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前スレ:http://ss-station.2chblog.jp/archives/3861931.html
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 22:55:37.83 ID:WAsYkgFtO
ー前回のあらすじー

魔王の呪いにかかった勇者は、魔王のことを好きになってしまったのであった。

だが、自分を好み、讃える勇者の姿が自分の術によった造られた演技であることに気付いた魔王は勇者の笑顔に顔に心を痛む。

やがて耐えられなくなってしまった魔王は勇者に自らの命を捨てることを命ずるが、

何の迷いもなくそれを実行する勇者の姿を見て改心。

勇者の道具のうちにあったせかいじゅの葉で勇者を活かせ

それから二人での生活が始まるのであった

…のだが…





5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:03:01.35 ID:FMkwu98T0
それから一ヶ月の時間が経った。



魔王「お主、今日の朝食のサラダに変なものが混ざっていたのだが」

勇者「あ、それ、せかいじゅの葉なんだけど」

魔王「」

勇者「なんか、残ったの水に入れてたら葉から根が育ったから」

勇者「そのまま他の野菜と一緒に裏庭に置いたら育った」

魔王「せかいじゅは木ではなかったのか?」とんだ生命力だな

勇者「さあ?」人を復活させられるだけはあるね




6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:05:22.03 ID:FMkwu98T0
魔王「しかし、贅沢な使い方だな。サラダにせかいじゅの葉を入れるなど」

勇者「以外とおいしいよ。ちょっと苦味はあるけど」

魔王「ふむ、たしかに悪い感じではなかった」

魔王「しかし、今思えばお主も変なやつだな」

魔王「一人旅でせかいじゅの葉など使うことはできないだろうに」

魔王「何故そんなものを持っておったのだ」

勇者「知らない。ボクは買ってないよ」

勇者「あ、多分ママが最初の時にかばんに入れておいたのかも」




8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:07:38.05 ID:FMkwu98T0
魔王「お主、母が居るのか?」

勇者「当たり前だよ。ママが居ないとボク産まれていないもん」

勇者「ママはね、とても優しい人だよ」

勇者「旅始まる時も、痛いのにボクのために村の出口の丘でボクが見えなくなるまでずっと手を振ってくれたの」

魔王「母が病気なのか?」

勇者「うん」

勇者「凄く治りにくい病気で、村のお神父さんも治すことが出来ないって言って…」

魔王「せいかいじゅの葉を使えばいいじゃないか」

勇者「無理だよ」

勇者「せかいじゅの葉はその人が死ぬ前の状態に戻すだけだもん」

勇者「病気を持ったまま死んだら、せかいじゅの葉を使っても病気にかかってるままだよ」




9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:13:23.92 ID:FMkwu98T0
魔王「そうなのか」

魔王「じゃあお主、長く母のことは会っていないのだな」

勇者「うん」

勇者「旅始めてから帰ったこともなかったら」

勇者「……もしかしたら…」

魔王「早まるな」

魔王「ここでお主の母の様子を見てみよう」

勇者「え、でもどうやって」

魔王「余を誰だと思っている」

魔王「魔王に不可能なことなどおらぬのだ」




10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:14:34.34 ID:FMkwu98T0
魔王「この水晶玉でお主の母の姿を見てみよう」

勇者「おお、すごいね!」

魔王「水晶玉よ、勇者の母の姿を余に見せよ…!」



勇者「あ、ママ!」

母(水晶玉の中)『けほっ、けほっ、勇者……』

勇者「……ママ?」

母『勇者……先生、勇者はまだ帰って来ませんか?』

医者『もうすぐ帰って来るでしょう』

医者『きっと魔王を倒して堂々と母親の元で戻ってくるはずです』

母『魔王なんてどうなっても良いです』

母『どうせもうすぐ死ぬ身ですから』

母『せめて死ぬ前に……けほっ、けほっ!』

医者『母さん、しっかりしてください!』




11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:16:55.08 ID:FMkwu98T0
魔王「(しまった、コレ以上見せては…)」スッ

勇者「ママ!!」

魔王「…」

勇者「……ママ」

魔王「……」

勇者「」

魔王「勇者」

勇者「うん、なに、魔王ちゃん」

魔王「…帰りたいか?」




12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:19:37.11 ID:FMkwu98T0
魔王「母の居る所に帰りたいか?」

勇者「…ボクは魔王ちゃんのこと…」

魔王「以前余が二番目かもとか言っておったな」

勇者「…」

魔王「一番目なのがお主の母か」

勇者「…ボクが一番好きなのは魔王ちゃんだよ?」




13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:22:29.37 ID:FMkwu98T0
魔王「それはわかっておる。だが、お主は今は葉に会いに行きたいのだろ」

勇者「そんなこと…!」

魔王「お主が余を好きになったのは余がそんな風になる呪いをかけたからだ」

魔王「お主は実は余のこと好きではない」

勇者「そんな……ちが…うよ…」

勇者「ボクは魔王ちゃんのこと大好きだよ……」

勇者「どうしてそんなこと言うの?」




14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:25:18.94 ID:FMkwu98T0
魔王「それは分かった」

魔王「だが、お主の母も大事だ。そうであろう?」

勇者「ボクは……」

勇者「……ボクはここに居た…い…?」

勇者「…でもママがボクに会いたいって……」

勇者「うぅ…」ウルッ




15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:25:48.29 ID:FMkwu98T0
魔王「泣くな」

魔王「何度言わせればわかるんだ。お主は余の下僕だ」

魔王「魔王の下僕が涙など流すでない」

勇者「ごめんなさい…でも、…なんか、良くわからなくて…」

魔王「(余の術のせいで勇者の心がごちゃになっておる)」

魔王「(実は帰りたいはずなのに、余の呪いがその心を抑えている)」

魔王「(このままでは勇者の心が持たぬ)」

魔王「命令だ、勇者」

魔王「母の元へ帰れ」




18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:28:29.18 ID:FMkwu98T0
勇者「え?」

勇者「でも、そしたら魔王ちゃんが…」

魔王「余は寛大だ」フッ

魔王「有休と思って行ってくるが良い」

勇者「……」

魔王「余が命じる。行って母にあってくるが良い」

勇者「…ありがとう、魔王ちゃん」

勇者「ボク絶対帰ってくるから」




22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:33:07.24 ID:FMkwu98T0
魔王「行ったか」

魔王「…静かになるな」

魔王「…ふっ、何を寂しがっているのだ、余よ」

魔王「人間の生など儚いものよ」

魔王「増してや病に落ちてる女」

魔王「数カ月もあれば息を絶つだろう」

魔王「そしたら勇者も帰って来……」

勇者「魔王ちゃん」

魔王「いや、幾ら何でも早すぎるだあろ」




23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:33:30.99 ID:FMkwu98T0
魔王「何故もう帰ってきた」

勇者「え?……あれ?」

魔王「あれ?ではない。余の命令に逆らうつもりか」

勇者「ち、違うよ。ちゃんと外に出たもん」

勇者「でも、なんか気がついたら戻ってきてて」

魔王「…何?」




25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:35:25.35 ID:FMkwu98T0
魔王「何を馬鹿なことを言っている」

勇者「ご、ごめん、じゃあほんとに行ってくるね」

五分後

勇者「魔王ちゃん!」

魔王「……」

勇者「…あれ?」カシゲ

魔王「お主、ちょっと余と一緒に行こう」




26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:36:11.67 ID:FMkwu98T0
魔王城の門の前

魔王「出てみろ」

勇者「うん」

勇者「……」



勇者「はっ!」

勇者「なぜまた外に…」

勇者「はっ!魔王!」

勇者「良くもボクのことを騙したね!」シャキン

魔王「…まさかとは思ったが……」




27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:38:40.09 ID:FMkwu98T0
魔王「余の呪いはやはり失敗だったのか」

魔王「余の呪いはこの城の中でしか効果がないというのか」

魔王「だから外に出た瞬間、余の下僕になっていた記憶を失いまた普通の勇者に戻ったのだ」

魔王「そして余を殺すために城内に戻るとまた余の下僕としての勇者になる」

勇者「なにをぶつぶつ言っているんだ」

勇者「さっきのような卑怯な手には乗らないよ」

勇者「行くよ、魔王」

魔王「取り敢えず城に入ってこい」




28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:39:43.43 ID:FMkwu98T0
勇者「…あれ、ボク…」

魔王「……」

勇者「魔王ちゃん、ご、ごめんなさい」

勇者「ボク、なんかおかしくて…」

魔王「もう良い、勇者」

魔王「お主のせいではない」

魔王「余がヘタレなせいだ」

勇者「魔王ちゃん?」

魔王「…もう母の所には行くな」

魔王「ここでその生命が絶つまで余と一緒に過ごすのだ」




29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:42:09.62 ID:FMkwu98T0
勇者「……うん」

勇者「ボクも魔王ちゃんと一緒なら嬉しいよ」

勇者「ずっと…ずっと魔王ちゃんの側に居るよ」

魔王「……」

勇者「…魔王ちゃん?」

魔王「…疲れた、寝る」

勇者「まだ日も高いよ?疲れたの?」

勇者「じゃあ、ボクが…」

魔王「付いてくるな!」

勇者「…!」ビクッ

魔王「…独りにさせてくれ」




30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:42:46.29 ID:FMkwu98T0
勇者「…魔王ちゃん」

勇者「ボクが怒らせたかな」

勇者「ボクが魔王ちゃんの言うことちゃんと聞かないから……」

勇者「…ママ……」

勇者「会いに行きたくないわけじゃない」

勇者「でも…魔王ちゃんと…」

勇者「……分からない」

勇者「ボクどうすれば…」




31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:46:03.74 ID:FMkwu98T0
魔王「簡単な話だ」

魔王「呪いが解けた状況の勇者は余を倒す前には母の所には戻らんだろう」

魔王「だったらなんか空間転移魔法などで勇者を始まりの村まで送れば良い」

魔王「…でも、そしたら勇者は余に負けたと思ってそのまま戻って来なくなるかもしれない」

魔王「余に従順な勇者はこの城の中だけの存在だ」

魔王「一度余から離れた勇者が余の元に戻ってくる可能性は……」

魔王「極めて低い」




32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:46:46.41 ID:FMkwu98T0
魔王「そんなのは嫌だ」

魔王「この城で勇者は余のものだ」

魔王「何故奴の母などのために余が勇者を放してくれねばならん」

魔王「余は魔王ぞ」

魔王「余が好きなようにすれば良いのだ」

魔王「余が好きなように……」




33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:49:10.42 ID:FMkwu98T0
勇者「なんで?」

勇者「なんで何度やっても戻ってきちゃうの?」

勇者「わからないよ…!」

勇者「ちょっとだけママに会いに行くだけで良いんだよ」

勇者「それからすぐに戻ってきたら良いんだよ」

勇者「どうしてそれが出来ないの?」

勇者「…あ」




34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:50:41.99 ID:FMkwu98T0
勇者「魔王ちゃん」

魔王「独りにさせろと言ったはずだが…」

勇者「村に戻れる方法を思いついたよ」

魔王「!」

勇者「これ」

魔王「……キメラのつばさか」




35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:51:41.23 ID:FMkwu98T0
勇者「これもママからもらって一度も使ったことなかったよ」

勇者「これがあったら、一気にボクが出発した村まで戻れるよ」

魔王「…でもそれって復活の呪文を使った所に行くものじゃなかったのか?」

勇者「え、…ボク死んだことないよ?」

魔王「……」

勇者「え?」

魔王「それはもう良い」




36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:52:39.22 ID:FMkwu98T0
魔王「でも、そうだとしても、それを使うことは許可できぬ」

勇者「え?」

魔王「聞こえなかったか?」

魔王「お主を帰らせぬといってるのだ」

魔王「お主はずっと余と一緒に居ろ」




37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:54:14.47 ID:FMkwu98T0
勇者「……うん、分かった」

魔王「…」

勇者「ボクずっと魔王ちゃんと一緒に居るよ」ニコッ

魔王「(余は余の好きなようにしたのだ)」

魔王「(喜ぶべきだ)」

魔王「(なのに何故奴の笑顔を見るだけで胸を刺さるように痛む)」




39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:56:57.25 ID:FMkwu98T0
勇者「魔王ちゃん?」

魔王「…疲れた、風呂に入る」

勇者「あ、うん、すぐに準備するよ」

魔王「……」

勇者「(魔王ちゃん、怒らせちゃったかな)」




40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:59:03.77 ID:FMkwu98T0
かぽーん


魔王「はぁ…」

魔王「流石勇者だな」

魔王「余が好む水の温度にぴったり合わせておる」

魔王「……勇者は余のために何でも出来るというのに、余は勇者を死にかけの母に合わせることも出来ぬというのか」

魔王「余が如何にも無能であるか証明しているというものよ」

魔王「…勇者……」

勇者「呼んだ?」

魔王「ひああああ!!」




41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/08(木) 23:59:49.90 ID:FMkwu98T0
魔王「お、お主!」

勇者「お湯はどう?」

魔王「だ、大丈夫だ。というか、いつから入ってきた」

勇者「ついさっき…背中洗ってあげようと思って」

魔王「お主のそういう気の利く行動力がたまにとても気に障るのだ!」

勇者「……ごめんなさい」シュン

魔王「へこむな!」モウ




42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:00:39.39 ID:H8el1tLF0
魔王「もう良い。さっさと洗ってさっさと出ろ」

勇者「う、うん」

魔王「……」

魔王は勇者に背中を見せて座ったまま後ろをちらっと見た。

勇者は風呂場に入るために大事な所以外の服を全部に脱いでいた。

勇者の傷だらけの体が丸見え。最初に見せることを拒んでいた勇者の姿はもうない。




43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:01:56.56 ID:H8el1tLF0
魔王「(勇者は余に会うためにどれだけ厳しい旅をしていたのだろうか)」

魔王「(病の母も放っておいて余を殺すため、人間どもの平和にするためと旅を始めたというのに)」

魔王「(今じゃ余の下僕)」

魔王「(奴の母が知ったら今にでも自殺するであろう)」

魔王「(余の歪んだ感情がすべての元凶というわけだ)」

勇者「水で流すね」チャバー

魔王「うむ、ご苦労だった」




44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:03:57.34 ID:H8el1tLF0
勇者「じゃあ、ボクはもう行くよ」

魔王「まぁ、待て」

魔王「せっかく入ってきたのだ」

魔王「お主の背中を余直々に洗ってやる」

勇者「え?」ビックリ

魔王「何を驚いておる。よもや余に背中を見せるのが嫌だとでもいうのか」

勇者「ううん!そんなことないよ」

魔王「なら良い。さっさと背中をこっちに向け」




46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:05:02.89 ID:BnT7Cfjz0
なにこの魔王可愛い




48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:06:52.39 ID:H8el1tLF0
勇者が恥ずかしながら背中を向くと、魔王は勇者が持っていた道具で勇者の背中を洗い始める。

勇者「っ!!」

魔王「どうした!」

勇者「う、ううん、なんでも…ない」

魔王「…?」




49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:08:34.25 ID:H8el1tLF0
魔王「(ちょっとくすぐったかったか?)」

魔王「こ、これぐらいなら良いか」

勇者「ぼ、ボクは、だ、大丈夫だよ」ビクッ

魔王「もうちょっと優しくしなきゃならないのか」コシコシ

勇者「ひぃっ!」

魔王「(…まさか)」




50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:10:06.76 ID:H8el1tLF0
魔王「もしや、お主余が洗ってあげるので感じておるのか?」

勇者「……」ビクンビクン

魔王「(これは好機だ)」

魔王「(いつも勇者のマッサージには世話になったのだ)」

魔王「少しぐらいは仕返しをせねばな」

魔王「ここか?」

勇者「っ!」

魔王「ここが気持いいのか?」

勇者「や、やめ……っ!」ビクッ




51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:11:10.79 ID:H8el1tLF0
勇者が両手で口を塞ぐのを見て、魔王はおもしろがってもっと手に力を入れた。

魔王「くくく、お主も駄目だな」

魔王「余にコシコシしてもらうのがそんなに気持ちよかったのか?」

勇者「…!!……!!」

魔王「ほら、口を開けてもっと喘ぐが良いぞ」

魔王「余にその声を聞かせてみろ」コシコシ

勇者「いぃ……」

勇者「ぃっ……た……」

魔王「?」




52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:12:41.04 ID:H8el1tLF0
魔王「!」

勇者「…ぁあ……い……たい…」ガタガタ

魔王はその時気づく。

勇者の体は傷だらけであった。

繊細さとは破片もない魔王の荒い洗い方のせいで、

もともと傷だらけだった勇者の背中の傷口が開いたのである。

そのうちいくつかは、魔王が知らぬうちに血が流れていた。




53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:14:22.27 ID:H8el1tLF0
魔王「だ、大丈夫か、勇者!」

勇者「……!!」

勇者は涙を汲んだ目で何も言えずに魔王を見ていた。

魔王「!余が悪かった」

魔王「取り敢えず水で流すぞ」チャバー

勇者「…あうっ!!!!」ビクン

魔王「!」

まおうは どうよう している ▼




54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:16:08.32 ID:H8el1tLF0
魔王「大丈夫か!」

勇者「だ……大丈夫…だから」

魔王「早く!……どうすればいいのだ」

勇者「大丈夫だから…薬草塗っておいたらすぐに治るよ」

魔王「薬草か。分かった。余が持ってくるから…」

勇者「良いよ。ボクがすれば良いから」

魔王「しかし…!」

勇者「大丈夫だよ。魔王ちゃんは安心してお風呂済ませて」

魔王「勇者…!」




55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:18:23.65 ID:H8el1tLF0
魔王「行ってしまった…」

魔王「…余は…」

魔王「そんなつもりでやったわけではない…」

魔王「勇者…」

魔王「っ!」イラッ

魔王が苛立って叩きつけた拳に、風呂場の壁に風穴が開いた。




58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:20:45.22 ID:H8el1tLF0
勇者「いつつ……」

勇者「やっぱり背中はうまく手が届かない」

勇者「魔王ちゃんに手伝ってもらえば良かったかな」

勇者「でも…コレ以上魔王ちゃんに迷惑かけるわけにも…」

勇者「機嫌直して欲しくてやったのに」

勇者「どうして我慢出来なかったの」




59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:23:16.02 ID:H8el1tLF0
魔王「勇者」

勇者「あ、魔王ちゃん」

魔王「…これをどうすればいいんだ」

勇者「だ、大丈夫だよ。自分で…」

魔王「やらせろ」ペチッ

勇者「!……魔王ちゃん、怒ってるの?」

魔王「そうだ。余は今怒っている」

魔王「お主に何もしてあげられない己に猛烈に怒っておるのだ」




60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:24:08.47 ID:H8el1tLF0
魔王「お主は余のために何でも尽くす」

魔王「なのに余は、お主の背中を流すこと一つも、お主を母に合わせてやる至極簡単なことさえもできぬのだ」

魔王「そんな余の不器用さと利己心が嫌でたまらん」

勇者「…魔王ちゃん…」

魔王「だから、余にもなにかやらせてくれ」

魔王「何でも良い。お主から余にして欲しいことを…」

魔王「お主にしてあげれることを教えてほしい」




61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:26:13.52 ID:H8el1tLF0
勇者「…じゃあ、魔王ちゃん」

勇者「ちょっと、調子に乗った話だけど…言っていい?」

魔王「…今の余は寛大だ」

魔王「余に出来ることならやってやる」

勇者「じゃあ…魔王ちゃんにボクが命令します」

勇者「泣かないで」

勇者「これから一生、魔王ちゃんが泣くことを禁じます」




62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:26:59.78 ID:H8el1tLF0
魔王「……」ボロボロ

そう言われて、魔王はやっと自分が泣いていたことに気づいた。

勇者「ボクの大切な魔王ちゃんはいつ如何なる時でも幸せでなければならない」

勇者「ボクは魔王ちゃんが笑って居られるためなら何でも出来るけど」

勇者「ボクのせいで魔王ちゃんが泣いてしまったら」

勇者「ボクは悲しくて死んでしまいそうになるの」

勇者「だから…魔王ちゃんは泣いたら駄目」




63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:29:02.22 ID:H8el1tLF0
魔王「…分かった」

魔王「お主のその願い、しかと承った」

魔王「勇者よ。余もお主に頼みがある」

勇者「魔王ちゃんのお願いなら、ボクなんでも喜んでするよ」




64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:30:48.16 ID:H8el1tLF0
魔王「…お主の母に会ってこい」

魔王「そして、余と約束しろ」

魔王「絶対に帰って来い」

魔王「どれだけ時間が経っても構わない」

魔王「余は寛大だからな。人間の儚い人生など待ってやれる」

魔王「だから、絶対帰ってこい」

魔王「お主がどれだけ余を待たせようが許してやろう」




65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:39:07.96 ID:5agB9YXd0
>>64
いい展開




66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:40:38.02 ID:H8el1tLF0
勇者「…魔王ちゃん?」

魔王「余は魔王ぞ」

魔王「お主が村に帰ってしまったら新しい勇者どもが来るじゃろう」

魔王「余はお主が来るまで他の勇者に負けないようにしなければならぬ」

魔王「だから、出来るだけ早く気づいて帰って来るが良い」




70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:47:39.68 ID:H8el1tLF0
勇者「…魔王ちゃん」

勇者「絶対に帰ってくるよ」

勇者「ボクは魔王ちゃんおこと大好きだから」




71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:49:23.12 ID:H8el1tLF0
勇者「…うん?」

勇者「ここは…!」

勇者「魔王!」

勇者「…どこに行ったんだ」

勇者「ここって…ボクが住んでいたの村…」

勇者「魔王城の前に居たはずなのに、どうしてここに…」




72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:51:11.62 ID:H8el1tLF0
勇者「また魔王の魔法にでもかかったのかな?」

勇者「何かの幻覚?」

勇者「あ、ボクのかばんになんか付いてあるよ」

『勇者よ、見よ

お主は余に負けた

だが、余は寛大だからな

お主を殺さず帰らせてやったのだ』




74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:53:36.36 ID:H8el1tLF0
『お主には確か病にかかった母が居たな

お主は覚えてないかも知れぬが、生きて母に会いたいと言ったのはお主だ

もう勇者としての使命など忘れて、後は母を保養しながら生きるが良い

もう二度と勇者として余の前に現れるな

これが余がお主に与える最後の慈悲だ』




76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:56:02.94 ID:H8el1tLF0
勇者「…どういうこと?」

勇者「どうして魔王がボクのママのことを知っているの?」

勇者「しかもボクがママに会いたいを魔王に言ったなんて…」

村人A「!おい、勇者、勇者じゃないか!」

勇者「!」

村人A「おい、皆、勇者が戻ってきたぞ!」




77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 00:58:58.56 ID:H8el1tLF0
村人B「勇者!」

村人C「勇者が生きて帰ってきたのか」

勇者「村のおじさんたちが迎えに来てる」

村人A「遅かったじゃないか、勇者よ。お前の母さんがお前のこと毎日探してんだぞ」

勇者「ママが…?」

村人B「魔王はどうしたんだ、勝ったのか?」

村人C「阿呆、そんなこたぁどうでもいいだろ!取り敢えず無事に帰ってきたお祝いだ!村長に知らせねば」

村人A「家に帰ってみろ、勇者。お前の母さんがお前のこと早く見たがってるはずだ」




79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:01:27.14 ID:H8el1tLF0
家の前

勇者「いつぶりだろう…」

勇者「旅を始めた時にはこんなに長くママと離れているとは思ってなかったのに…」ガチャ

医者「!勇者!」

勇者「お医者先生」

医者「か、母さん、勇者の母さん!勇者が帰ってきましたぞ!」

母「勇者…勇者が…!」

勇者「ママ…!」




82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:03:31.25 ID:H8el1tLF0
母「勇者!」

勇者「ママ!」

勇者はベッドの上のママに行ってその胸に顔を埋めた。

母「勇者……やっと帰ってきたのね」

勇者「ママ…会いたかった」

母「ええ、ママも勇者に会いたかったわよ」




83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:05:03.64 ID:H8el1tLF0
勇者「ママ、大丈夫?」

勇者「前より元気ないよ」

母「ママは大丈夫だよ」

母「勇者が帰ってきたんだから」

母「もうすぐにでもまた外にも出られる」

勇者「…!」

勇者「外に出られないほど酷くなったの…?」




84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:08:18.10 ID:H8el1tLF0
勇者「医者先生」

医者「…勇者、少し外で話そうか」

勇者「…はい、ママ、ちょっと待ってて」






医者「勇者、君が旅を始めて間もなくして、君の母さんの状態は以前より更に悪化した」

医者「君が居なくなったことと、もう会えないかも知れないという不安感が病を悪化させたのだろう」

勇者「でも、ボクもう帰ってきたよ?。それで良くなるんじゃあ」

医者「そう簡単なもんじゃない」

医者「君の母さんはもう病に勝てるほどの体力もあまりのこってない」




85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:09:48.27 ID:H8el1tLF0
勇者「じゃあ…」

医者「…三ヶ月、長くても半年って所…だろうか」

勇者「そんな…!」

勇者「なんとかならないの?」

医者「すまぬな、勇者」

医者「君に君の母さんを任されていたものを…私に出来ることはあんまりなかった」

勇者「……」




86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:11:19.91 ID:H8el1tLF0
勇者「……ママ」

母「勇者」

勇者「……」ニコッ

勇者「ボクもうどこにも行かないよ、ママ」

勇者「ずっとここに居るから」

勇者「だからママも元気出して」

母「ええ、勇者も帰ってきて、ママもう元気いっぱいよ」

勇者「……ママ」ぎゅーっ




87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:13:09.67 ID:H8el1tLF0
村長の家

村長「そうか…帰ってきたのか」

勇者「はい」

村長「良いことじゃ。君の母さんは君がなければ何にも出来ない人だったからのぅ」

勇者「勇者になんて…行くんじゃなかったよ」

村長「仕方のないことだったんじゃ」

村長「王族の神託は絶対だからな」




88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:14:42.67 ID:H8el1tLF0
勇者「…おじいちゃん、ボク、もうここに残るよ」

勇者「魔王を倒す勇者なんてボク以外にも沢山あるけど」

勇者「ママを守れるのはボク独りしか居ないよ」

村長「…そうじゃな」

村長「お主のその体を見ると、きっと辛い思いも沢山したじゃろう」

村長「もうお主も子供ではない。自分の考えで自分の道を選ぶと良いのじゃ」




90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:17:46.34 ID:H8el1tLF0
勇者「ありがとう、おじいちゃん」

勇者「お医者先生はあと半年だって言ってたけど…」

勇者「例えそうだとしても、ボク最後までママの側に居てあげたいと思うよ」

勇者「それからは……」

勇者「……」

勇者「…またその時に考えるよ」




92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:20:36.53 ID:H8el1tLF0
勇者『ママ、ボクがマッサージしてあげる』

母『ええ、勇者の肩揉まれるのもほんと久しぶりね』

勇者『明日どこか出かけようか。村長おじいちゃんから車椅子もらって来たから』

勇者『ボクがどこでも連れてってあげるよ』

母『外の風にあたったのも結構久々だね』

母『でも、勇者が帰ってきてくれたことが一番嬉しいわ』

勇者『…うん』



魔王「……」

魔王「…これで良かったのだ」




93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:32:52.09 ID:H8el1tLF0
魔王「今の勇者にここで余と過ごした記憶はもうない」

魔王「勇者が戦うことを諦めたなら、もう余の前に現れる理由はないであろう」

魔王「でも例えそうだとしても……」

魔王「勇者はきっと帰って来る」

魔王「余とそう約束したからな」

魔王「勇者は…絶対に帰って来る」

魔王「だから……」

魔王「余は勇者を信じて、ただ待っていれば良いのだ」

魔王はそう言いながら、水晶玉を壊した。

魔王が本当に勇者を信じていたかどうかは分からない。

だけど、どっちにしろ、

勇者が母と愉しげにしているその姿を見るのが、魔王として辛かったであろうことは確かだった。




95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:38:08.56 ID:H8el1tLF0
魔王「もう本当に余一人だけの城になってしまったな」

魔王「新しくメイドでも雇おうか」

魔王「…いや、勇者が帰ってくるまで、自分で料理の一つや二つ出来るようにするのも悪くないだろう」

魔王「余がやれば何でも出来ると勇者に証明してやる」

魔王「火を使うなど、メラゾーマを出すよりも簡単なことではないか」



この後、魔王城で小さな爆音が聞こえるが、大した問題じゃないのでここでは割愛しよう。




96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:40:34.65 ID:H8el1tLF0
一年後、


勇者「くっ!なんて強さだ!」

僧侶「勇者さま、今すぐホイミを…」

魔王「させぬぞ!」

僧侶「きゃーっ!」

勇者「僧侶!」

僧侶「……」

勇者「くっ!魔王、これ程の強さだとは…」




97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:42:28.74 ID:H8el1tLF0
魔王「うむ、余は魔王だからな。これぐらい当然であろう」

魔王「でもお主らもなかなか強い」

魔王「余が相手した勇者パーティのうち二番目に強かったぞ」

魔王「賞賛に値するぞ、二番勇者」

二番勇者「変な呼び方をするな!」




98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:45:04.35 ID:H8el1tLF0
二番勇者「しかも二番目だと」

二番勇者「俺たちは王国から選別された最高クラスのパーティだ」

二番勇者「俺たちより強い勇者パーティがあるはずが…」

魔王「人間どもも甘くなったものよ」

魔王「パーティなんざ組んで余に挑んでは、」

魔王「そのか弱い力で人間の中で一番強いパーティだと?」

魔王「お主らが人間の最強の者どもだとすれば」

魔王「余はさっさと人間どもを駆逐せねばならぬな」




99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:47:05.92 ID:H8el1tLF0
魔王「だが安心せよ」

魔王「余は寛大だからな」

魔王「しかも、一番強い勇者との約束もおる」

魔王「ほれ」

勇者「な、何だ、これは…せかいじゅの葉!?」

魔王「それでさっさとお主の仲間たちを復活させるが良い」

勇者「どういうつもりだ」

魔王「もう勝負はついたのだ。お主らの負けでな」

魔王「余の最後の情けだ。さっさと仲間たちを復活させてここを立ち去れ」




102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:49:15.27 ID:H8el1tLF0
二番勇者「…仲間たちをこれで復活させてからやすやすと帰るとでも思ってるのか」

魔王「帰らないのならまた付き合うまでだ」

魔王「だが、その時も余の寛大さがまだ残っておるとは思うな」

二番勇者「…!」ゾク

二番勇者「…僧侶、しっかりしろ」

僧侶「うん…勇者…さま」

盗賊「くっ、頭が痛い」

魔法使い「ちょっと、これってどういうこと?」




104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:51:49.00 ID:H8el1tLF0
魔王「そう、そう、忘れておったな」

魔王「そのせいかじゅの葉。まさかたタダと思ってはおらぬだろうな」

二番勇者「!…何をするつもりだ」

魔王「別に何も、ただ聞きたいことがあるだけだ」

魔王「ここまで来る時に、独り旅をする勇者の噂を聞いたことはおらぬか?」

僧侶「独り旅をする勇者…?」




105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:53:42.11 ID:H8el1tLF0
二番勇者「…いや、聞いたことない」

僧侶「私も聞いてません。盗賊さんと魔法使いさんは」

盗賊「ねーな」

魔法使い「私もないわ」

魔王「……そうか」

魔王「ならもう用はない。さっさと帰れ」

僧侶「どうしてですか?」

僧侶「どうして我々をこのままかえしてくれるのですか?」

僧侶「魔王の前では…」

魔王「魔王の前では逃げられぬとな」




106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:54:55.56 ID:H8el1tLF0
魔王「これが最後の戦いであるならそうだろうな」

魔王「これが魔族と人間の未来を賭けた戦いであるならそうであるべきだろう」

魔王「でも、これはそういう戦いではない」

魔王「魔族と人間の戦い。魔王と勇者の戦いはもうとっくに勝負はついた」

魔王「余の勝ちでな」

二番勇者「なんだと!」




107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:57:18.78 ID:H8el1tLF0
僧侶「しかし、それならどうして今でも勇者がここに送られてくるのを黙認するのですか」

僧侶「どうしてこのまま戦い続けるのですか」

魔王「…余はある勇者を待っておるのだ」

魔王「余が相手していた一番強い勇者をな」

魔王「余を何度も二度も泣かしおったあの不忠な奴を探すまでは」

魔王「人間どもを蹴散らすのは後回しだ」

魔王「分かったならさっさと帰れ」

魔王「余は疲れたのだ」

魔王「風呂に入ってさっさと寝る」




108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 01:59:00.59 ID:H8el1tLF0
風呂場

魔王「あつっ!」

魔王「むむ…今度は熱いではないか」

魔王「何度やっても余が好む温度のお湯にならぬ」

魔王「まったく、使えぬお風呂じゃ」

魔王「はぁ…勇者が用意してくれたお湯が恋しいな……」

魔王「……今度は温い」




109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:00:10.23 ID:H8el1tLF0
魔王「しかしアレじゃな」

魔王「半年ぐらいしたら戻ってくると思っておったのに」

魔王「一年も経っても帰って来ぬとは」

魔王「全く余をどれだけ待たせれば気が済むのだ」

魔王「幾ら余が寛大であるとしても」

魔王「少し余の心を試しすぎなのではないか」




110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:02:12.96 ID:H8el1tLF0
魔王「……」チィー

魔王「あれ、ひっくり返せない」

魔王「フライパンにくっついた」

魔王「ええいっ!いつになったら余はちゃんとしたオムレツが食えるようになるのだ」

魔王「……はぁ…」




111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:03:51.95 ID:H8el1tLF0
魔王「…まる焦げだ」

魔王「…いい加減、新しい侍女を雇うか?」

魔王「いやいや、それは余の最後のプライドだ」

魔王「余は勇者が帰ってくるまで待つぞ」




113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:09:30.68 ID:H8el1tLF0
魔王「……なんでこのベッドはこんなに広いんだ」

魔王「無駄に大きすぎるのだ」

魔王「これが全部先代魔王たちが節操なくやりまくったせいだ」

魔王「…ベッドも新しいのに替えようか」

魔王「…二人用のベッドで十分だろう」

魔王「…いや、寧ろ一人用に替えよう」

魔王「そしたら二人くっつけて寝られる」

魔王「うむ、余ながら良い考えだ」




114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:12:12.25 ID:H8el1tLF0
三番勇者「一人旅をして居た勇者だと…?聞いたことがある」

魔王「!」

三番勇者「確か一年ぐらい前に突然自分の故郷にぽつんと戻ってきていたとか」

魔王「そいつだ!」

魔王「あの勇者は今何をしている!」

三番勇者「さあ、そこまでは…」

三番勇者「ただ聞く話だと」

三番勇者「王に勇者の任から外された後、村で好きだった娘と結婚して普通に生きてるらしいが」

魔王「……なに?」




115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:13:38.12 ID:H8el1tLF0
魔王「嘘だ……」

魔王「そんなの嘘に決まっておろう」

魔王「余との約束はどうしたのだ」

魔王「余という女がありながら他の女を娶ったとでも言うのか?」

魔王「余の元に必ず戻って来ると言ったであろう!」

魔王「……」

魔王「勇者」




116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:18:14.15 ID:H8el1tLF0
三番勇者「…ま、…魔王?」

魔王「許さんぞ」

魔王「余を放っておくなど」

魔王「余は絶対許さんからな!」

魔法使い「っ!」

商人「この魔力、さっきわたしたちと戦ってた時よりも強くなっていますぞ」

三番勇者「不味い。皆防御を…」

魔王「……」ヒクッ

魔王「……勇者のうそつき!!!」




118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:21:19.28 ID:H8el1tLF0
魔王「余をほうっといて他の女とイチャイチャするのか」

魔王「余はお主と会う日のために」

魔王「毎日オムレツ作る練習も欠かさず」

魔王「お主が育てた世界樹もちゃんと育てて」

魔王「シングルサイズのベッドも買って待っているというのに!!」

魔王「お主は余なんか忘れて人間の女と幸せそうにしてるのか!」




119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:23:09.34 ID:H8el1tLF0
魔王「もう良い!」

魔王「余もお主との約束なんて知らぬぞ!」

魔王「もうずっとお主に会いたくて我慢していたというのに」

魔王「もう我慢なんてせぬぞ」

魔王「泣いちゃうぞ」

魔王「余はもう疲れたのだ」

魔王「泣きたいのをずっとずっと我慢して」

魔王「勇者が来たら笑顔を迎えようと思ってたのに」

魔王「勇者は……勇者は……」ウルッ




120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:24:31.18 ID:H8el1tLF0
「魔王ーーー!!!」

魔王「…!!」

三番勇者「何だ、この声」

魔法使い「外から聞こえてる」

「魔王、出て来いよーー!!」」




121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:25:28.30 ID:H8el1tLF0
魔王「…!!」

その声を聞い魔王は三番勇者のパーティをほったらかしにして外に向かった。

三番勇者「ちょっ、魔王が!?」

商人「どういうことでしょう」




122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:27:02.78 ID:H8el1tLF0
魔王城の手前

魔王「!!」

勇者「……」

魔王「勇者…」

魔王「…この裏切り者!!」

魔王「余を放っておいて他の人間の女を娶って…」

魔王「何をしに来た!」

勇者「他の女娶るって…ボク結婚なんてしてないんだけど」

魔王「…ふえ?」




123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:28:37.45 ID:H8el1tLF0
魔王「し、しかし、さっきここに来た勇者が…」

勇者「そういえば、隣の街の勇者だった人が結婚したって話あったけど」

勇者「多分その人なんじゃないかな」

魔王「そ、そうなのか……良かった……」

魔王「…いや、待て」

魔王「お主、まだ城の外におるな」

魔王「ならまだ余の呪いがかかってないはず」

魔王「どうやって戻って来たのだ」




124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:30:29.62 ID:H8el1tLF0
魔王「母はどうした」

勇者「…ママは一ヶ月前に死んだよ」

勇者「医者先生が言ってた倍は生きたし、笑ってるまま逝った」

勇者「ボクがここに来たのは、これを見たからだよ」

魔王「それは……」

勇者「ボクが昔旅してる時につかっていたかばんに」

勇者「魔王が書いたのとは別の手紙が入れてあったんだ」




125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:32:32.79 ID:H8el1tLF0
『ボク自身に

これを読んでるボクは…きっとこれを書いてる覚えがないと思うよ。

でも、ママが亡くなって、

もう人間たちの間でやり残したことがなくなったと言うなら

ボクのこのお願いを聞いて欲しいよ』




126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 02:34:35.04 ID:H8el1tLF0
『魔王ちゃんは凄く良い子だよ

これを読んでるボクが魔王ちゃんを憎んでいるとしても、

魔王ちゃんはそんなに悪い子じゃないよ

ボクがボクであるまま魔王ちゃんと一緒に居た時、

ボクはとても幸せだったよ

ママのことも大切だったけど、ほんとのことを言ったら、

ボクはママよりも魔王ちゃんの側に居たかったよ

ママがボクのことを必要としているみたいに、魔王ちゃんもボクのことを必要としているよ』




131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:01:23.04 ID:H8el1tLF0
『だから、もしママが死んで全部終わったと思うのなら

この体を…ボクを魔王ちゃんの所にかえして欲しいよ

魔王ちゃんは優しい子だから、もう人たちを苦しめることなんてしないよ

もう勇者と魔王ちゃんが戦うこともないよ



ボクに魔王に呪われて生まれた歪んだ存在だと言っても構わないよ

でも、それでも魔王ちゃんのことが好きだよ

今これを読んでる勇者のボクがママのことが大切だったように

ボクも魔王ちゃんのことが大切だから

だから、お願いだよ

ボクを呪わせて』




134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:04:53.37 ID:H8el1tLF0
勇者「ボクはもう勇者ではないよ」

勇者「ママもなくなったから、ボクはもう辛くて辛くて…たまらなかったよ」

勇者「ママが居ない世界なんて、もう生きたくないと思ってたよ」

勇者「なのにコレを見つけた」

勇者「最初は迷ったけど、魔王に聞いて決めることにしたよ」

勇者「魔王は……ボクのことが必要なの?」




135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:07:23.03 ID:H8el1tLF0
魔王「必要よ」

魔王「…凄く、必要だ」

魔王「勇者がなかった一年間、勇者が隣で居て欲しいと思わなかったことなんてなかった」

魔王「勇者が居ないと、何をやっても元気が出なかった」

魔王「勇者は…勇者は余にとって全てだ」

魔王「だから、返して欲しい」

魔王「余の勇者を」

魔王「余だけの勇者を…」

魔王「早く……余だけの勇者を返してくれ…」ボロボロ




137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:08:54.94 ID:H8el1tLF0
勇者「……」



勇者「……魔王ちゃん、泣いてる?」

魔王「…!」

勇者「ボクと約束したのに…」

勇者「絶対泣かないって約束したのに…」

魔王「お主のせいだ。馬鹿者」

魔王「遅すぎるのだ」

魔王「余がどれだけ待っていたか解っておるのか」

勇者「ごめんなさい」

勇者「でも、ボクも魔王ちゃんにまた会えて凄く嬉しいよ」




138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:10:24.72 ID:H8el1tLF0
魔王「もう…余から絶対離れるでないぞ」

魔王「良いな」

勇者「うん」

勇者「約束するよ」

勇者「いつまでも、ずっとずっと魔王ちゃんの側に居るよ」

勇者「大好きだから」

魔王「うむ」

魔王「余も大好きだぞ、勇者」



終わり




139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:11:23.09 ID:7DPn0Nme0
良かった、乙!




140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:12:16.01 ID:H8el1tLF0
眠い、もう寝る。

誰だよ、こんな夜遅くまでこんなスレ読んでる奴ら。

ありがとう、大好きだよ。

外人だから色々おかしな誤字脱字あったかもしれないけど大目に見て欲しい




141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:13:28.95 ID:iq63vzDuO
良い




144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:18:46.39 ID:jhIsU35p0
おつ
これ呪いを受け入れちゃったってこと?




145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:22:26.08 ID:H8el1tLF0
>>144 受け入れたというよりは
自分(元の勇者)はしたいことは全部成し遂げたから
もう一人の自分(呪い中の勇者)のお願いを聞き入れたってことで…

まぁ、結果的には呪いを受け入れたってことでオッケーだね。
呪い中の勇者の思考は完全に魔王ちゃん中心なのでそれが呪いとも思わない。
自分が本当に魔王ちゃんのことが好きでここに居ると思っている。




146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/09(金) 03:26:30.66 ID:jhIsU35p0
>>145
トンクス
認識は間違っていなかったようだ
多少、モヤッとする最後だったんだな