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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:21:55.22 ID:t/HqCzT90
<公園>

男「──っくしゅん!」

男「くそっ、今年も花粉の季節がやってきたか……」ジュル…

男(花粉症になったのは数年前だけど、年々ひどくなっていくな)

男(去年まではマスクと薬局の薬でごまかしてたが)ジュルジュル

男(こりゃいよいよ耳鼻科に行かないとまずいかも……)

男(めんどくさいなぁ……この時期の耳鼻科って絶対混んでるだろうし)ジュルッ

男(どうするかなぁ……)




4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:22:51.11 ID:inXrava20
花粉少女警報




11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:39:59.31 ID:4Y4TjzvpO
>>4
あれエロいよな





6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:26:12.40 ID:t/HqCzT90
男(──にしても、こんだけ花粉症が蔓延してるってのに)ジュルッ

男(政府とかは花粉症対策とか全然やってないよな)

男(いや……やってはいるんだろうけど、少なくとも効果はないよな)ジュル…

男(たしかに命に関わる病気じゃないけど、絶対もっとちゃんと対策した方がいいって)

男(花粉症って経済とかに確実に悪影響与えてるもん)

男(だって、ひどい花粉症の人は5月くらいまで能力半減しちゃうだろ)ジュルジュル

男(ずっと鼻風邪引いてるようなもんだもんな)ジュルッ

男(もし花粉症がなくなったら、不況とかあっさり回復しちゃうんじゃねえの?)




7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:29:21.99 ID:t/HqCzT90
男(花粉症ってのは、ようするにスギ花粉が原因なわけだろ?)ジュルジュル

男(スギとか全部伐採しちまえばいいんだよ)

男(スギの伐採には人手がいるから雇用対策にもなるし)ジュルッ

男(花粉がなくなれば、花粉症の人が能力を落とすこともないわけだ)

男(もしかして、俺って天才なんじゃね?)ジュル…

男(……なぁーんてな。俺が思いつくことなんか、きっと誰もが思いついてんだろう)

男(スギ伐採終わったらその人どうするの、ってハナシだし)

男(いきなり大量の木を伐採したら、生態系とか絶対おかしくなるしな)ジュルジュル




8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:33:25.40 ID:t/HqCzT90
男(はぁ……ナッパになりたいな)ジュルッ

男(ナッパだったら、杉林の中でクンッってやって)

男(ズァオッ! ってスギを一瞬で全滅できるのに)ジュルジュル

男(こんな風に)

男「クンッ」クンッ

男「──くしゅっ!」ジュル…

男(やべーやべー、とうとう現実逃避まで始めちゃってるよ、俺)

男(でも、こんくらいしたくなるほど今年の花粉はひどいからな)ジュルッ

男(これというのも──)




10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:37:22.30 ID:t/HqCzT90
男「みんな、花粉が悪いんだ」

???「聞き捨てなりませんね!」

男「!?」

男「な、なんだ!?」ジュル…

男(今、たしかに女の子の声が──)

???「こっちです!」

男「君はいったい……?」ジュルジュル

花粉娘「私は花粉娘と申します。今の発言、聞き捨てなりません!」

男「花粉娘!?」ジュルッ




13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:42:39.50 ID:t/HqCzT90
男(なんか変なのに出くわしちゃったなぁ、どうしよ……)

男「え、と……今の発言ってのは?」

花粉娘「みんな花粉が悪い、という言葉です」

男「あぁ……だって俺、花粉症なんだもん」ジュル…

男「目はかゆいし、鼻水は止まらないし、最悪だよ」ジュルジュル

花粉娘「だからといって、花粉が悪いといわれるのは心外です」

花粉娘「なにも植物だって、人々を苦しめるために花粉を出してるんじゃありません」

花粉娘「生きるために花粉を出しているんです!」

花粉娘「なのに、一方的に私たちだけ悪いといわれるのは不愉快です!」

男(なんだよこの子、めんどくさいなぁ……)




15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:46:03.13 ID:t/HqCzT90
男「ちょっといいかい?」ジュルッ

花粉娘「はい」

男「私たちっていってるけど君は植物じゃないよね、人間だよね」

男「もしかしてお父さんやお母さんが、自然保護団体にでも入ってるとか?」

花粉娘「私は人間ではありませんよ」

男「え?」ジュルッ

花粉娘「きちんと正体も名乗るべきでしたね。失礼いたしました」

花粉娘「私は花粉の化身、花粉娘と申します」

男(花粉の化身……?)

男(この子、頭がおかしいのか? それとも俺がどうかしちゃったのか?)




16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:51:08.81 ID:t/HqCzT90
男「ごめん、花粉の化身ってのはどういうこと?」ジュルッ

花粉娘「説明するのは少々難しいのですが……」

花粉娘「花粉にも一粒一粒に意志といいますか、エネルギーが宿っています」

花粉娘「そのエネルギーの集合体、とでも考えていただければ分かりやすいかと」

男「なるほどねぇ」ムズムズ

男「──ぐしゅっ!」

男(ちょっと待てよ)

男(花粉症の俺が、花粉の集合体の近くにいたら……)

男(最悪じゃねえか!)




17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:54:31.30 ID:t/HqCzT90
男「あ、あのさ……さっきもいったけど俺、花粉症なんだ」ジュルジュル

男「だから花粉の化身である君といると、症状が悪化すると思うんだよね」ジュルッ

男「だからさ、花粉が悪いっていったのは取り消すから、俺から離れてくれないか?」

花粉娘「ご安心を」

花粉娘「私は花粉ではないので、花粉症が悪化することはありません」

男「そうなの?」ジュル

花粉娘「むしろ、私と触れていれば花粉に対する過敏反応は抑えられます」

男「え、マジで?」

花粉娘「はい」




18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 20:59:38.48 ID:t/HqCzT90
男「じゃあ試しに、君の肩に手を触れ──」

花粉娘「いきますよ」ギュッ

男「なっ──!?」

男(なんで抱きつくわけ!?)

花粉娘「どうです?」ギュウッ

男「………」

男「ホントだ。鼻水がピタッと止まって、目のかゆみもなくなった……」スースー

男(こりゃ、この子ホンモノなのかもしれない……!)




22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:05:21.85 ID:t/HqCzT90
男(しかも、なんだかいいニオイがするな……花の香りも宿してるのかな)クンクン

男(──って)

男「抱きつくのはやめてくれ! 恥ずかしいから!」

花粉娘「これは失礼しました」サッ

男「あ……」ジュル…

男「や、やっぱりくっついててくれないか」ジュルジュル

花粉娘「どっちですか」

男「じゃあ手を繋いでいいかい?」スッ

花粉娘「いいですよ」ギュッ




23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:07:10.02 ID:sd3FHFKoO
読んでたら鼻水でてきた




25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:12:13.12 ID:t/HqCzT90
男(手を繋いだ途端、さっきと同じく目のかゆみも鼻水も消えた……!)

男「とりあえず、君が花粉の化身だってのは信じるよ」

男「だが……いったいどうして俺の前に現れたんだ?」

花粉娘「私がこうして人の姿で具現化したのは、ある目的があるためです」

花粉娘「そして協力者を探していたところ」

花粉娘「あなたの“花粉が悪い”という発言を聞き、声をかけてしまいました」

男「目的って?」

花粉娘「はい、今年は花粉があまりにも異常発生しています」

花粉娘「その原因を突き止め、可能ならば発生源を断つことが目的です」

男「え?」

男(花粉の化身なのに、花粉の発生を食い止めに来た……ってどういうことだ?)




26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:15:30.89 ID:t/HqCzT90
男「花粉が多いのは、スギがいつもより多めにばら撒いてるだけのハナシじゃないのか?」

花粉娘「たしかに年によって花粉の多い少ないはありますが」

花粉娘「いくらなんでも今年は多すぎます」

花粉娘「スギ以外、つまり植物以外の力が働いているとしか思えないのです」

男「植物以外の力、ねぇ……」

花粉娘「自然の花粉が引き起こす花粉症ならまだしも」

花粉娘「なんらかの力が働いている花粉となると、話は別です」

花粉娘「この花粉の多さには、なにか悪意めいたものを感じるです」

花粉娘「そして、悪意に対する花粉の怒りが、私を具現化させたのです」

男(悪意、か……)




29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:20:02.44 ID:t/HqCzT90
男「──で、原因の手がかりはあるのかい?」

花粉娘「私には花粉の流れを察知する能力があるのですが」

花粉娘「まだ発生源を特定しきれてはいません」

男「………」

男「じゃあさ、俺に手伝わせてくれないか?」

男「協力者ってのにしてくれよ」

花粉娘「!」

花粉娘「……よろしいのですか?」

男「なんか面白そうだし、困ってる女の子を放っておけないよ」

男(こんなに劇的に花粉症を抑えてくれる手段を逃す手はないしな……)

男(たかが花粉の出所の調査だ、危険もないだろう)




30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:22:53.74 ID:t/HqCzT90
<アパート>

男「ま、入ってくれよ」

花粉娘「ありがとうございます。ご住居に案内していただけるとは」

男「気にしないでくれよ」

男(外で知らない女の子を連れ回して、犯罪者とかに思われたらイヤだしな)

花粉娘「お邪魔します」

男「花粉の化身ってのは、なんか食べたり飲んだりするのか?」

花粉娘「いえ」

花粉娘「ですが、できればお水を一杯いただければと」

男「あいよ」




32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:27:55.95 ID:t/HqCzT90
花粉娘「ところでこのゴミ箱、ティッシュの山になってますね」

男「ああ、今年の花粉症は特にひどくてなぁ」

男「鼻のかみすぎで、鼻の下なんか完全にかぶれちゃったよ」

男(もちろん、それ以外の用途のティッシュも入ってるが……いわないでおこう)

花粉娘「………」

花粉娘「やはり早急に解決せねばなりませんね」

男「っても、どうやって原因を突き止めるんだ?」

男「花粉の流れを察知する能力とやらで、パーッと見つけられないのか?」




35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:35:13.80 ID:t/HqCzT90
花粉娘「今日はよく晴れていて、自然の花粉も多いですからね」

花粉娘「こういう日に不自然な花粉の流れを見つけるのは、なかなか難しいんですよ」

花粉娘「かといって、雨の日だとまったく花粉が舞えないので、これも不可能です」

男「つまり、曇りの日が一番望ましいってわけか」

花粉娘「そうなりますね」

花粉娘「最近は曇り天気がほとんどなく、調査がはかどりませんでした」

男「……まぁ、俺も君と手を繋いでると花粉症が抑えられるし」

男「とりあえず、今日はここに泊まっていきなよ」

花粉娘「よろしいのですか? 実は私、住む場所にはけっこう困っていたんです」

男「ギブアンドテイクだよ。ただし汚い部屋で悪いけど」

男(出会ったその日にアパートに連れ込む、か……)

男(いつもの俺じゃ到底考えられない積極性だな)

男(まぁ、相手は人間じゃないんだがな)




36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:37:27.42 ID:t/HqCzT90
男「風呂とか入るんなら、入っていいよ。ただし狭いけど」

花粉娘「本当ですか!?」

花粉娘「では」シュンッ

男「わぁっ! な、なんで裸になるんだよ!」

男(服は自在に消したり着たりできるのか……!)

花粉娘「あなたは服のままお風呂に入るのですか?」

男「いや、そうじゃないけどさ……」

男「……と、とにかく早く入ってくれ!」

花粉娘「はいっ!」ウキウキ

男(どうやらお風呂好きみたいだな。しずかちゃんかよ……)




37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:40:17.01 ID:t/HqCzT90
男「ふぁ……ふぁっ……」

男「──くしゅんっ!」

男(そうだった、あの子と離れたら花粉症に戻っちゃうんだった)ジュルジュル

男(くっ……うっとうしいな)ジュルッ

男(早く上がってくれないかな……)チーン

ガラガラ……

男(お、上がったかな?)




39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:44:16.67 ID:t/HqCzT90
花粉娘「ふぅ~」ビショビショ

花粉娘「ありがとうございました」ビショビショ

花粉娘「ところで、なにか拭くものはありませんか?」ビショビショ

男「!?」

男「だからなんでその格好のまま……!」

花粉娘「これは失礼しました! 床に水を垂らしてしまいました!」ビショビショ

男(それもあるけど……そうじゃない!)

男「風呂場の前のタンスにタオル入ってるから、早く体拭いて、服着てくれ!」ジュルジュル




40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:48:05.62 ID:t/HqCzT90
花粉娘「ふぅっ」シュンッ

男「お、ちゃんと服を着たな。じゃあ手を繋がせてくれ」ジュル

花粉娘「あ、すいません。すぐに」ギュッ

男「ふぅ……涙と鼻水が止まった……」

花粉娘「花粉症というのは、それほどに辛いんですか?」

男「まぁね。だって数ヶ月、ずっとこんな感じなんだもん」

男「ひどい人は色んな花粉に反応するから、一年中こうだって人もいるらしい」

花粉娘「……すいません」

男「え?」




42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:52:26.41 ID:t/HqCzT90
花粉娘「それほどに辛いのなら、たしかに花粉が恨まれても仕方ないかもしれません」

男「おいおい、らしくないな。最初は聞き捨てならないっていってたのに」

花粉娘「しかし……」

男「大丈夫だって」

男「花粉が悪いっていったのは取り消すっていったろ?」

男「木が花粉を飛ばすなんてのは単なる自然現象なんだから」

男「俺だって、他人から呼吸するなっていわれてもどうしようもないし」

男「生きてたら、絶対誰かしらに迷惑かけるし、かけられる」

男「世の中ってのは、そういうもんなんだよ」




43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:56:49.59 ID:t/HqCzT90
男「気にするのは大切だけど、気に病むことはない」

男「せいぜい迷惑かけちゃってゴメンね、くらいでいいんだよ」

花粉娘「……ありがとうございます」

男「いやいや」

男(なにせ、俺もそこまで立派な人間じゃないからな)

男(ほとぼり冷めたら、また花粉にギャーギャー文句いうだろうし)




44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 21:58:31.43 ID:t/HqCzT90
夜──

布団の中でも手を繋ぐ二人。

男「天気予報見たら、明日は曇りみたいだ。チャンスかもな」

花粉娘「そうですね」

男「しかし、俺なんかが協力者で本当に大丈夫かな」

男「協力はするけど、期待はしないでくれよ」

花粉娘「そんなことありません」

花粉娘「あなたはとても頼りになる方です」

花粉娘「もし私が植物だったら、ぜひあなたの花粉を受粉したいです」

男(どういう意味だ)




45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:02:07.57 ID:t/HqCzT90
翌日──

男「おはよう」

花粉娘「おはようございます」

男「君のおかげで、久々に鼻水に悩まされず熟睡できたよ」

男「さて……予報通り、絶好の曇り天気だな。これならイケそうか?」

花粉娘「はい、この天候なら大丈夫だと思います」

男「じゃあ行くか」

花粉娘「はい!」




47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:07:05.60 ID:t/HqCzT90
<町>

男「どうだ?」

花粉娘「………」

花粉娘「自然な花粉の流れの中に、明らかに不自然な花粉が混ざっています」

花粉娘「これなら発生源を突き止められるハズです!」

男「よし、じゃあ行ってみるか!」

花粉娘「はい!」ダッ

男「あ、手を離さないでくれ。目がかゆくなってきた」ジュル

花粉娘「すいません、つい」




48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:09:59.09 ID:t/HqCzT90
<廃ビル前>

花粉娘「……ここです」

花粉娘「不自然な花粉の流れは、全てここから流れ出ています」

男「どう見てもスギが生えてるような場所じゃないよな」

男(なんか危険なニオイがプンプンしてきたんだが……)

男(大丈夫かなぁ)

男(まぁいいや、危なくなったら逃げりゃいいし……)

男「よし、入ってみよう」




49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:13:36.95 ID:t/HqCzT90
<廃ビル内>

花粉娘「こっちです」

花粉娘「かなり花粉が濃くなってきましたね」

花粉娘「気をつけて下さい。私と離れたら、多分すごいことになってしまいます」

男「ああ、分かった」

男(きっと目は、ほじくりたくなるほどかゆくなり)

男(鼻からは透明な鼻水がじゅるじゅる出るんだろうな……)

男(想像したくもない)




50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:17:08.04 ID:t/HqCzT90
花粉娘「あのドアの向こう……怪しいですね!」

男「いかにもって感じだな」

ガヤガヤ……

男「かすかに話し声が聞こえる」

男「いきなり突入するのも危険だから、まずはドアの前で盗み聞きしよう」

花粉娘「分かりました」

男(ビルの中から花粉をまき散らすなんて……いったいどんなバカだ?)




51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:21:43.45 ID:t/HqCzT90
<部屋の中>

ブオオオオオ……

粉末をビルの外にばら撒く大型機械。

中には耳鼻科、医療品メーカー社員、薬剤師がいた。

耳鼻科「今日も花粉の散布は順調だな」

メーカー「えぇ、これで我が社の花粉対策グッズの売上が伸びるでしょう」

薬剤師「薬局で花粉症の薬を買い求める人も増えますよ」

耳鼻科「ワシと薬剤師君で花粉の成分を研究し、疑似花粉を作り上げ──」

メーカー「私どもの工場で量産し、機械にてばら撒く……」

薬剤師「多少出費はかさみましたが、これならすぐ取り返せそうですね」




52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:25:21.81 ID:t/HqCzT90
耳鼻科「いやはや、花粉症は最高のビジネスだな」

耳鼻科「笑いが止まらんよ」

メーカー「まったくでございます」

メーカー「人が死ぬわけではないから、罪悪感もありませんし」

薬剤師「もはや花粉症は季節の風物詩ですしね」

薬剤師「つまり、ボクたちがやっていることは風流なのです」

耳鼻科「ハッハッハ、たしかに」

耳鼻科「目と鼻のかゆみで春の訪れを感じる……これもまた風流だな」

耳鼻科「もっとも、ワシらは花粉症を年中無休にするつもりだがね」




53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:30:36.76 ID:t/HqCzT90
<部屋の外>

男(今年の花粉症は特にひどいと思ったが、こいつらの仕業だったのか……)

花粉娘「許せません……!」ボソッ

男「え?」ボソッ

花粉娘「花粉を悪用して、人々を苦しめるだなんて……」ボソッ

花粉娘「絶対に許せません」ボソッ

男「気持ちは分かる」ボソッ

男「でも、今部屋に入るのは──あっ」ボソッ

ガチャッ

花粉娘は部屋に入ってしまった。




54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:33:08.69 ID:t/HqCzT90
<部屋の中>

耳鼻科「な、なんだ!? お前は!?」

花粉娘「私は花粉の化身、花粉娘と申します」

花粉娘「あなたがたの蛮行、見過ごすわけにはいきません!」

薬剤師「花粉娘……?」

メーカー「まぁたとえお嬢ちゃんといえど、秘密を知られた以上」

メーカー「生かして帰すわけにはいかないな」




55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:35:51.27 ID:t/HqCzT90
<部屋の外>

男(うわぁ、入っちゃったよオイ)ジュルジュル

男(しかも生かして帰すわけにはいかない、ってやばすぎだろ)ジュルジュル

男(どうする……?)ジュルッ

男(でも、花粉の化身っていうくらいだからきっと強いよな)

男(根拠は全くないけど……)

男(と、とりあえず外から様子をうかがうか……)ジュルッ

男(ごめんなぁ、でもケンカはしたくないし……)




56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:41:10.43 ID:t/HqCzT90
花粉娘の腕が、メーカー社員につかまれる。

花粉娘「放してっ!」ジタバタ

メーカー「いけないなぁ、お嬢ちゃん」バシッ

花粉娘「あうっ!」

メーカー「悪い子にはおしおきしないとね」グイッ

花粉娘「痛っ!」

花粉娘はあっさり押さえつけられてしまった。

メーカー「この子、どうします?」

薬剤師「顔を見られた以上、殺すしかないでしょう」

薬剤師「もしバラされたら、ボクたちは破滅ですよ」

耳鼻科「といって、ここで殺すわけにもいかんな」

薬剤師「ではボクの薬で眠らせ、さらってからどうするかを決めましょう」




57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:44:07.85 ID:t/HqCzT90
男(おいおい、強さは普通の女の子並かよ……)ジュル

男(このままじゃ……)

男(相手は三人もいるし、俺が出ていってもどうしようもないよな)ジュルジュル



花粉娘『あなたはとても頼りになる方です』



男「……くっ」

男(ええい、ままよ!)ガチャッ

男も部屋に入った。




58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:48:10.65 ID:t/HqCzT90
男「その子を、放せっ!」ムズムズ

耳鼻科「な、もう一人いたのか!?」

薬剤師「これは面倒な……」

メーカー「ご安心を。私は学生時代、柔道をやっていましたから」スッ

男「……くしゅっ!」

耳鼻科「ん? そうか君は花粉症なのか」

薬剤師「だったら花粉攻撃がよく効きますね」

ブオオオオオッ!

薬剤師は男に向けて疑似花粉を噴射した。




59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:51:33.95 ID:t/HqCzT90
男「うわあっ!?」

男「はーくしょっ! くしゅっ! ──くしゅっ!」

男(涙がボロボロ出て何も見えない……!)

メーカー「せやっ!」ガシッ

男「うおっ!?」

ズドンッ!

男は背負い投げされ、したたかに背中を打った。

男「はーくしゅっ、げほっ、がはっ!」ジュルジュル

花粉娘「ああっ!」

花粉娘(せめて、花粉症の症状だけでも抑えてあげないと!)

花粉娘は男にタッチした。




60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 22:56:14.93 ID:t/HqCzT90
花粉娘「大丈夫ですか!?」

男「ありがとう……!」スースー

耳鼻科「なんだと!?」

耳鼻科「花粉症の人間が至近距離であれだけ花粉を浴びたのに、症状が消えた!?」

薬剤師「どうやら、あの女の子にはなにか秘密がありそうですね」

薬剤師「さっき自分を花粉の化身とかいってましたし」

耳鼻科「………」

耳鼻科「これはあの二人、生かしておいた方がいいかもしれん!」

耳鼻科「メーカー君、薬剤師君の薬であの二人を眠らせてしまうのだ!」

耳鼻科「あの二人をいじくれば、花粉症の特効薬が作れるかもしれんぞ!」

耳鼻科「ふはは、もし花粉症の特効薬など作れたら、ノーベル賞モノだぞ!」

メーカー「はい、ぜひ特効薬の量産と販売は我が社と独占契約を!」

耳鼻科「むろんだ!」




61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:00:13.08 ID:t/HqCzT90
注射器を持ったメーカー社員が二人に近づいてきた。

男「ちょっと離れててくれ」

花粉娘「でも、私が離れたら花粉症が──」

男「大丈夫、考えがあるんだ」スクッ

メーカー「ふん、この俺と勝負をする気か? 大人しく眠らされておけ」

男「………」ジュルッ

メーカー「もう一度投げ飛ばしてやる!」ダッ

男「来た……」ムズムズ

男「へぇぇぇっくっしょんっ!」ブシュッ

メーカー「!?」




62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:04:18.06 ID:t/HqCzT90
メーカー「きっ、きたねぇっ!」

男「くしゅんっ! くしゅんっ! くしゅんっ!」

メーカー「ひいいいっ!」

メーカー(鼻水が目に入ったぁぁぁっ!)

男「お前ら三人とも、多分花粉に強い体質なんだろうな」ジュルッ

男「そうでなきゃ、マスクもつけずに花粉ばら撒きなんかやるはずがない」

男「でも、今だけは花粉症でよかったぜ!」ブンッ

メーカー「くううっ!」ゴシゴシ

鼻水まみれの自分の顔をこするメーカー社員に、男は右拳を叩き込んだ。

メーカー「ぐへぁっ!」ドザッ




63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:08:48.83 ID:t/HqCzT90
男(拳がいってぇ~! 全力で人を殴るなんて、子供の時以来だ)ジュルジュル

男(でも、倒せたぞ……!)ジュルッ

男(よほどいいところにパンチが当たったみたいだな。ラッキー)

男(まさか……死んでないだろうな?)

メーカー「うぅ……」ピクピク

男(よかった、死んではいなかったか)

薬剤師「くっ……」

耳鼻科「ふん、だったらもう一度花粉攻撃で──!」

ブオオオオオッ!




64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:11:40.17 ID:t/HqCzT90
花粉が男に撒き散らされる。だが、今度は平然としている。

男「残念だったな」

花粉娘「無駄ですよ」

花粉娘「私たち二人が手を繋いでいる限り、その攻撃は通用しません!」

男「さぁ、どうする」

耳鼻科「ぐ……」ジリ…

薬剤師「く、くそっ……」ガクッ

耳鼻科と薬剤師は腕っぷしに自信がないらしく、大人しく降参した。




65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:16:11.76 ID:t/HqCzT90
三人の悪党は、男の通報を受けて駆けつけた警官に逮捕された。

とりあえずは廃ビルへの不法侵入者という扱いで連行されたが、

おそらく疑似花粉をばら撒いていた罪も問われることになるだろう。

こうして人騒がせな花粉事件は幕を閉じた。

後のニュースで分かったことだが、

彼らの正体は傾きかけた医療品メーカーの社員と、客がつかない耳鼻科と薬剤師だった。

どうにか儲けたいが、同業者とまともに競い合って生き残れる自信もない。

ならば、世の中を患者だらけにしてしまえばいい。

年中花粉シーズンになれば、花粉症患者だらけになり儲かる、という発想だったようだ。




66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:20:35.00 ID:t/HqCzT90
花粉娘「……終わりましたね」

男「ああ」

花粉娘「ありがとうございました」

花粉娘「彼らをやっつけることができたのは、あなたのおかげです」

花粉娘「やはりあなたはすばらしい人でした」

男「よせよ、照れ臭い」

男「だが……君はこれからどうするんだ?」




67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:25:03.13 ID:t/HqCzT90
花粉娘「私は不自然な花粉を許さないという、花粉の意志が具現化した身です」

花粉娘「役目を果たした以上、もうここにとどまる理由も時間もありません……」

男「そ、そうか……」

花粉娘の姿が少しずつ薄れてゆく。

花粉娘「最後に……」スッ

男「え?」

チュッ




68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:27:08.64 ID:t/HqCzT90
男「………!」

花粉娘「口づけで、私のエネルギーをあなたに送りました」

花粉娘「これでもう、あなたが花粉に悩まされることはありません」

男「……ありがとう」

花粉娘「短い間でしたが、楽しかったです」

男「俺もだよ」

男「……もう会えないのか?」

花粉娘「……分かりません」

花粉娘「でも、もしまた具現化できたら、真っ先にあなたに会いに行きます」

男「ハハ、楽しみにしてるよ」




69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:32:06.48 ID:t/HqCzT90
男「花粉娘!」

花粉娘「!」

男「君と出会えてよかった。これはなにも、花粉症が治ったからじゃない」

男「純粋に……君という存在と出会えてよかった」

男「そして君と出会えたのは、花粉のおかげだ!」

男「今度はもっと穏やかな用件で具現化できることを祈ってるよ」

男「必ず……また会おう!」

花粉娘「……はいっ!」




70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:36:05.85 ID:t/HqCzT90
花粉娘は消えた──

男「………」

男(なんだか、夢みたいな二日間だったな)

男(だが──現実だ)

彼女のいったとおり、男の花粉症は治っていた。

男「スゥ~ハァ~……」

男(もう目はかゆくないし、鼻水も出ない……)

男(……ありがとう)

男は空気中を漂う花粉の中に、かすかに花粉娘の温もりを感じた。




71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:39:57.25 ID:t/HqCzT90
数日後、男は知人に問われた。

そういえばお前は花粉症だったはずなのに、なんで平気でいられるのかと。

なにかいい薬か治療法があったのかと。

男はこれに、少し寂しさが漂う笑顔で答えた。

男「みんな、花粉のおかげなんだ」





<おわり>




72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 23:43:06.50 ID:EnfdgReQ0
なかなかよかったよ>>1