 市民達は、自分達の行為の重大さを、ここにきてようやく理解した。

 それでもなお、責任を取ることを拒んだ。

 そして誰かが思いついた。

 嫌なことは、嫌いなやつにやらせよう。

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:19:27.88 ID:9RdRMGJU0
クラリスは呆然とした。
 
民衆の悪意を、あまりにも過小評価していた。

 
フレデリカは革命の指導者として

各国軍に引き渡され、処刑されることになった。

クラリスは市民達を、それ以上に己を呪った。


彼女はフレデリカのいる牢獄へ駆けた。

途中で靴が脱げて、それでも走って、

細くて美しい脚は土に汚れ、潰れ、血塗れになった。

その時クラリスが感じた苦痛は、フレデリカの苦痛であった。

抗うことさえ許されない状況で、最悪の現実と向き合うこと。

その現実から逃れるために、いとも簡単に他者を利用する

人間がいるということ。


だがクラリスがフレデリカと決定的に異なるのは、

彼女もまた、その無責任な人間の1人であるということだ。

それを自覚したからこそ、クラリスは牢獄へ向かった。


許されるつもりはない。ただ、そうしたかった。

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:20:14.79 ID:9RdRMGJU0
「Ça va ?」

 クラリスを見たフレデリカは、陽気に挨拶をした。

 しかし、厳しい拘束生活のせいか、目の下は隈ができ、

 美しかったはずの金髪は、見る影もなくやつれていた。

 クラリスは冷たい格子を握りしめた。

 どんなに力を込めても、なにも変わらない。

 ついには指から血が流れて、ぽたぽたと音を立てた。

 フレデリカは、自分の手をそこに重ねた。

 クラリスの涙が、2人分の手のひらの上に降り注いだ。


 クラリスは各国軍に対して、フレデリカの助命を乞うた。

 彼女は民衆によって、指導者に仕立て上げられただけに過ぎないのだと。

 

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:20:59.30 ID:9RdRMGJU0
 しかし軍人達はこう言った。

 すでにいない指導者のために民衆を突き回すのは“酷”だ。

 酷…? 残酷…?


15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:22:12.24 ID:9RdRMGJU0
フレデリカが処刑された時、クラリスは発狂した。


神はいない。罰はない。地獄もない。

ならば、自分がこの世に地獄を作ってみせよう。

彼女は憎悪する民衆を煽動し、フランスに新たな軍隊を作り出した。


そして自由、平等、博愛を掲げて、欧州の国々を蹂躙した。

おびただしい量の犠牲者が双方に出た。

それでもクラリスは走り続けた。


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/27(火) 00:22:43.48 ID:9RdRMGJU0
世界全てを、灰にするために。

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